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2010年1月29日

サイバー戦争は始まっている (2)

 27日付の『ヘラルド朝日』紙に載った解説記事には、「アメリカはサイバー攻撃時代の抑止を探究する」(U.S. seeks deterrents in an era of cyberattacks)という題がついている。副題は、「国防総省による詳細な研究は、敵の特定と反撃が抱える複雑な問題を示す」である。この副題の中に、サイバー攻撃を抑止することの難しさが凝縮して表現されていると思う。読者にはまず、現代のサイバー攻撃で何ができるかを知ってほしい。
 
 この記事には、攻撃対象に考えられるものとして、送電システム、通信システム、金融システムの3つが挙げられている。今年1月11日の朝、米国防総省の指導者たちは、これらに対するサイバー攻撃を受けた際の対応を詳しく検討したらしい。その結果わかったことは、サイバー空間では敵を特定することができないため、報復攻撃をすると脅すことで、敵のさらなる攻撃を効果的に抑止する方法はないということだった。さらに悲観的な結論は、敵が特定できなければ、国防総省は報復攻撃を行う法的権限をもたないということだった。サイバー攻撃は、単なる個人による破壊活動なのか、商業上の秘密を盗むためなのか、あるいは米国社会の機能麻痺をねらった国家やテロ集団による攻撃なのかを判別することができないという。だから、国家防衛を任務とする国防総省は報復攻撃の可否を一元的に決定できないのだ。
 
 インターネットは、今や軍事と民間の境界なく、社会のあらゆる部門で使われているため、攻撃を意図する側は、軍事対象や政府機関のコンピューターにまったく“手”を触れずに--例えば、信用取引市場を機能不全に陥れることで--国家機能を麻痺させることができる。ということは、たとえ国防総省にサイバー攻撃やその抑止のための高度な技術が備わっていても、大統領の命令がなければ、軍は動けないし、攻撃があったと知ることもできない可能性があるのである。事実、今回のグーグルへのサイバー攻撃は、グーグル自身がそれを察知し、米政府に報告したことで初めてそれが認知されたという。それができたのは、グーグルがこの分野でトップクラスの技術をもつ企業だからで、そうでない企業のコンピューターが侵入された場合は、被害は比較にならないかもしれない。また、今回の攻撃では、グーグル以外の30を超える企業のコンピューターが何者かに侵入され、その攻撃の軌跡をたどったグーグルの技術者は、攻撃源が台湾に置かれた7つのサーバーであることを突き止め、さらにそれらのサーバーには、中国本土から操作されていたことを暗示する“足跡”が残されていたという。

 この事件が起こったのが、国防総省のシミュレーションとほぼ同時の11~12日であり、それから約1週間後にクリントン国務長官の先の演説が行われた。この中で同長官は、「国家や、テロリストたち、そしてそれらの周辺で行動する者たちが知らなければならないのは、アメリカは自国のネットワークを必ず護るということだ」と断言した。同長官は、中国が攻撃の背後にあるとは言わなかったが、中国政府が「徹底的な調査」を行い、その過程と結果とが「透明性のあるものである」ことを強く望んだ。この演説に関連して、親日家でもあるハーバード大学のジョセフ・ナイ教授(Joseph S. Nye, Jr.)は、上掲の記事の中で「我々は今や、ソ連が核爆弾を持った1950年代初期と同じ段階にある」として、サイバー攻撃の抑止は、「核抑止と同じ形になることはないが、クリントン長官が言っていることを聞けば、攻撃者に対して大きな代償を作り上げようとしていることが分かるだろう」と言っている。

 さて、これらの事実をどう読むかが重要である。アメリカでは私企業のいくつかのコンピューターにハッカーが侵入したため、国務長官が大げさに反応したという見方もできるかもしれない。私も当初、そんな印象をもっていた。しかし、グーグル以外にハッカーの侵入をうけた企業がどこであるのかは、発表されていない。なぜだろうか? それが大手通信会社であったり、金融機関であったり、電力会社だった場合、どう考えたらいいのだろうか? そういう企業を30社以上も同時に攻撃できる者を、単なる個人的マニアだと考えるべきか。それとも、何か大きな、アメリカにとって好ましくない意図をもった団体や組織だと考えるべきか。今回の事件では、アメリカは後者の可能性が大きいと考え、国務長官の厳しく、明確なメッセージを出すべきだと考えたのだ。これに対して、中国政府は大きく反発し、自分たちが関与していないと否定した。しかし、アメリカが要請した「徹底的調査」や「過程の透明性」については沈黙を守っている。そこで、業を煮やしたオバマ政権は、台湾に対してミサイル防衛システムを含む高度な防衛機器を輸出する考えを表明したのではないか。ナイ教授は、このことを「攻撃者に対して大きな代償を作り上げようとしている」と論評している--そういう見方ができるのだ。

 つまり、我々は今、サイバー戦争の始まりを見ていると考えられるのである。
 
 谷口 雅宣

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コメント

核抑止論が下火になっても、新たな戦争が始まるということは、人間の心を改めない限りは争いは形を変えて続くのでしょう。

生命の実相に「生長の家ではそうおめでたく外形の改造による救済力を信じない」(第3巻)という文章があったのを思い出しました。心が先で形は後、ということは自分でもつい忘れてしまうのですが。

真理を様々な角度からお説き下さり、とても勉強になります。感謝申し上げます。

感謝合掌

投稿: 加藤裕之 | 2010年1月30日 01:15

加藤さん、
 コメント、ありがとうございます。

 中国政府はどうも“性悪説”をとっているので、人間の自由な活動を規制することを重視していると思われます。「規制によって善が生まれる」という考え方は、インターネットと相容れないので、今後もいろいろ問題が起るような気がしています。

投稿: 谷口 | 2010年2月 2日 13:34

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