矢印探偵は行く (1)
小学生のタカシは、学校からの帰りみちでその印を見た時、一緒にいたサブローにこう言ったのだった。
「ほら、これは鳥の足跡みたいだろ?」
でも、サブローはそれを見て、
「少し形がへんだなぁ。それに、鳥は二本足なのに、印は一つしかない」
と言った。
二人は、学校の教室にいる時から、このマークの話をしていた。タカシはそれを何か秘密の印じゃないかと言った。学校の周辺にあるアスファルトの道路の隅に、チョークか何かで描いた白っぽい太い線で、三本指の鳥の足跡のような印が描いてある。それも、ていねいに描いたのではなく、勢いよく書きなぐったように、三本の線が互いに交差していたりする。そんなマークが、一カ所でなく、何カ所にもあるようなのだ。
「数えてみたの?」
と、サブローが聞いた。
「ううん、まだ」
タカシは首を横に振った。
「じゃあ、帰りに二人で数えてみようか?」
サブローの提案に、タカシは二つ返事で賛成した。何か探偵ごっこのような、また宝さがしのような、ワクワクした気持になってきた。 二つ目のマークの所へ行った時、サブローは、
「これ、矢印じゃないの?」
と言った。
鳥の足の指だったら、三本の指の長さに違いはあまりない。でも、目の前にある印は、真ん中の指が一本だけ長い。
「ああ、ほんとだ!」
マークをはさんでサブローの反対側に立っていたタカシは、ポンと両手を打って大声で言った。
「こっちから見たら、矢印に見える」
そう言ったタカシは、「じゃあ、矢印の方向へ行ってみようよ」と、サブローの顔をのぞき込んだ。
でもサブローは、そのマークを見ながら考えていた。タカシがそばへ行ってサブローの袖を引っぱっても、まだ考えていた。
「何、考えてんの?」
と、タカシは言った。
「どうしてかなぁ……」
とサブローは言って、「なぜ道路に矢印なんて書くんだろう……」と付け加えた。
「そんなこと、考えてもわからないよ」
とタカシは言って、「矢印をたどっていけば、きっとわかるよ」とサブローをさそった。
タカシは、自分が今言ったことは「すごい名案」だと思った。何でも、考えるよりはやってみるというのが、タカシの行動パターンだった。それに比べてサブローは、よく考えて、わかってから始めるタイプだった。だから、タカシが引っぱって、サブローがついていく--そんなやり方で物事が進むのは、今回だけでなかった。
谷口 雅宣
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