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2009年4月15日

ウサギとカメ (2)

 カメをバカにして笑っていたウサギは、しかし、顔がだんだん歪んできました。かと思うと、口が大きく開いて大アクビの顔になりました。ウサギは両腕を思いっきり空に突き出して、
「フューワァーアー……たいくつだぁ……」と言ったのです。
 そして、伸びがおわると、
「この島では、やることが何もない……」
 と、低い声でボソボソと付け足しました。
 それを聞いたカメは、ウサギに言いました。
「やることが何もないなんて、おかしなことを……」
 ウサギは、上目づかいでカメを見て、
「オカシもカカシもないよ。何もないんだからしかたがない」
 と言いました。それから息を胸いっぱい吸って、ウサギはアメリカの大統領のように、顔を半分空に向けて演説をはじめました--
「ノロマのおまえさんには分からないと思うけど、ぼくはこの島のすみずみまで、もう行ってしまったんだ。どこにも知らないところはない。この速い足と、よく聞こえる長い耳で、ぼくはこの島のすべてを知ってしまった。何も新しいことはない。何も不思議なことはない。何も驚くことはないんだ。ぼくはこの島のすべてのものに名前をつけて、分類して、頭の中にきれいに整理してしまった。その結果、世界の中のすべてのものは、たった3つの種類に分けられるという偉大な真理を発見したんだ。まぁ、こんなことを言っても、頭の回転の遅いおまえさんにはわからないだろうけどね……」
 ここまで一気に言うと、ウサギはカメの方を横目で見て、相手の反応をたしかめました。
 カメもその時、空を見上げていて、口を開けると、細い舌をペロリと出して、すぐに引っ込めました。そして、
「おいしいぞ」と言いました。
 ウサギはそれを聞きのがさず、
「何をひとりで言ってるの?」とカメに言いました。そして、「空気はおいしくなんかない」と続けました。ウサギは自分が見つけた偉大な真理を、今こそカメに伝えるべきだと感じました。
「おまえさんは、何もわかっちゃいないね。世の中のすべてのものには結局、3つの意味しかないんだ。“おいしい”とか“まずい”とかいうのは、その3つがわかる前の、とちゅうの感じだ。中途半端な結論、と言ってもいい。もし空気に味があるとしたら、“おいしい”のは“よい空気”で、“まずい”のは“悪い空気”だ。それ以外の味は、どんなに複雑で微妙な味でも気にすることはない。よくも悪くもないものは結局、おまえさんにとって何の意味もないからだ。それは、おまえさんにとって“関係ない空気”だから、無視するのがいちばんいい」
 カメはそれを聞いて、
「そんな考えはツマラナイ!」と言いました。
 すると、ウサギはムキになって、
「ツマルもツマルも大ツマリだ。おまえさんは、人生の先輩の言うことを聞くべきだ!」
 と主張しました。
 カメもゆずりません。
「おいしいものを“おいしい”と言うのが、ぜったい正しい」
 と言うと、目をむいてウサギをにらみました。
 
 谷口 雅宣

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コメント

谷口雅宣先生

 このお話は右脳(感覚優先)と左脳(意味優先)のお話ですね。亀は右脳を現し、うさぎは左脳を現している。亀はゆっくり色々な事を味わって、決して急いで生きてはいないけれどもうさぎはデジタル的に意味を限って生きていて、そして何でも早く処理して人生を駆け抜けて行くのですね。

 やはり、現代人はこの亀的生き方が大事なのですね。

投稿: 堀 浩二 | 2009年4月17日 18:51

堀さん、

 おっとっと……あまり先を急がずに、ウサギさん。

 カメより

投稿: 谷口 | 2009年4月19日 13:07

この記事へのコメントは終了しました。

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