« ウサギとカメ (3) | トップページ | ウサギとカメ (5) »

2009年4月18日

ウサギとカメ (4)

 ウサギに比べると少し頭の回転が遅いカメには、「言葉が人間の最大の武器」ということが、よく分からないのでした。カメを煙に巻いたウサギは、そこで大得意になって自論の説明を始めました--
「あのねカメさん、言葉というものには、物を音に置き換える役割があるのさ。例えば、目の前にある小石だが、これを拾うのは簡単でも、おまえさんが乗っている岩は重くて動かすこともできない。でも、“こいし”や“いわ”という言葉は、簡単に動かせるだろう?」
 カメは目をパチパチさせて、自分のいる岩を見つめています。
「こんな説明じゃ、わからないか……。それなら“言葉を動かす”のではなく、“言葉を付け加える”と言えばいい。おまえさんが上に乗っている岩は、実際は重くて動かせなくても、“オレは岩を持ち上げた”と言葉で言うことは簡単だろう?」
「ああ、それならわかる。簡単だ」
 と、カメは頭を上下に揺らしてうなずきました。
 ウサギは、つづけました--
「つまり、言葉をつかえば、本当にはできないこともできたように思える。それができるのは、実際には重くて頑丈で動かしたり割ったりできない岩を、“いわ”という音に置き換えてしまうからだ。そして、“岩が真っ二つに割れた”と言えば、本当にそうなったと思える。ここまでは、わかるね?」
「よくわかる」
 と、カメはうれしそうに言いました。
「こうして、物を音に置き換えることで、人間は頭の中で自分の好きな世界を簡単につくってしまうんだ」
 とウサギは言って、カメの顔を覗き込みました。
 カメは、自分の足元を見ながら、
「でも、岩はほんとは割れてない……」
 と言いました。
「そのとおり」とウサギは言って、さらに続けました--
「でも言葉の威力は、そこから始まるんだ。人間は“岩”“二つに”“割る”という3つの言葉を使って、それを仲間に伝えることで、大勢が同じ目的で動くようになる。つまり、“岩を二つに割りたい”というアイディアが社会に広まり、そのための機械や方法を大勢の人間が工夫するようになり、やがて、本当にそれができてしまうんだ」
 カメは、不満そうな顔でウサギを見ています。
「なんだよ、そんな目でオレを見て……」
 と、ウサギは言いました。
 するとカメは、
「ボクらの仲間だって、大勢が岩に上ることはある。でも、岩はちっとも割れないぞ!」
 と言いました。
「ああ、これだからカメはダメなんだ!」
 と、ウサギは空を仰いで溜息をつきました。
 
 谷口 雅宣

|

« ウサギとカメ (3) | トップページ | ウサギとカメ (5) »

コメント

ありがとうございます。早く続きが読みたいです!

投稿: 奥田 健介 | 2009年4月20日 06:46

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« ウサギとカメ (3) | トップページ | ウサギとカメ (5) »