フランスが炭素税導入へ
フランスが炭素税の導入に向けて動き出した。サルコジ大統領が10日、2010年からの実施を正式に表明したからだ。『朝日新聞』が11日の夕刊で報じている。それによると、税率はCO2の排出量1トン当たり17ユーロ(約2,200円)で、ガソリンの場合、1リットル当たり約4ユーロセント(約5円)が課税される。当初はこの税率でいくが、段階的に引き上げる方針も示したという。12月に開催される国連の気候変動枠組み条約の第15回締約国会議(COP15)に向けて、主導権をとる意味もあるようだ。
私がこれに注目するのは、フランスは主要先進国としては初めて炭素税の実施に踏み切るからだ。ただし、同国には特殊事情もある。それは、同国が電力の大半を原子力発電に頼っていて、火力発電の割合が少ないということだ。だから、今回の炭素税も電力には適用されないという。しかし、このことは、CO2の排出が少ない原子力発電を大幅に採用している国でもなお、CO2削減をしなければならないという認識がヨーロッパにはあることを示している。また、そうすることが、政治的にも重要な意味をもっているということだ。
炭素税では、北欧の国々が先を行っている。11日付の『ヘラルド朝日』紙によると、炭素税に先鞭をつけたのはスウェーデンで、1991年に導入した。この時はCO2の排出量1トン当たり28ユーロという比率での課税だったが、現在をそれを(例外はあるが)128ユーロにまで上げて実施している。それならば、日本経団連が言うように経済が停滞しているかというと必ずしもそうでなく、導入以来の経済成長率は「44%」だから、年率にすると「2.4%」だ。デンマークはスウェーデンの翌年に炭素税を導入し、その後、フィンランド、ノルウェー、スイス、そしてカナダの一部が導入した。専門家の中には、今後ヨーロッパでは、フランスに続いて炭素税の導入が進むと予測する人がいる。その理由は、最近の経済不況によって、先進各国は企業からの税収が激減したうえ、経済対策で大量の資金を投入して、新税の必要に迫られているからだという。
サルコジ大統領の炭素税導入の発表は、しかし、フランス国民からは歓迎されていない。8日に『パリ・マッチ』紙に発表された世論調査では、対象者の65%が炭素税に反対しており、55%がその効果を疑っていて、84%が「税負担が重くなる」と感じているという。導入に賛成している環境保護団体も、新税導入から実際のCO2排出量の減少には時間がかかることを認めているという。なぜなら、温暖化ガスを出さないために、一般の国民は省エネ製品に切り替えたり、設備の変更をしたり、車を買い替えたりすることになるが、これにはどれも時間がかかるからだ。しかし、いったんこの動きが始まれば、産業構造にも変化が起らざるを得ないから、簡単には止められないだろう。
日本では民主党への政権交代により、「環境税」の実施に現実味が出てきている。同党の政権公約には、ガソリン税と軽油引取税を一本化する「地球温暖化対策税(仮称)」が掲げられている。また、来年度には自動車関係税の暫定税率の廃止により、新たな財源確保が必要となる。この機会に、新政府が「炭素税」の考え方に近い環境税を導入することは合理的であり、私はぜひ実施してもらいたいと思う。ただし、国民の税負担が多くなることはほぼ確実だろうから、「それでも、地球温暖化を全力で抑制しなければならない」ということを国民が納得するように、「今後の日本経済は“脱化石燃料”の方向に進むことで発展する」というメッセージを明確に打ち出してほしいのである。
谷口 雅宣
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント