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2009年4月 7日

北朝鮮の“飛翔体”

 北朝鮮が5日午前に「テポドン2」なる“飛翔体”を遠く太平洋まで飛ばしたことで、日本中は大騒ぎだった。そのほとぼりが一応収まりつつあるところで頭を冷やして考えてみると、何かがそれほど大きく変化したわけではない、と私は思う。私は「北朝鮮の核実験」という題でこれまで本欄に3回にわたって書いた。最初が2005年5月10日、2回目は2006年10月8日、そして3回目はその翌日である。その中で間違っていた予測が1つある。それは、北朝鮮が核実験をしたら「その影響はきわめて大きい。韓国や日本の安全保障とも深く関わってくる……」などと書いた4年前の判断は、どうやら外れたようだ。4年間で、ほとんど何も変わらなかった。韓米安保も日米安保も同じ状態で、変ったことと言えば韓国が北朝鮮に対して“厳しく”当るようになり、その逆にアメリカには“悪の枢軸”をやめて“対話”を掲げるオバマ政権が誕生したこと。あとは、かの国の“金さん”が一度脳卒中になり最近、げっそり痩せた姿の写真を発表したことぐらいだろうか?

 この件での私の認識は、上記の3回目の文章とあまり変わっていない。簡単に言うと、日米安保体制が健全に機能し、日米関係が良好であるかぎり、アメリカの核の抑止力が働いているから、北朝鮮の“核の脅威”が深刻化したとは思わない。理由は、その時の文章に詳しく書いた。その中にこういう記述がある--
 
「まず第一に、核兵器を持ったということと、それが軍事的な脅威になることとは、必ずしも同義ではない。核兵器は、ある国の内部にあるだけでは軍事的脅威ではない。それを仮想敵国の内部まで一定の信頼性をもって運搬する手段が必要である」

Tepodon  2006年7月に北朝鮮が行ったミサイル発射実験では、「テポドン2」はうまく飛ばなかったが、今回はだいたい予告したコースを飛んで、太平洋にまで達したから、この「運搬手段」の信頼性はやや増した。そういう意味で、北朝鮮の“核の脅威”は確かに「増大した」と言える。が、その増大の程度は日本にとって「深刻」とはまだ言えない段階である。その最大の理由は、良好な日米関係に加えて、今回の実験も「失敗」と呼んでいいからだ。

 「実験失敗」という評価は、実験直後からアメリカ側から暗示されていた。アメリカの本土防衛を担当する北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)は、現地時間5日未明に声明を出して「(衛星の)軌道上に乗った物体はない」と確認した(6日『日経』)。7日付の『日経』によると、河村健夫官房長官は6日の記者会見で「衛星が軌道を周回しているという認識は持っていない」と述べ、防衛省の増田好平事務次官も「米国からも“軌道に乗ったものはない”と説明を受けている」と語った。また、インタファクス通信は、ロシアの軍参謀本部高官も6日に「我々の情報では軌道上に衛星はない」と認めたと伝えた。『朝日新聞』も7日付で米ロ日韓4カ国が「“打ち上げ失敗”で一致」したと報じた。同紙は7日の夕刊ではさらに詳しく、防衛省が「データを総合した結果、人工衛星を軌道に乗せるために必要な秒速約8キロには速度が達していなかったと確認した」と報じている。

 アメリカのメディアの評価は、もっと厳しい。7日付の『ヘラルド・トリビューン』紙は、「失敗は“恐るべき国”を目指す北朝鮮に痛手」(Failure hurts Pyongyang's quest to be a feared entity)という見出しの記事を載せ、「追尾データを詳しく見ると、ミサイルは搭載物ともども海中に落下した」という専門家の分析を紹介している。それによると、この実験を“密かな成功”と見るのは間違いで、これは同国の過去の一連のヘマの続きであり、同国の品質管理には問題があるとの見解だ。特に、ハーバード大学の天文学者で衛星とロケット打ち上げを監視しているジョナサン・マクドゥウェル氏(Jonathan McDowell)は、今回の実験は“後退”であるとし、「(北朝鮮の)ミサイルは、短期的には何ら脅威とならない」と述べている。また、別の専門家は、北朝鮮から技術提供を受けたはずのイランが、今年2月にすでに小さな衛星を地球の軌道上に乗せるのに成功していることを指摘し、北朝鮮の抱える問題を示唆している。
 
 これらのことから判断すると、今回の北朝鮮の実験により、同国が大陸間弾道弾(ICBM)の能力を得たとは言えないし、近い将来に得る可能性も少ない。したがって、同国がアメリカ本土に脅威を与える可能性は、少なくとも短期的には存在しない。よって、わが国にはアメリカの核の抑止力が引き続いて有効に働くと見るべきだろう。
 
 谷口 雅宣

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コメント

北朝鮮のミサイル騒動で有名になった千葉の峰岡山レーダーサイトは誤報の名産地です。何故かと云うと今の器材はFPS-5ですがまえのFPS-1は口に言えない位のとんでもない代物でした。これ以上は特防秘の為書けませんが、首都圏のレーダーサイトがこんなに貧弱なものでは仕方ないですね。

投稿: 直井誠 | 2009年4月 9日 07:08

直井さん、

 「特防秘」って何でしょうか? 「特別防衛秘密」ですか? 新しい機材になったのならば、もう「貧弱」と言えないのではありませんか?

投稿: 谷口 | 2009年4月 9日 08:47

総裁 谷口雅宣先生
合掌 ありがとうございます
さて、私が航空自衛隊を除隊したのは約10年前です。その頃の最新鋭レーダーはEPS-3でその時には既にFPS-4は開発される寸前でした、その次世代のFPS-5が誤報を出したのです。近くに移動警戒隊がいないところを見ると正式運用していると思われます。誤報はあってはならないので、時既に遅く誤報を出したサイトととしてコメントを出した次第です。あと『特防秘』は正解です。退職後も機密は拘束されますので。確か、本部職員の○×○△さんは前職が海上自衛隊向けのレーダー開発者でしたのでレーダーについてレクチャーをしてくれると思います。

投稿: 直井誠 | 2009年4月 9日 21:23

合掌ありがとうございます。

いまひとつ、古い話題にコメントさせていただきます。

北朝鮮の核ミサイルのお蔭(?)で、航空自衛隊が担っている防空態勢が変わりつつあります…。
総裁先生はじめ、多くの国民の皆様に気付かれないような水面下で、わが国の国防は少しずつ変わっています。
さらに在日米軍の再編により、自衛隊も再編されつつあります。
詳しくは、防衛省のホームページをご覧になってみて下さい。

それと、PAC-3ミサイルは、イージス艦のSM-3ミサイルと比べて射程が非常に短く、SM-3は400㎞ですが、PAC-3は20㎞程度なので、弾道ミサイルの向かう目標付近での破壊となるので、当然ながら、その破片などが周辺に降り注ぐ結果となり得ます。
(詳しくは、ウィキペディアを参照してみて下さい。)

PAC-3くらいの小さな物体で、SM-3くらいの性能を有するBMDの開発は難しいのでしょう…。
しかしながら、ある物で対応していくしかないので、しょうがいですね…。

投稿: 阿部裕一 | 2009年4月29日 00:20

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