矢印探偵は行く (3)
その時、
「あったぞ、ここにあるぞ」
というサブローの声が、後ろの方から聞こえてきた。振り返ると、サブローが道路脇のプランターの所を指差している。4番目の矢印は、ちょっとだけ考えごとをしていたタカシの目に入らなかったのだ。タカシは小声で「クソッ」と言うと、サブローがいる方へ走っていった。
その矢印は、用水池とは別の方角にある路地の方向を指していた。そしてその路地は、表通りに続いていることを二人の子供は知っていた。
「大通りに行くなら、もっと近道があるのに……」
と、サブローは不満そうにボソボソと言った。
「でも、何か意味があるから矢印を書いたんだよ」
と、タカシはやや低い声で言った。そして、「とにかく、十個見つけるまでやってみよう」と付け加えた。
二人の子供はもう走らなかった。自分たちが通学路として毎日通っている表通りへ行くのだから、予想外のことはあまり起らないと感じたのだ。
表通りに面した酒屋さんの一軒ほど手前に、自動販売機が数台並んでいるが、そのかげに潜むようにして5番目の矢印があった。
「あっ、ほら……」
と言ってそれを指差したサブローは、
「大通りに出ろっていっている」
と、あまり熱意のない声で言った。
「ほんとだ。でも、大通りには宝が隠してありそうもないね……」
と、タカシも自嘲気味に言った。
二人は大通りに出ると、付近の歩道を見回して、次の矢印のありかを探した。歩道にはブロックが敷かれていて、車道と段差ができていたが、その境界を仕切る細長い縁石の上に、直角に曲がった小さな矢印が白い文字で描かれていた。
「こんなところにある!」
それを見つけたタカシが、かん高い声で言った。
サブローは、矢印の示す方向を見ていた。そして、
「地下鉄の駅だ」
と言った。
二人の目の前には、地下鉄日比野線の駅へ続く地下道が大きな口を開けていた。二人は顔を見合わせた。地下鉄に乗ることに躊躇を感じたからだ。ポケットにお金がないわけではなかったが、大事なお小遣いを使ってまで矢印さがしを続けるべきかどうか、迷っていたのである。
「下まで行く?」
と、サブローが訊いた。
「どうしよう……」
今度は、タカシも自信がなさそうだった。
サブローは、自分が心配していた事態が起こりつつあると思った。矢印が描かれている理由を知らずに、それが示す方向へただやみくもに進んでいく。そんなことを続けていれば、きっと迷子になってしまう。
「もう帰ろうよ」
サブローはタカシに言った。
「でも……」
タカシは足をモジモジさせてこう言うと、
「6番目まで見つけたんだから……あと4つだよ」
と言って、地下道の入口を見つめた。
谷口 雅宣
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コメント
→の先には、何が待ってるのだろう?
この物語がどう展開していくのか、楽しみです。
投稿: 岡本 淳子 | 2009年5月11日 09:27