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2009年8月19日

神は偉大でないか? (4)

 ヒッチェンズ氏の『God is Not Great』は、第3章で「ブタ」の問題を取り上げている。この章は「ちょっと脇道に反れ、ブタについて」という題がついていることから分かるように、短くて5ページしかない。が、中身はとても“濃厚”である。ここで言う「濃厚」の意味は、「内容が充実している」というよりは、「味が濃くて口に合わない」というニュアンスがある。2006年の生長の家の教修会では、宗教がもつ「食物規程」について学んだが、この中でも、ユダヤ教とイスラームがブタについての禁忌をもつことが話題となった(本欄では2006年7月5日参照)。ヒッチェンズ氏はこの章で、ユダヤ教とイスラームの厳しい“ブタへの禁忌”は、実は“ブタへの偏愛”の裏返しであるとの説を展開する。
 
 心理学を学んだ人ならば、人間の心中にある「愛」と「憎」とは、実は同じコインの表と裏であるとの説明を聞いたはずだ。それと同じように、宗教の教えにある“禁忌”も、それが度を超えている場合は、逆に対象がもつ“魅力”を示しているとするのである。で、イスラーム世界でブタへの禁忌が「度を超えている」と言えるのは、ジョージ・オーウェルの『動物農場』(Animal Farm)1945年8月17日に刊行されたジョージ・オーウェルの小説。 を子供が読むことを禁じているし、ヨーロッパのイスラーム主義者は、『3匹の子ブタ』や『ミス・ピギー』『クマのプーさんのピグレット』など、昔からある童話やキャラクターを子供の目から隠せと要求しているからだという。まあ、私としては、昔から特にブタとのつき合いはなかったし、ブタ肉も食べることはないから、この件についての判断は差し控えたい。
 
 が、ヒッチェンズ氏の指摘の中で1つだけもっともだと思うことを言おう。それは、“ブタへの禁忌”を宗教のドグマとして異常なまでに強調しなくても、ブタの生態や屠殺場での彼らの恐怖と苦しみの様子を知り、我々人間とDNA構成がきわめて近いこと、さらに人間への移植用の臓器としてブタのものが使われている事実等を冷静に考えてみれば、ブタを人間と無関係の「蔑むべき動物」と考えるよりは、地球生命を構成する仲間のうちでは、サルに次いで“近種”であると考える方が正しいという点だ。著者はこのことを宗教で強制しなくても、「理性と思いやりの感情から明らか」(in the plain light of reason and compassion)だというのである。私も同感である。

 谷口 雅宣

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コメント

合掌 ありがとうございます。

宗教心による禁忌というと、1995年にブラジルで起きた"Chute na Santa" という宗教界から発生し政治や法律まで影響を及ぼした事件を思い出します。
ブラジル国の守護霊としてまつられているNossa Senhora da Aparecida(アパレシダ聖姉(?))の祝日(10月12日)に、Universal Church of the Kingdom of God の牧師が、テレビでその聖姉の像を数回も蹴った事件のことです。
ブラジル人の大多数はカトリック教であり、カトリック教は多くの聖師・聖姉が”罪人”である我々を神様に取りなす力があると信じている、とのことは誰でも存じだと思います。

牧師は聖姉の像を蹴る行動を通して、ブラジル国民に、誰でもが店にいけば安く買える像は、我々を神様に取りなす力はない。キリストのみ力がある」と見せたかったらしい。牧師が主張することが正しいとしても、国民が愛する聖姉の像を蹴る行為は一つの禁忌にふれ、牧師はカトリック教のみではなく、自分の教会の信徒を含む多くの教会や政治側から批判を受け、ブラジルでは今も忘れられない事件となりました。

ユダヤ教やイスラム教の”ぶたへの禁忌”もそうですが、それぞれの宗教側で信徒へ信仰の神髄を伝える努力が必要だと思いますが、その反面、上記の牧師のように、わざと相手の宗教の気にいらないところを取り上げて、笑い事にしたり軽蔑したりする行為もみる中、相手の宗教の”弱点”をも尊重(respect)する必要性も伝えなければいけない気がします。

再拝

投稿: erica | 2009年8月21日 12:34

erica さん、

 コメント、ありがとうございます。

>>それぞれの宗教側で信徒へ信仰の神髄を伝える努力が必要だと思いますが、その反面、上記の牧師のように、わざと相手の宗教の気にいらないところを取り上げて、笑い事にしたり軽蔑したりする行為もみる中、相手の宗教の”弱点”をも尊重(respect)する必要性も伝えなければいけない気がします。<<

 同感です。私は、デンマークの新聞が、ムハンマドの頭からダイナマイトの導火線が出ているマンガを掲載した事件を思い出します。とにかく、攻撃するものは攻撃されるのですから……。

投稿: 谷口 | 2009年8月21日 23:14

合掌 ありがとうございます。

御返事、ありがとうございます。
デンマークの新聞の事件もひどかったですね。そのような事件がもう起こらないことを祈ります。
再拝

投稿: erica | 2009年8月22日 00:55

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