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2009年3月17日

本は不況に強いのか?

 3月10日の本欄では、インターネット書店「アマゾン」の電子本専用機のことに言及して、「こんなものが日本に上陸したら、紙製の本の売り上げはますます落ち、中小の書店は相当打撃を受けるだろう」などと書いた。ところが、その一方で、ヨーロッパやアメリカの書店では、この不況の中で紙製の本の売り上げが伸びているというのである。16日の『ヘラルド・トリビューン』紙が伝えている。
 
 それによると、フランスでの本の販売数は、昨秋にいったん減ったものの、12月には前年同月比で2%増え、1月には2.4%増となった。金額ベースではさらに良く、1月は前年同月比4%増、2月には7%も増えたという。ドイツでも同様の傾向が見られ、1月の販売数は前年同月比で2.3%増えた。アメリカとイギリスではそれほどよくないものの、昨年は減っていない。が、今年に入って最初の10週間は、約1%の減少だそうだ。しかし、この減少幅は、他の産業が軒並み2桁台の売上減少を示しているのに比べ、驚くほど小さい、と同紙は言う。
 
 なぜこうなのかについては、いろいろの説がある。まず書籍は、新型テレビやゲーム機に比べて安価であるから、絶好の代替品だ。また、失業者が増えているため労働時間が短くなり、空いた時間を読書に使う人が増えたとも考えられる。あるいは、最近数年間の過剰な労働を経験した人々が、今は読書によってものを考えるようになったのかもしれない。さらには、過酷な現実と直面したくない人々が、名作の中に逃げ込んでいるのかもしれない……。

 が、この傾向が長く続くと考えるほど、同紙は楽観的でない。というのは、書籍の売上が伸びているのは小売段階であって、卸段階では逆に減っているからだ。具体的には、アメリカでの昨年の本の卸売総額は2.4%減ったという。理由は、書店側が出版社への注文を減らしているからだ。また、書籍販売への不況の影響は、遅れてやってくる可能性もある。というのは、同紙が指摘しているように、1929年にウォール街で株価が暴落した直後は、書籍販売はさほど減らなかったものの、それから数年たって大恐慌が進行するにつれて本は売れなくなり、多くの出版社が倒産したからだ。が、逆に、不況によって生れた出版社もあるらしい。それは1935年に設立されたペンギン・ブックスで、同社の創業者は「よい本を煙草1箱の値段で」という新しい考えのもとに起業し、成功した。
 
 現在の書籍の好調の理由を考えるのに、参考になるデータがある。それは、このペンギン・ブックスから出ているジョン・ガルブレイス(John Kenneth Galbraith)の名著『大恐慌--1929年』の売上である。一昨年の同書のイギリスでの売上は200冊そこそこにすぎなかったが、昨年は1万2千部も売れたそうだ。ということは、この不況下にあってこそ、人々が求める本を出すことが出版社の命運を決めることになるのである。

 谷口 雅宣

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