小中高生の“問題行動”
今日の新聞各紙は、文部科学省が各地の教育委員会を通じて毎年行っている「児童生徒の問題行動調査」の昨年度の結果を大きく取り扱っている。『朝日新聞』の見出しは「小中高生の暴力6万件、08年度3年間で7割増」で、『産経新聞』のそれは「暴走中学生」「暴力行為激増、小学生も最多」であり、これだけを見れば“大事件”のように感じる。
リード文も、見出しに負けずにセンセーショナルだ。『朝日』は「児童生徒の暴力行為は5万9618件と、前年度比で13%増、7千件増えて過去最多を更新した」と書き、さらに「学校別では小学校で24%増、中学校で16%と著しい。報告件数はこの3年間で1.75倍になった」としている。『産経』のリード文は、「平成20年度は5万9618件で前年度より11.5%増え、小学校、中学校ともに過去最多だった」とし、続けて「特に中学生は初めて4万件を超えるなど増加が目立った」と書いている。
これだけ読めば、両紙の読者はきっと「ああわかった。全国の小中学校で暴力事件が急増しているのだ」と思うだろう。ところが、記事の隅まで読んでみると、それほど明確な数字ではないことがわかる。『朝日』の解説記事によると、06年度の調査は、05年度とはやり方が違うというのである。それを同紙はこう書いているーー「いじめできめ細かな報告を求めたのにあわせ、文科省が暴力についても行為の軽重を問わず報告を求めたことが背景にある」。これで06年度の数値が前年比で一気に32%も増えた。だから、「3年間で7割増」とか「1.75倍」というのはゲタを履かせた表現なのだ。
ところで、暴力行為の件数が1年間で「約6万件」というのは、とんでもない数のように聞こえないだろうか? 私も第一印象としては「ずいぶん多い」と感じた。しかし、今回の調査対象となったのが全小中高校「約3万9千校」であると知れば、1校当たり年間に「1.5件」の割合である。もちろん、学校で暴力行為などないに越したことはない。が、私が子供の頃を振り返ってみると、乱暴な生徒はいたし、ケンカもあった。暴力行為とはどこまでを言うかにもよるが、1校年間「1.5件」がとんでもない数字かどうかは、議論の余地があるように思う。
では、暴力ではなく、イジメの統計はどうなっているかというと、「8万4648件で、前回から約1万6千件、16%の減」(『朝日』)なのだ。これは、大きな改善と言えないだろうか? 『産経』はこれに加えて、「いじめ件数は減少する一方で、いじめを認知した学校数も同6.9ポイント減って40%」と書いている。つまり、全体の6割の学校ではイジメはなかったということだ。うれしい話ではないだろうか。
ほかにも“明るいニュース”はある。それは、高校で暴力行為が減ったことだ。これは、前年度比で3%減であり、実数では356件減だ。また、自殺も減った。児童生徒の自殺は、前年度から23人減の136人だった。これは割合にすると14.5%だから「大幅の減少」と言っていいだろう。
私はここで、「新聞はウソを伝えている」と言いたいのではない。また、「学校教育の現場に問題はない」と言っているのでもない。ただ、「改善している点は、そう伝え」「統計上に比較できない点があれば、そう伝える」のが正しいジャーナリズムの姿勢ではないか、と言いたいのだ。また、学校からは生徒の暴力やイジメをできるだけ減らすべきだ、ともちろん思う。さらに本当に言いたいのは、「よい点を認めて強調することで社会はよい方向へ進む」ということだが、これは恐らく日時計主義を理解する人にしか分からないだろうから、今のマスメディアにはあまり期待していない。
谷口 雅宣
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コメント
総裁先生
ありがとうございます。
教育現場には様々な問題はありますが,マスコミが騒いでいるほど深刻だとは捉えておりません。
児童・生徒の問題行動だけでなく,教職員の不祥事も以前よりずっと減少しているというのが現場から見た事実です。ただ,教育現場や職員に対する“世間の目”が厳しくなり,一部の職員の不祥事に対してマスコミがことさらに騒ぐため,「教職員の質が低下した」と多くの人は捉えてしまうのではないでしょうか。真面目に務めている者にとっては迷惑な話です。
また,今の教育現場では,「子どものよいところを認め励まして伸ばす」というまさに日時計主義の教育が定着しつつあることも,教育関係者でない人々にも,ぜひとも理解していただきたいと考えております。
投稿: 佐々木 | 2009年12月 2日 22:14
佐々木さん、
コメント、ありがとうございます。
>>「子どものよいところを認め励まして伸ばす」というまさに日時計主義の教育が定着しつつある<<
それは知りませんでした。大変、勇気づけてくれる言葉です。ついでに「日時計主義」という言葉も定着すればいいですネ。
投稿: 谷口 | 2009年12月 3日 13:49
ありがとうございます。私は最近、同じニュースを伝えるにも良い部分(明るい部分)を合わせて伝えているメディアもあり嬉しく思う時もあります。これからも多くの方に日時計主義の生活の素晴らしさを伝えていき全てのマスメディアが明るい部分を多く伝える時が来る日を楽しみにしたいと思う次第です。
投稿: 山本 | 2009年12月 3日 14:40