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2009年9月18日

米が東欧へのMD配備を中止

 アメリカが突然、東欧諸国へのミサイル防衛(MD)施設の配備計画を中止すると発表した。大統領自身が発表したのだから、最終決定である。新聞各紙は、主として3つの理由を挙げている--①イランの核武装を抑えるためにロシアの協力を得る、②ロシアとの関係改善と核軍縮の進展、③イランの長距離ミサイル開発の遅れ。ブッシュ時代に導入が決定されたこのMD計画は、「イランのミサイルの脅威から欧州と駐留米軍を守るため」として、ポーランド(迎撃ミサイル基地)とチェコ(レーダー基地)に迎撃施設を配備するものだが、ロシアがこれを自国の戦略核を無力化するための施設と見なして、猛然と反対してきた。だから、計画の中止で、ロシアとの関係改善を図り、イランの核開発阻止と戦略核兵器制限条約の更改交渉を一気に進展させたいのだろう。
 
 が、私は、この計画のもう1つの(隠された)目的がどうなったのか、興味がある。それは、テロリストの核攻撃を抑止することだ。私は、すでに2007年5月13日の本欄で、東欧のMD施設は「核自爆テロの抑止を目指した報復攻撃用システム」という側面もあることを指摘した。しかし、この“側面”をもたせたのは、前政権のブッシュ大統領であり、ブッシュ氏の外交思想は“善悪二元論”が基礎となっていた。つまり、“悪の枢軸”を初めとしたテロ国家やテロリスト養成国家を起源とする“テロとの戦い”が必要だとする考え方だ。これに対し、オバマ政権の考え方は“イスラームとの対話”を目指し、イスラーム国家に対しては武力や圧力によるよりも、対話と理解を進めようとするものだった。
 
 この考えを軍事戦略に及ぼした場合、ブッシュ氏の恐れていた「イスラーム過激派による核自爆テロ」の可能性を、オバマ氏は「ない」と判断したのだろうか? それとも「あるかもしれない」と考えたうえで、軍事ではない別の手段で、核自爆テロを抑止する方法を考え出しているのだろうか? そういう点に、私の興味はあるのである。
 
 本欄の読者は、今から約2年前、イスラエルがシリア領内を爆撃したことを憶えているだろうか。これは、北朝鮮の協力を得て建設中だった核関連施設を、完成前に破壊するのが目的だった。シリアはその後、核開発を中止したようであるが、イランはご存じの通り、核開発は独立国の権利であるとの立場を明確にして、欧米諸国と対立している。ということは、欧米諸国が“イランの核”を阻止しない場合、イランとは至近距離にあるイスラエルが、自衛の目的でイランを攻撃する可能性があると言える。そんなことが起これば、中東地域には一気に紛争が広がり、世界は混乱状態に陥るだろう。
 
 そういう緊急性のある状況判断のもとに、今回のアメリカの方針転換が行われたのだ、と私は思う。平たく言うと、ロシアの協力を得てイランの核開発を阻止することに緊急性を感じたための決定ということになる。そういう緊張した国際関係の中でまもなく、鳩山総理となって初めてのG-20と、日米首脳会談が行われることになる。
 
 谷口 雅宣

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コメント

谷口先生のブログはタイムリーな時事問題が取り上げられており、いつも勉強させられます。

個人レベルでさえ軋轢が絶えぬ人と人との関係。
ましてや、国家間、民族間での対立は長い人類史を振り返っても未だかつて絶えていないことには憤りを隠せません。人間は、他の動物とは決定的に違う能力、「理性」を与えられた存在。その能力を引き出せていない人があまりにも多いようなキがします。これからどうやって解決の糸口を見いだすのか?

これは私がこれから大学、一般社会へと進む中で追求したい命題の一つです。

これからもブログを拝見させて頂きます。

投稿: 光明 | 2009年9月20日 21:09

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