難産だった「コペンハーゲン合意」
11月15日の本欄で「森の大切さ」について書いた時、今回のコペンハーゲンでの第15回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)は難航するだろうと予測した。これは“大方の予測”がそうだったからだが、これほどの“難産”とは思わなかった。幸いなことに、18日になって行われた各国首脳クラスの直接協議で、「合意なし」という最悪の事態は避けられた。そして、ここで大筋が了承された「コペンハーゲン合意」が、総会でも「留意する」ことが合意されたらしい。こうして、法的義務がない“政治合意”に達したが、2020年までの各国の温暖化ガス削減目標の決定など、具体的な諸方策は先送りされた。
上掲の本欄でも触れたが、その原因は、いわゆる“先進国”と“途上国”との利害の対立である。温暖化の責任は先進諸国の経済活動だから、それによって生じる温暖化ガスをまず先進国が劇的に減らすべきだ、というのが途上国の考えである。これに対して先進国は、温暖化ガスの削減はもちろん自ら行うが、今後は中国やインドなどの新興国の経済発展が急速に進むのだから、それらの国も排出削減の義務を負わなければならない、と主張する。ところが、それらの新興国は、自分たちの経済発展を妨げるような排出削減の義務は、不公平であるから負えないとして、法的な拘束力をもつ削減目標を拒否している。
この基本的な立場の違いを埋めるために、2つの方策が提案された。1つは、先進国から途上国への技術支援であり、もう1つは経済支援である。この場合の技術支援とは、エネルギー効率を高めたり、非化石エネルギーを利用する技術を、先進国から途上国へ移転するためのもので、経済支援とは、それらに必要な資金や、気候変動によって生じる災害を防いだり、被害を救援するための資金だ。日本を含む先進諸国は、この2つを実施する代わりに、途上国に排出削減の義務を負わせようとした。が、この試みは不成功に終った。
今日(19日付)の『朝日新聞』によると、18日の首脳クラスの非公式協議でたどりついた“政治合意”の主な内容は、①気温上昇は2℃以内に抑える、②各国は来年1月末までに、2020年の削減計画をリスト化し目標とする、③途上国は隔年で削減の取組み状況を国連に報告、④途上国支援は、2012年までは年100億円、2020年時点では官民合計で年1千億ドル、というもの。
2020年までの温暖化ガスの中期削減目標の決定が来年に延ばされたことにより、「2020年までに1990年比で25%削減」という日本の中期目標は、宙に浮いた形になった。というのは、この目標は、「米中など主要排出国も含めた削減合意が達成されるならば」という条件付きだったからだ。そのため、日本経団連や自民党などは、今後きっと「日本だけ突出するな」と言って、この高い目標を下ろすように鳩山政権に強力に迫るだろう。が、私は、今は「突出すること」に意味があると思う。これは、「高い削減目標を掲げ続ける国が先進国の中にもある」ということを、中国やインドなどの新興国や、すでに温暖化の被害を被っている最貧国に示すためだ。そうすれば、新興国は削減への圧力を感じ続けるし、最貧国は日本の“誠意”を読み取ってくれるだろう。そして、日本経済を化石燃料を使わない“地上資源型”へと急速に転換していってほしいのである。
谷口 雅宣
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