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2009年10月11日

グーグルのブック検索

 インターネット検索最大手のグーグル社(Google)は、その莫大な資金力と斬新な発想を後ろ盾にして次々と“常識”や“前例”を書き換えているが、その業務の中で私が気になっているものがある。それは「グーグル・ブック検索」(Google Books Search)というサービスだ。これは、書籍をスキャンして内容を電子情報化し、それをパソコンレベルで検索/閲覧可能にしようというものである。その規模は“世界的”である。つまり、これまで全世界で出版されたすべての本を対象としてるように見える。「見える」と書いたのは、グーグル自身はそれをハッキリ言わないからだ。が、グーグル・アースやグーグル・ストリートビューなど、これまで彼らが開発してきた新サービスを見ていると、やりだしたことは全世界で徹底してやる会社だから、きっとそれが目標だと思う。
 
 このサービスが実現すれば、昔の絶版本や再販未定本がいつでも手軽に読めるから、利用者にとっては、大変便利になる。が、本の著作者にとってはショッキングな計画だ。私のようなもの書きにとって不安なのは、彼らが著作者や著作権をあまり重視しないように思える点だ。

 言うまでもなく、本には著作権がある。これは、1冊の本を書くのに費やされた著作者の労力や工夫、金銭的負担、学芸的価値などを認め、それを保護するためのものだ。これが保護されず、ある本の一部が、著作者に無断で別の本の一部を構成していたり、小説の主人公の名前が違うだけで、その他の登場人物やプロット、文章表現などのすべてが別の小説と同一であったりしたら、これは著作物の“盗作”であり、盗作者は、著作者よりはるかに楽に、また安価に“著作物”(と言うべきかどうか疑わしいもの)が書ける。盗作者は努力をせずに、著作者の創意や工夫を自分のものとすることができ、本来ならば著作者に行くべき本の印税も、盗作者に行くことになる。これでは、努力して著作物をつくることがバカらしくなるから、優れた著作物をつくろうとする人はいなくなり、つまらないモノマネや、インチキ研究ばかりが社会に氾濫する。文化や学問は衰退するばかりだ。
 
 だから、米国出版社協会(AAP)と米国著作者協会(AG)は2005年、「著作権で保護されている書籍をスキャンしてデータベース化する行為は著作権侵害に当たる」として集団訴訟を起こした。そして昨年、①アメリカにおいて著作権が保護されている書籍、②著作権が失効している書籍、③著作権は保護されているが絶版となり、著作権保有者が見つからない書籍、の3分類に入る書籍を対象に、グーグルの業務を容認する代りに、売り上げを分配するという和解条件(PDF)で合意した。ただし、裁判所でのこの和解内容の審理はまだ終っていない。この和解は、アメリカ国内だけのように見えるが、国外の本も事実上の対象となる。なぜなら、日本やヨーロッパで出版された書籍も、アメリカの図書館などに大量に所蔵されていて、万国著作権条約によって上記3分類のいずれかに含まれると考えられるからだ。

 著作物の盗作の問題は、もちろんグーグル発足以前からある。が、電子情報時代の盗作は、個人のパソコンを使って簡単にできる。昔のように本を見ながら一文字一文字を書き写す必要はなく、数回のキー操作によって何十ページもの複製が数秒でできる場合もある。だから、そういう方法で新聞記事や文学作品が書かれた著作権法違反事件が、日本でも近年増えつつある。グーグルのブック検索が、そういう方向に世界を牽引していかないかどうか、が私の心配である。
 
 谷口 雅宣

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コメント

総裁 谷口 雅宣先生
合掌 ありがとうございます。

この度は、大変興味深いご教示をありがとうございました。
私事ながら、以前からGoogle Booksを活用させていただいております。
必要な書籍は“My library”へ保管出来るなど利便性が高く感謝しております。
総裁先生のおっしゃる通り、今後、著作権をはじめとする知的財産権が
最も重要になると思われます。
万人が知財関連法に関心を持つべき時代が到来しつつあることから、
私も、常に情報モラルに敏感でありたいと考えるものでございます。
いつも斬新で展望性のあるご文章を、心より感謝申し上げます。
ありがとうございます。   
                                  再拝
<参照URL>
*Google ブックス-schenker H (活用例でございます。)
http://books.google.co.jp/books?q=schenker+H&as_brr=3&lr=&sa=N&start=10
*WIPO - World Intellectual Property Organization.
http://www.wipo.int/portal/index.html.en


投稿: Mifumi Kawabe | 2009年10月12日 22:16

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