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2009年3月13日

米でES細胞の研究が拡大

 1月24日の本欄で、発足したばかりの米オバマ政権がES細胞の利用規制を緩和するとの観測を紹介した。また、2月6日には、ES細胞とiPS細胞の2つを比べながら研究を進める方法を、再生医療研究者は求めているらしいと書いた。その理由は、前者は“本物”だが後者は一種の“代用品”だから、代用品の優秀さは本物なくしては分からないというものだった。そして、3月10日の『ヘラルド・トリビューン』紙は、オバマ大統領がブッシュ時代に禁止されていたES細胞研究への連邦予算の支出をついに解禁する、と伝えた。その記事を読むと、アメリカのES細胞研究は、今回の大統領の決定だけでは“一挙進展”とはいかないようだ。その理由を述べよう。
 
 ブッシュ政権下のアメリカでは、人間の受精卵を使った研究を禁止するための法律改正が議会によって行われていたから、研究範囲が実際に大幅に拡大されるためには、議会がオバマ氏の方針に賛成して法改正を行わねばならないのである。この法律による禁止条項は、通称“ディッキー=ウィッカー改正条項”と呼ばれるもので、1996年に成立して以来、議会によって今日まで毎年、延長され続けてきた。そこでは、具体的には、国民の税金を使って人の受精卵を作成することと、受精卵を壊したり廃棄すること、さらに受精卵が傷つく可能性を知りながら、その危険を冒すことが禁じられている。これらの法の縛りがなくなるまでは、“全面解禁”とは言えない。

 しかし、今回の大統領令によって、すでに作成されたES細胞株を使った研究には、連邦政府の予算がつくことになる。だから、アメリカにおけるこの分野の研究は今後、大幅に伸びることが予想されるのである。『朝日新聞』もそう考え、今日(13日)の社説で「オバマ大統領は、政治や宗教にゆがめられない健全な科学政策を目指している。今回の発表もその大きな一歩といえる」と大いに持ち上げている。

 が、宗教が科学を「ゆがめる」という考え方はおかしい。科学は「善悪の価値判断をしない」ことで発達してきたことは認めるが、そのことによって生物化学兵器や核兵器の製造が行われてきたことも事実である。宗教が科学の使い方に関与することは、必ずしも「ゆがめる」ことにはならず、「正す」場合もあるはずである。にもかかわらず、宗教が関与しないことが「健全」だとするのは、大いなる偏見である。また、オバマ政権自身は、科学政策について「政治や宗教にゆがめられない」という表現は使っておらず、「科学と政治を分離するという公約の一環として」(as part of a pledge to separate science and politics)この政策を実行したと言っている。『朝日』の記事では、この「政治」(politics)という言葉が、いつのまにか「宗教」にすり替わっているのである。

 ところで、私のES細胞研究についての見解は、1月24日の本欄などですでに何回も述べたので、ここでは繰り返さない。日本は何でも「アメリカの右に倣え」をする癖があるから、今後、iPS細胞の研究だけでなく、ES細胞研究の規制緩和への圧力が強まることが予想される。私は、受精卵を使わない前者の研究は条件付きで支持するが、ES細胞研究には反対の立場を崩すつもりはない。
 
 谷口 雅宣

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