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2009年3月11日

サルも歯を磨く

 今朝のNHKニュースでサルが歯を掃除する様子を見て、私は驚いた。歯ブラシや楊枝を使うのではなく、フロスをするのだ。このフロスという習慣は恐らく日本人にはない。なぜなら、『広辞苑』を引いてもこの言葉は出ていない。また、私がそんな方法があるのを知ったのは、大人になってからだ。西洋人が糸を使って歯と歯の間を掃除するのを見て、「奇妙な習慣だな」と思ったのを記憶している。フロスは英語の「floss」から来ていて、もともとの意味は、トウモロコシのひげのように、植物にある絹綿状のものを言い、そこから歯間に糸を通して掃除する「糸楊枝」の意味になったらしい。ちなみに、「糸楊枝」も『広辞苑』にはない。

 このサルの行動は、しかしそれほど一般的な行動ではないようだ。『産経新聞』(11日付)によると、これをするのはタイのバンコクの北東にあるロブリーに生息するカニクイザルの一群で、この行動は10年ほど前から見られるようになり、「人と接する中で学んだ行動と考えられている」らしい。つまり、タイの人はフロスをするということで、このサルは街中で暮らしているから、人間を真似てするようになったというのだろう。しかも、フロスに使うのは「糸」ではなく、人間の「髪の毛」というから不思議だ。
 
 私がこれを不思議に思う理由は、日本ではシカ除けに人の髪の毛を使うという話を聞いたことがあるからだ。シカの食害を防ぐには、人間の髪の毛を吊るした糸を張っておくというのである。ということは、シカにとって人間の髪は“危険信号”か“嫌いなもの”であるはずだが、タイのカニクイザルにとっては、口の中に入れても問題ないということになる。街中で一緒に暮らしていれば、それだけ近い関係になるのだろうか。私だったら、妻の髪の毛でも口に入れたくないし、ましてやサルの毛などまっぴらだ。
 
 ところで、このニュースや新聞記事のポイントは何かというと、親のカニクイザルがフロスをする時、子ザルが目の前にいる場合は、そうでない場合よりも大げさに動作をするということを、京都大学霊長類研究所の研究チームが発見し、今日付で発行されるアメリカの科学誌に発表したということだ。これによって、「親が子に道具の使い方を教える」ことが、人間以外の動物で初めて確認されたと言えるらしい。これは『朝日新聞』の説明だが、『産経』の場合は「歯磨きを教える“しつけ”とも考えられる」と書いていて、微妙に表現が違う。私は、日本語の「しつけ」の意味は「礼儀作法などを身につけさせる」(『広辞苑』)ことだから、ちょっと意味がズレていると思う。『朝日』の表現だと、サルは「道具の使用」をするだけでなく、「道具の使用法の伝達」も行うというポイントがより明確だ。
 
 京大の霊長類研究所は、幸島のサルの“イモ洗い”を発見したことなどで有名だ。これは、「海水を道具に使って、イモの汚れを落とし、さらに塩味をつける行動をサルがしている」ということで、今回の発見は、そういう道具の使用法の伝達が、サルでは親から子へと意識的に行われていることの証拠となる。これがなぜ重要かというと、動物行動学の分野では、「道具を作る」ことや「道具を使う」ことは昔から人間だけがすると考えられていたし、ましてや「道具の使用法を教える」などという高度に文化的な行動を、人間以外の動物がするとは考えられていなかったからだろう。が、私の感想を言わせてもらえば、カラスだって木切れなどを道具に使うし、「教える」ということだったら、鳥も子に飛び方を教えるだろうし、猛獣は狩りの仕方を教えると思うのだが……。それともこれは“素人判断”なのか?
 
 谷口 雅宣

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コメント

私はサルがクルミに石を落として割り、その実を食べていて、子ザル達がそれを真似て失敗しながら成功する映像を見た事がありますがこの様なケースは人間以外の動物界でも多々あると思います、ただ今回のカニクイザルの様に「子ザルの目の前では大げさな行動をする」と言う様な素振りはなく見よう見真似の様でした、カニクイザルのこの点を京大の研究チームは初めて確認したと発表されたのではないか?と、誠に頼りない感想ではありますが、、、、。

投稿: 尾窪勝磨 | 2009年3月12日 11:41

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