紙を使わない出版 (3)
本格的な電子ブックが、いよいよ日本でも使えるようになる。米ネット通販最大手のアマゾン・ドット・コムが、アメリカで成功している電子ブック端末「キンドル」(=写真)を日本を含む100カ国以上で発売する、と発表したからだ。いわゆる“電子ブック”は、日本でもかなり前からパソコン用として流通しているが、本の読み方としてはまだまだ一般的でない。それに、持ち運びが不便である。また最近では、携帯電話で読む“ケータイ小説”が若者の間ではずいぶん人気のようだが、それを単行本化して売っているのだから、“本命”は紙の本なのだろう。また、私のような中高年には、ケータイの画面は小さすぎる。そこへ、縦20㎝、横13㎝、厚さ9㎜で、重さ約290gの「キンドル」(約25,000円)が参入することで、日本の電子本環境は大きく変わる、と私は思う。
実は、ソニーも「リーダー」という電子ブック端末を欧米では出していて、2006年以来、累計で40万台を売っている。日本では2004年に販売を開始したがうまくいかず、3年後に撤退した。「キンドル」は2007年の発売から2年間で50万台を売ったとされる。10月8日の『朝日新聞』によると、ソニーは「キンドル」の上陸を機会に「リーダー」の日本での再発売を検討しているそうだ。
今回の「キンドル」では、しかし日本語の本は読めない。8日の『日本経済新聞』によると、アマゾンCEO、ジェフ・ベゾス氏は、「キンドルで日本語を読むための技術開発にも取り組んでいる。端末を各国で普及させることで、現地でのコンテンツ配信が展開しやすくなる」と言っているが、「日本語の電子書籍の配信開始時期などは現時点では言えない」としている。
私にとっては、それでもキンドルは利用価値が充分あると感じる。というのは、私は毎日、『ニューヨークタイムズ』の国際版である『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』(『ヘラルド朝日』)を読み、英語の雑誌や書籍も読むからだ。これらが紙の本や雑誌より安く、早く手に入るだけでなく、すべて1台のキンドルの中に納まってしまうということになると、無関心ではいられない。蔵書スペースの節約と、持ち運びの便利さは紙の「書籍」の比ではない。ちなみに、キンドル1台の中に収納できる情報は、普通の単行本1500冊分という。
本欄には過去2回(2008年1月28日と本年3月10日)、「紙を使わない出版」という題で本の電子化の動きについて書いたが、これは“文書伝道”を旗印にしてきた生長の家の布教活動とも大いに関係がある。来年から登場する新しい普及誌では、紙の雑誌の上だけでなく、インターネット上の電子情報と連動した編集と出版が行われる。これによって読者は、紙の雑誌より多くの情報を得られるだけでなく、情報の流れが「一方通行」から「双方向」に変わる。つまり、「読者参加」の編集範囲が拡大するのである。しかしこの場合、読者はパソコンを使えることが大前提だった。キンドルのような電子ブック端末の使い勝手がよく、また日本語に対応すれば、パソコンなしに本や雑誌が手軽に読めることになり、運動の展開にも大きな影響が出るだろう。
電子ブックの最大の特長は、従来のような「送本」や「配本」の必要がなくなることである。これは「電子情報の移動」に置き換わるから、ケータイでメールを受け取るのと同等の速度と気軽さで、各個人に対して情報が移動する。だから、原理的には従来の印刷・製本・流通・在庫管理の手間がすべて省ける。ということは、そういう業務をしてきた会社や団体は不要になってしまう。運動面で言えば、普及誌の配本にともなう繁雑な諸業務がなくなるのはいいとしても、その過程で行われてきた会員同士の密接なコミュニケーションや、運動組織内部の情報伝達のルートが失われるのである。もちろん、今後すぐそうなるのではない。日本ではどのような機種が、どのような形で受け入れられるかによって、変化の速度と方向性は違ってくるだろう。しかし、“文書伝道”の新しいルートが今後、急速に広がっていくことは確実だろうから、そのための準備は「今」から必要である。
谷口 雅宣
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント