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2009年6月13日

臓器移植法改正は不要である (2)

 9日の本欄で、国民の間に合意が存在しない中で、臓器移植法改正を急ぐ現政権のやり方に対して疑問を呈したが、今日(13日)の『朝日新聞』は「見切り採決に“訳あり”」という見出しで、法改正を急ぐ側の“事情”を説明している。これを読むと、現在の政治というものが、民意の汲み上げや、国民の将来、倫理観などの大所高所を見据えた立場から行われるよりも、国会対策とか政治家個人の特殊事情などを優先して行われている様子がよく分かる。実に嘆かわしいことだ。

 その中でもきわめつけは、いわゆる“A案”を提出した富岡勉・衆議院議員が法改正を急ぐ理由として、「選挙後にはたくさん法案が出て、2、3年先になってしまう」とコメントしている点だ。1997年施行の現行の同法に、3年をめどとした見直し規定があるのに、一度も見直しをしていないことに良心の呵責を感じているらしいのだが、前述したように、WHOが渡航移植を規制する動きを示したことで、見直しには「絶好の機会」と感じたようだ。ところが、改正案の審議時間は97年には26時間かけたのに対し、今回は8時間で打ち切られ、自民党のある国会対策幹部は、「採決は中間報告から間を置かない方がよい。(議員が)地元に帰る回数が増えれば意見を言われて判断が揺らぎ、棄権が増える」などと発言したそうだ。つまり、国民の意見をよく聞くと議員の考えがグラつくから、衆院厚生労働委員会からの中間報告が出た時点で、法案はすぐ採決してしまった方がいいというお考えのようなのだ。これが、自民党政治家が考えている“民主主義”の実態である。
 
 また、少し信じられないのは、息子から生体肝移植を受けた河野洋平・衆院議長が、この法案の通過を引退の“手土産”にしたいとの熱意に燃えているからだという話だ。その動きに、与党側も「唯一首相になれなかった“元自民党総裁”へのはなむけにしたい」と合意したというのだ。この話がもし本当なら、今の与党政治は「公私混同もはなはだしい」と言わねばならない。その上で『朝日』はこう書いている--「与党はすべてが廃案になることも覚悟し本会議での採決に突っ込む構え」。これらの情報を総合すれば結局、こうなるだろう--現在の政権と与党は、現行の臓器移植法に定められた「3年後の見直し」を先延ばしにしてきた怠慢を糊塗するために、「人の死」という重要な問題に関して国民の間に合意ができていないにもかかわらず、かっこうだけ「国会で見直した」形を作って総選挙に入ろうしている。その方が、いろいろな意味で(政治家の私的な都合も含めて)好ましいと考えている。
 
 私は、こんな解釈は間違いであってほしいと思う。臓器移植法改正案の見切り採決について“正しい解釈”があれば、どなたか教えてください。
 
 谷口 雅宣

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コメント

臓器移植法改正について孔子の「学びて思わざれば、即ち暗く、思いて学ばざれば、即ち危うし」と言う言葉が浮びました、知識は豊富な人達ばかりだと思いますので本当にしっかりしていただきたいと思います(泣)。

投稿: 尾窪勝磨 | 2009年6月14日 11:26

谷口雅宣先生

 講習会が連続でプラスになっているのは本当に素晴らしい事だと思います。神奈川の時はちょっと減少しましたが、組織の会員が伸びているとお褒め下さった事はその後、事ある毎に会議等で取り上げられ、私ども神奈川の組織幹部の励みになっております。

 ところで私は自民党の政治家というのは余り信用していません。私は郵政選挙辺りから思っているのですが彼らは国民の利益ではなくて、他の何か、アメリカの要求事項であったり、大企業の利益だったり、自分達の選挙対策であったり、そんな事ばかりに関心が向けられていると思います。その結果が現在の格差社会であり、裁判員制度の施行であると思います。裁判員制度なんて国民の誰も望んでいないと思います。
 個人商店や中小の建設会社は小泉改革の結果によりもう殆ど生きていく事が出来ない状態になったと思います。豊かになったのは大企業のエリート社員だけではないでしょうか?その他の多くとは言いませんがそうした個人商店や中小の建設会社に居た人達は派遣社員や期間労働者になり、いつ首を切られるかという悲惨な状況になっているのではないかと思います。今回はちょっと過激になってしまいました。申し訳ありません。でも、これは私の正直な気持ちです。

投稿: 堀 浩二 | 2009年6月15日 09:31

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