倫理的消費者の潮流
今回の世界的金融危機とそれに続く経済不況の後に、現れるものは何か? かつてと変わらぬ大量生産・大量消費・大量廃棄を奨励する物質主義的資本主義なのか、それとも、地球温暖化抑制や経済格差の是正を視野に入れた、もっと倫理的な経済システムなのか?
--こういう質問をすれば、恐らく大部分の人は「後者が望ましい」と答えるに違いない。私もそれを希望する。が、「希望する」だけではその実現は保証されない。なぜなら、人間の心には習慣性があり、そういう人間が集まって構成された社会や経済にも、その習慣が色濃く反映されるからである。希望しながら、「でも実現は無理だろうなぁ~」と手をこまねいているだけでは、習慣の力から脱することはできない。
従来の消費生活に疑問を感じ、別の生活を模索しつつ、自らの消費に何らかの倫理を導入する人々を「倫理的消費者」(ethical consumers)と呼ぶらしい。同じようにして、単に金儲けを目的とするのではなく、社会に倫理的なインパクトを与える目的で企業や団体に投資する人々とを「倫理的投資者」(ethical investors)という。そういう人々は、今回の経済危機より前から存在していたことはいた。が、数は少なく、特殊例外的であり、大金持ちの人もいたから、一部には“売名行為”ではないかと批判されることもあった。つまり、社会の“潮流”になることはなかったと言える。が、この経済危機後には、多くの普通のアメリカ市民が、倫理を重視した投資や消費に参加しつつあるようだ。
アメリカの時事週刊誌『TIME』は、9月21日号に「倫理的消費者の台頭」(The Rise of the Ethical Consumer)という特集記事を載せ、この新しい潮流に注目している。それによると、厳しい経済不況下の今年であっても、アメリカの人々はガソリンの燃費が悪いSUVからプリウスに買い替えたり、フェアトレードのコーヒーを選んで買ったり、かつてない高率で社会的責任を重視する企業に投資したりしているという。『TIME』誌が行った世論調査では、今年1月以降、オーガニック製品を買ったアメリカ人は、10人のうち6人以上という。また、大勢の人々が省エネタイプの電球も買った。さらに、それらの商品の購入動機は、「オーガニック」とか「省エネ」などという商品の性質によるだけでなく、その出所にもよるという。今夏、同誌が1,003人の成人を調査したところ、その82%は、地元や近隣の企業や団体を支援することを意識して、お金を使ったという。また、40%近くの人が、今年商品を買った理由として、それを生産している企業や団体が掲げる社会的、あるいは政治的価値に賛同したことを挙げている。
アメリカでは1995年以降、企業の社会的責任(SRI)を重視する投資信託が急増している。この種の投資信託は、一般にタバコや、石油、小児労働に関係する企業への投資を避けるところに特徴があるが、そういう投資信託の数は1995年当時は55しかなかったものが、現在は260もあるという。そして、それらへの投資総額は約2.7兆ドルに上り、アメリカの金融市場全体の11%ほどを占めるらしい。このような“倫理的潮流”がつくられつつある要因の一つは、オバマ氏が大統領選挙のキャンペーン中から環境配慮型の製品や産業を称揚し、利益と倫理原則は両立しうることを強調してきたことだが、オバマ大統領の誕生により、社会的責任を重視する人々の活動はさらに盛り上がりを見せているらしい。
生長の家でも“炭素ゼロ”運動の一環として肉食を減らしたり、マイ箸、マイバッグ、マイボトル、グリーン購入のような個人レベルでの活動に加え、太陽光発電装置の設置、会館や道場の建設に際しての設備のグリーン調達などを進めている。企業が社会的責任を果たすことで利益が出るためには、我々消費者の意識が高まることが必要だ。そういう動きが日本のみならず、消費超大国のアメリカでも生まれていることを知って、心強く思った。
ところで、私は12日に生長の家講習会のために函館市へ行ったが、宿舎となったホテルで面白い光景に遭遇した。ホテルの正面玄関にいたとき、1台の真っ白なリムジンカーが目の前に横づけし、中から着飾った新朗新婦が現われたのだ。そのリムジンカーときたら、普通の高級乗用車2台分の長さだったから、さも大量のガソリンを消費するに違いない。こういう豪華な演出の結婚式をするのが今の若者の“潮流”かと、私は口をあんぐりと開けたのだ。が、中から出てきた2人の幸せそうな姿を見ると、つい赦してあげたい気持にもなった。ところで、上掲の『TIME』誌によると、かの国では「倫理的な結婚式」(ethical weddings)を実現するための活動も行われているという。近々結婚式と縁がある予定の読者は、ぜひ参考にしてほしい。
谷口 雅宣
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コメント
谷口雅宣先生
アメリカでそうした動きが出て来ているのはとても有り難いと私も思いました。やはり、オバマ大統領の掛け声というのがとても影響力があるのですね。内心はアメリカは去年のリーマンショックからもう駄目だと思っておりましたのでとても良かったと思いました。
投稿: 堀 浩二 | 2009年9月14日 22:32
堀さん、
>>内心はアメリカは去年のリーマンショックからもう駄目だと思っておりましたので <<
アメリカはとても活力のある社会で、独立心の旺盛で、多様性にあふれた、若い層の人口が豊かにあります。中高年がしぼんでいても、彼らがすぐその後を補ってくれるでしょう。日本より腰が強いと思います。
投稿: 谷口 | 2009年9月15日 00:09