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2009年3月 4日

日本海裂頭条虫は絶滅か?

 最近は「腸内細菌」という言葉を広告などでもよく目にするから、微生物が人間の体内で“よい働き”をしていることは知られるようになった。私も毎朝、ヨーグルトを食べるようになって久しい。しかし、「寄生虫が体にいい」という話は聞いたことがなかった。そう言っているのは人間総合科学大学の藤田紘一郎教授で、“寄生虫博士”の異名をもつ人だ。藤田教授は、3月1日付の『日本経済新聞』に寄稿した記事で、「日本海裂頭(れっとう)条虫はヒトを終宿主にする寄生虫で、ヒトの体内でしか卵を産めないからヒトを大切にする」と書いている。また、1月26日の『産経新聞』では「寄生虫がいると花粉症などの過敏なアレルギー反応を抑える作用が期待できる」としている。で、この日本海裂頭条虫とは何かといえば、体長が10mにもなるあの「サナダムシ」のことなのだ。驚くのはそれだけでなく、藤田教授は2年前まで、サナダムシを自分の体内で飼っていたというのだ。

 何のためか!……というと、「寄生虫をはじめ細菌・ウイルスなどの微生物に対する日本人の間違った考えを是正したい思いがあったからだ。清潔志向に偏りすぎた現代日本人の生活と精神構造に、警鐘を鳴らす目的もあった」(『日経』)と同教授は言う。清潔志向の何がいけないかというと、人間の体内に棲む微生物は、太古の昔から“縄張り”である人間を守ることで人間と共存してきたのに、現代人はこれらの微生物を抗生物質や防腐剤、そして添加物の多い食品を摂取することで「ひたすら攻撃している」からという。同教授が特に問題にするのは、私が冒頭で書いた「腸内細菌」のことで、これらは100種類、100兆個も腸内にいて、我々の免疫力をつけ、ビタミンを合成しているのに、我々はそのことをあまり認めなかったからだ。が、まぁ最近は、腸内細菌については、だいぶ理解が進んでいるのではないか。
 
 ところが同教授が最近心配しているのは、サナダムシが日本からいなくなっていることだ。「それはいいことだ」と我々は考えがちだが、これは地球温暖化と関係している一大事らしい。それを説明するためには、サナダムシの壮大な一生を知らねばならない。この虫の幼虫は、体長2㎝前後のときは魚のサケの肉の中に潜んで日本海を回遊している。これを寿司などとして日本人が生で食べると、我々の体内に入る。人間の腸内では、彼らは1日に20㎝も伸びる。1カ月では6mになり、2カ月で10m前後になったところで成長が落ち着くという。彼らは雌雄同体なので“伴侶”を探す必要がまったくなく、どんどん産卵する。その量たるや1匹で1日200万個も産む。従来ならば、この卵は人糞と一緒に川に流れてミジンコの餌となり、その後は食物連鎖をたどってサケ類の体内に摂取される。ところが、衛生環境が整備されてくると、彼らの卵は川に出られずに死滅してしまうことになる。
 
 それでも藤田教授のところには、サナダムシ発見の知らせが全国から届いていたという。10年前までは毎月1回は連絡があったが、最近はほとんどない。同教授自身、サケを何匹も入手して、体内の幼虫を見つけると、それを飲んでいたそうだ。それが可能だったのは、日本海側の日本より北の国から来たサケ類のおかげだった、と同教授は考える。が、2007年2月以降、幼虫は見つからなくなったという。その理由は「温暖化でサケの産卵回遊に変化が生じた」からだ、と同教授は推測する。もちろん、外国での衛生環境の整備も関係しているだろうが、同教授は「サケの南下が少なくなるとサナダムシはミジンコから稚魚に移行できなくなる」と考えるのである。
 
 目に見えないほど小さいサナダムシの卵が毎朝、200万個もトイレに排出され、それが食物連鎖に乗って何千キロの距離を旅し、そのうちのたった数匹がやがて、どこかの国の人の体内に収まる。すると、待っていましたとばかりにスゴイ勢いで成長し、宿主の身長をはるかに超える大きさになって卵を産む。クリストファー・コロンブスも顔負けの、壮大な生き方ではないだろうか。が、やはり、私は腹の中で何mもの寄生虫を飼うのは勘弁してほしい。その代り、ヨーグルトやチーズ、納豆などをおいしくいただこうと思う、腸内細菌群に大いに感謝しながら……。
 
 谷口 雅宣

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コメント

 日本海裂頭条虫って一体ナンダロウ?!と、とても興味深く、楽しく拝読しました。
 サナダムシを飼う話は読んだことがありましたが、その壮大な生き方については、初めて知り、驚きました。
 いったいどうやって、そのような生態を身に付けたのか、見当もつかず、とても不思議です。
 末尾の「が、やはり、私は腹の中で何mもの寄生虫を飼うのは勘弁してほしい。」という文は、ユーモラスで、笑ってしまいましたが、同感です。
 細菌なんてどこにでもいっぱいいるのに、目にミエナイから、必要以上に怖がられたり嫌われたりするのでしょうか。
 いや、サナダムシみたいに何メートルもあって、目に見えてもそれはそれで気持ち悪いですね。

投稿: 片山 一洋 | 2009年3月 5日 17:36

谷口様。我が国を代表する宗教家の日々の思い、いつもありがたく拝見させていただいております。
わたしも、さすがに「サナダムシ」は、抵抗あります(笑)。
でも、「腸内細菌」は、本当に共存共栄のありがたい存在だと思います。
腸内を、「善玉菌」優位にしておくと、それこそ、ノロウイルスやO157、チフス、赤痢、コレラでさえも、防御することができるそうです。
海外旅行の達人や、「国境なき医師団」(だったかな?)などの最前線に行く方は、「オリゴ糖」を、毎日服用していると聞いたことがあります。
オリゴ糖は、ビフィズスなどの善玉菌の増殖に大変効果的で、人体に吸収されないので、肥満にもならないそうです。
http://viajeymovil.blog22.fc2.com/blog-entry-46.html

大切なお体ですので、海外にいかれるときは、ぜひ、思い出してください。

投稿: 山口 謙介 | 2009年3月 5日 21:47

だいぶ前、目黒の寄生虫博物館へ立ち寄りました。

標本で超ビッグサイズのサナダムシが展示されていて、

ぎょえーっ∑(゚∇゚|||) と驚いた記憶があります。

その時寄生虫にも色々な種類があることを学びました。

http://museum-dir.jst.go.jp/13-031/13-031.htm

今もあるようです。なかなか楽しめます。

投稿: はぴまり | 2009年3月 6日 10:49

初めまして、日本海裂頭条虫に掛かっております。
絶滅か? 等と書いて有りましたが、しっかりと健在して
いますよ。

原因は、頂き物のサクラマスの半身!
釣ってきたばかりだからと、そのまま刺身にて美味しく頂いたのが、そもそもの間違いで、2週間程過ぎてから水溶様下痢が続き、肛門よりコーラグミみたいな色の紐状の物が垂れ下がり、頭パニック!! トイレットペーパーで挟みドンドン引っ張り出して約1.5m程で切れてしまい、ペットボトルに水と虫体を入れて、一晩経つとお馴染な形と色(少し黄ばんだ白く薄いきしめんみたいな感じで、真ん中に黒い点線有り)に変化。

それを医者に持って行った所、これが大人気!! 医者も初めて見るもので、一生に一度見れるかどうかの代物と言いながらカメラを取り出して記念撮影。

さらに、紹介先の病院の医師にも大人気!! やはり見た事の無い物だったので、少し興奮気味で他の外来対応の寄生虫に明るい医師に聞いてくれて、対応してくれました。
滅多に無い物なので、薬の入手に一週間程掛かり、治療の日程は未だハッキリしません。

ちなみに、親も喰らって先に診察したら、休養がてら入院しなさいと言われ、即入院(検体入院みたいな感じでした)

日本海裂頭条虫・・・・かなり健在です。

投稿: まさき | 2009年5月11日 21:22

まさきさん、

 貴重な“体験レポート”ありがとうございました。
 そうですか、まだ健在であるのなら、喜ぶべきでしょうか。それとも悲しむべきでしょうか……。難しい問題ですね。

投稿: 谷口 | 2009年5月11日 23:20

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