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2009年9月17日

フランスの“次の手”はGDP改革?

 11日の本欄でフランスが炭素税の導入に向けて動き出したことを書いたが、今度は「GDP」(国内総生産、Gross Domestic Products)という永年使われてきた経済指標について、その見直しを考えているらしい。15日付の『ヘラルド・トリビューン』紙が伝えている。理由は明白で、GDPは人間の“幸福度”や地球環境問題の深刻化とは無関係の指標だからだ。このことは、昔から各方面から指摘され、私も本欄その他で何回か言及してきたが、一国の元首がそれを言い出すのは珍しく、好ましいことだと思う。

 上掲の記事によると、大統領の諮問委員会が7日、サルコジ大統領に対して「現行のGDPは、経済の健全さを表す基準としては不十分であり、持続可能性と人間の幸福(well-being)の要素を取り入れて拡張すべきである」という内容の報告をした。この諮問委員会は、米コロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ氏(Joseph E. Stiglitz)とハーバード大学のアマーティア・セン氏(Amartya Sen)という2人のノーベル経済学賞受賞者を含めたメンバーからなる。同委員会は、GDPに象徴される経済発展は本来、人間の幸福増進の手段とすべきものなのに、現在は目的化してしまっている点を問題にしているという。

 とりわけ、市場の機能を表す狭い尺度が、社会の「繁栄」や人間の「幸福」というような広い尺度と混同されている現状を憂え、報告書は「我々は測定するものによって影響される。だから、もし我々の測定の仕方が間違っていれば、それにもとづいた決定にも誤りが出る。諸々の政策は、GDPの値を上げるためではなく、社会の福利を向上させるために遂行されるべきである」と言っている。さらに報告書は、今回の経済不況にも触れ、「GDPの値に過剰に焦点を当てたこと」が金融危機の始まりの一因だとし、政策決定者はGDPによる経済成長に目を奪われ、その蔭に隠れた他のデータ--例えば、家計や企業の負債が増え、維持できなくなっていたこと--を見落としていた、と分析している。これに対し、サルコジ大統領は、この提言の内容を組み入れた報告を行うように国家統計局に指示し、まもなくピッツバーグで行われるG-20の会合で、他国にも同じことを提案する考えだという。
 
 GDPは、一国の内部で生産された商品とサービスの市場価格の総計である。この場合の「商品」の中には武器や特殊車両(戦車や装甲車、消防車、救急車、警察関係車両)も含まれ、また「サービス」の中には軍隊の出動、治安維持、消防活動、災害救助も含まれる。だから、テロや国際紛争、交通事故、火災、天変地異が起こっても、GDPの値は向上することになる。これらが、社会の福利増進や人々の幸福の増大とは関係がないことは明らかだ。また、GDPは国家間の“経済力”の指標と見なされることがあるが、そこに住む国民一人一人の福利の指標ではない。例えば、アメリカはGDPで「世界1位」ではあっても、国連開発計画(UNDP)が定める人的開発指数(human development index)で測ると、「世界15位」にすぎない。この指数には、長寿や健康、知識の入手可能性、生活水準などが含まれていて、それによるベスト3位は、アイスランド、ノルウェー、カナダである。
 
 さらにGDPは、環境の持続可能性を破壊するような活動を把握できない。このことは、今回の報告書でも問題視されているという。例えば、ある途上国が外国企業から鉱山開発を勧められたとする。これを許可すれば、GDPの数値は上がる。が、その際、鉱山使用料はわずかで、周囲の環境が汚染され、労働者が健康被害を被ったとしても、GDPの数値は上がるのである。

 私は、2002年のブログでGDPの欠陥に触れ、そのことを『足元から平和を』(2005年刊)の中でも取り上げ、市場外の価値をも含めた“新しい経済学”の必要性を訴えた。また、この際、人間の手がついていない自然の価値を金銭的に表そうという経済学者の研究も紹介した。さらに、「自然」それ自体を資本としてきちんと評価する「自然資本」の考え方にも触れたのだった。そういう先駆的な人々の正当な努力が、ようやく一国の政策にも反映されつつあるのならば、素晴らしいことだと思う。環境を重視する日本の新政府にも、ぜひ見習ってもらいたい。
 
 谷口 雅宣

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コメント

合掌 ありがとうございます。

>『足元から平和を』(2005年刊)の中でも取り上げ、市場外の価値をも含めた“新しい経済学”の必要性を訴えた。また、この際、人間の手がついていない自然の価値を金銭的に表そうという経済学者の研究も紹介した。

初めて上記のご著書を拝読させていただいたとき、その部分に大変感動を覚えました。GDP指標の見直しは多くの問題を抱えるかと思いますが、現在そのような検討がなされ、環境保全も考慮する方向に進む可能性があることは、とてもありがたいです。
再拝

投稿: erica | 2009年9月24日 00:57

ericaさん、

 あなたは勉強家ですね。私の文章は日本人にも「むずかしくて分からない」と言われることがあるのです(笑)。ありがとうございます。

投稿: 谷口 | 2009年9月24日 10:51

合掌 ありがとうございます。

もったいないお言葉、恐縮です。
聖典や先生のブログを拝読し、今の時代に相応しい真理の伝え方を身につけるのは、講師としての使命であり、私の生き甲斐でもあります。
いつも幅広い分野での最先端の情報を紹介しながら、「神の子」の生き方をあらゆる観点から説いてくださることを、深く深く感謝しております。
再拝

投稿: erica | 2009年9月26日 23:31

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