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2009年6月11日

日本の中期削減目標は「90年比-8%」

 麻生首相は10日、2020年までの日本の温室効果ガス削減の中期目標を発表したが、既報のとおりそれは「05年比15%減」である。これは、日本が議長国として成立させた京都議定書の基準年(1990年)と比べると「-8%」であり、同議定書目標値--2012年までに1990年比-6%--から、8年間にわずか2ポイントの削減をすれば足りる目標である。にもかかわらず、同首相は「この目標は石油危機の時を上回るエネルギー効率の改善をめざす極めて野心的なもの」と自画自賛したそうだ。その理由は恐らく、アメリカの現在の中期目標が「90年比0%」、カナダが「同-3%」、オーストラリアが「同-5%以上」であるのと比べたからだろう。しかし、EUは「同-20%以上」を掲げているから、日本のこの目標値では、中国、インドなどの新興国や、温暖化の被害が深刻な発展途上国からの譲歩や評価を受けることは難しいだろう。ただ、留意しておきたいのは、この目標値が海外からの排出権購入などを含まず、国内対策だけで行うとした“真水”分の数値であることだ。
 
 これに対する新聞の評価は、実にまちまちである。私は自宅で『朝日』と『産経』をとっているが、特に2紙の態度は対照的だ。前者は、これを「緩い目標を求める経済界と、厳しい目標が必要だという環境団体の主張の間をとった」と表現し、「先進国全体で90年比25~40%削減する必要がある」との認識がEU、途上国、新興国間で広がっていることを指摘して、京都議定書に続く条約として国際間で今後決まる正式な目標策定では、「より大きな削減目標を迫られる可能性がある」と予測している。これに対して後者は、「日本の実績を踏まえれば“2005年比4%減”が妥当な目標であった」と残念がり、「日本に苛酷な重荷がのしかかる」にもかかわらず、「身を削る思いで達成しても地球の温暖化防止には、焼け石に水であるのがむなしい」と嘆いている。『朝日』は、「温室効果ガスの削減に努力すればするほど技術革新が促され、産業や社会の低炭素化とともに新たな経済成長の道も開ける」と主張して、未来に目を向けているが、『産経』は、この目標を「国の経済と国民生活にかなりの苦痛を強いる」と消極的に評価し、経済団体の見方を代弁するかのように、「目標達成に向けて多額の設備投資負担を強いられ、国際競争力の低下を招く恐れがある」としたり、「国内経済の空洞化が加速するとの懸念が高まっている」と否定的だ。
 
 しかし、数字だけでは分からなくても、具体的な政策や省エネ努力を見ると分かることもある。例えば、政府は今回掲げた目標値を達成した際のシミュレーションをしているが、そこには「どこの家庭にも省エネタイプの冷蔵庫やエアコン、薄型テレビがあり、街を走る自動車の20%がハイブリッド車などのエコカー」(『産経』)になった姿が描かれている。あと10年でこれを達成することが、日本の平均的家庭にとって「過酷な重荷がのしかかる」ことだと私には思えない。また、今回の目標値決定で“目玉”になっている施策は太陽光発電の導入促進だが、政府は今後、家を建てる人の7割以上が同発電装置を導入すれば、10年後には、現状の20倍の約530万世帯に同装置が設置される、と予測している。この「530万世帯」とは、東京都に例をとれば、2000年時の一般世帯総数に匹敵するから、これを10年間で実現するというのは、確かに「野心的」と言っていいだろう。このため、太陽光発電による電力の買取り価格を現行より引き上げる代りに、電力使用料を値上げする方策の実施がすでに表明されている。私はこの点に、好意的に注目している。

 しかし、国際的環境保護団体であるWWFは、早くも10日付の報道でかなり手厳しく日本の中期目標を批判している。それによると、日本が今回、京都議定書の基準年でなく2005年を削減目標の基準としたことは、「日本は1990年のレベルから排出量を減らさなければならないのに、実質的な行動をせずに、逆に7%以上増えたことを見えなくするためである」としている。また、日本がすでにエネルギー効率を向上させているため、これ以上の努力はコスト高となり不公平だという議論に対しては、各国の排出削減努力は、コスト分析に加えて、一人当たりのGDPなどで表される「行動余力」と、過去から現在に至る一人当たりの排出量で示される「排出責任」を基にして判断すべきものとしている。そして、麻生首相に対して、「すぐに考えを変え、コペンハーゲンでの国際交渉に向けて25%以上の削減目標を設定することで、真の指導者としての能力を発揮すべきである」と呼びかけている。
 
 谷口 雅宣

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コメント

■温室ガス:15%減に産業界「厳しい目標」―この厳しい目標は日本にとって僥倖になるかもしれない?
こんにちは。温室ガスの削減目標、15%との発表がありました。私は、実は、地球温暖化二酸化炭素説をまったく信じていません。にもかかわらず、この削減目標には条件つきで賛成です。なぜ、賛成かというと、この厳しい目標を達成するためには、産業構造や、社会構造を変える必要性があるからです。これが良い方向に向かえば、日本は躍進します。また、条件とは、地球温暖化二酸化炭素説にもとづき、無意味なこと、害のあることをしないということです。たとえば、巨大な二酸化炭素貯留施設をつくったり、巨大な太陽光発電施設や、風力発電施設をつくることです。さらには、サブプラム・ローンよりも低劣なデリバティブ商品である排出権取引をすることなどです。詳細は、是非私のブログをごらんになってください。

投稿: yutakarlson | 2009年6月12日 13:29

yutakarlsonさん、

 どういう方か存じませんが、コメントありがとうございます。私は、「温暖化CO2説」が世界の科学者の大勢の見解だと認識しています。太陽黒点説などについても、過去に本欄で検証しています。まあ、結局、どちらを信じるかの問題ですが、日本社会の構造改革は必要とのお考えには賛成です。

投稿: 谷口 | 2009年6月12日 16:58

CO2削減の手段に問題はないのでしょうか?
一つは莫大な額の排出権取引です。
本来の技術革新への投資なら得心いきますが、どうしても胡散臭いものを感じます。
次に、CO2の地下貯留の危険性です。
工場から排出されたCO2を輸送コストの安い大都市近郊に埋めるというものです。
一部には地震による危険性を指摘する意見もあります。
これらの問題点の是非は、もっと検証されるべきではないでしょうか?
削減目標を高くすればするほど、このような手法を取り入れる割合が高くなります。

投稿: 山善 | 2009年6月12日 23:33

yutakarlsonさんへ
あなたの主張は主張として良いのですが「無意味な事、害のあること」として太陽光発電、風力発電施設をつくること!とありますが無意味であり、害がある理由を簡単に教えて貰えれば幸いです。

投稿: 尾窪勝磨 | 2009年6月13日 11:32

山善さん、

 CO2削減手段の中には、いろいろ問題のあるものがあると思います。しかし、だからと言って「削減しない」という選択肢はないと思います。CO2の地下貯留も私は賛成できません、が、プルサーマルだって似たようなものではないでしょうか。また、排出権取引でも、疑問のあるものもあるし、そうでないものもあります。しかし、だからと言って「削減しない」という結論にはならないと思います。また、今回の日本の削減目標ですが、私はこれを「消極的だ」とマイナスに評価しているのです。誤解のないように…。

投稿: 谷口 | 2009年6月13日 13:33

yutakarlsonさんへ2
「地球温暖化二酸化炭素説をまったく信じていません」と言われています、温暖化が良いか悪いかは別にして信じないと言うのもそれはそれで良いとは思いますが原因は何だとお考えですか?

投稿: 尾窪勝磨 | 2009年6月14日 11:04

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