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2009年9月 8日

新産業の育成に歩み出そう

 まもなく首相となる鳩山由紀夫氏が打ち出した「温暖化ガス25%減」という中期目標に対して、予想通り自民党と経済界が「反対!」の合唱を始めたが、これは驚くほどのことではない。産業革命以来の“地下資源文明”から転換して、再生可能の“地上資源文明”に移行するという人類史の長く大きな流れの中では、多少の混乱があるのはいたしかたないだろう。この流れを嫌う自民党と日本経団連が提出してきた温暖化抑制のための“代替コース”は、原子力発電の振興であるが、今回の総選挙で、このコースは国民によって否定されたと私は解釈している。それでもまだ、このコースを追求する合理的理由はもはや存在しない。別の言い方をすれば、原発の増設は、自民党政権下でさえきわめて困難だったのだから、民主党政権下でそれを進めるという選択肢は存在しないということだ。だからこれからは、日本の産業界は再生可能エネルギーの利用技術の開発と、その利用に焦点をさだめて、結束して進んでほしいと思う。

 古い産業から新しい産業への移行時には、「できない」と見えることの方が「できる」と見えることより多いのは当り前だ。だから、この移行期には、「何ができないか」を取り上げて文句を言うのではなく、当初は見つけにくいかもしれないが、「何ができるか」を探して、それを拡大していくのが責任ある正しい態度である。新産業の育成は、子供の教育とこの点で同じである。子供に向かって「お前はこれができない。あれもできない」と文句ばかり言う親は、その子の将来を摘み取ってしまう。少し難しいと思うことでも、「あれができるのだから、これもできるぞ」と言って励ますことで、その子は現状から先に進み、ついに親を超えることもできるのである。我々一般人の地球環境問題への取り組みにも、同様のことが言える。これは、政治の問題というよりも、心理学が取り扱う分野である。
 
 つまり、環境問題への取り組みにも“よい方法”と“悪い方法”があるのだ。イギリスの科学誌『New Scientist』が8月22日号でそのことを伝えている。それによると、「ああしなさい、こうしなさい」という説教方式の取り組みは効果が少ないのに対し、アル・ゴア氏が訴えたような「気候変動の危機も我々の力で解決できる」式の積極的な"can do"の訴えの方が効果的だそうだ。また、人間の本性は、一般に考えられているように強欲でも近視眼的でもなく、やり方さえ工夫すれば、他人や自然界のために行動するのに驚くほど積極的になれるという。

 この“よい方法”を見つけるために、「自然保護心理学」という新しい学問ができている。英語では「conservation psychology」といって、自然と人間との相互供与関係を、自然保護の観点から研究する学問である。社会心理学や生態学、動物行動学、哲学等の知見を総合して、人間と自然環境との調和した関係の実現を追求する分野である。この学問では、自然界に対する人間の保護的態度や情愛ある関係がどのようにして形成されるのか、環境をどう見るか、環境との触れ合いと子供の成長・発達、自然保護の倫理、自然保護の文化、自然の価値と意味、自然保護の行動などについて研究する。今夏、ブラジルのサンパウロ市で開催された「世界平和のための生長の家教修会」では、世界の伝統的宗教と南北アメリカの先住民の信仰の中で、自然がどう扱われているかという「自然観」の研究発表が行われた。こういう分野も、自然保護心理学が扱う領域と重なっている。宗教と科学とが協力できる分野の1つとして興味深い。
 
 「人間は本来、自然を愛する生きものである」というのが、当り前のようであるが、この学問が見つけ出した知見の1つだ。上掲誌の特集記事で、オランダの社会心理学者、マーク・ヴァン・ヴガト氏(Mark van Vugt)は、そのことを次のように記している--「我々は、人工的な環境よりも自然環境の方を好み、人工的な環境の中では、そこに何かの自然物--樹木や水など--があるのを好む。人間はまた、文化の区別なく、アフリカのサバンナのような広大な風景を好む。ヨーロッパでもアメリカでも、毎年動物園を訪れる人の数は、すべてのプロスポーツ競技に集まる人の数より多い。自然は人間の健康にも影響を与える。病室の窓から自然の風景が見える患者の方が、レンガの壁しか見えない患者よりも早く快復する」。
 
 これらは、人間が明らかに自然の一部であることを示している。だから、この分野の今後の取り組みにおいては、地球環境の「問題」を取り上げる段階から一歩進んで、そういう自然と人間との本来ある親しい関係を取りもどすために、産業を「育てる」という積極的な観点が重要と思う。
 
 谷口 雅宣

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