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2009年3月24日

なぜ今「地球環境工学」か? (3)

「地球環境工学」を語りながら、私はここまで肝腎なことを1つ書かなかった。それは、この新しい科学技術が「具体的に何をするか」ということである。前回紹介した『NewScientist』誌は、この技術について「地球の自動温度調節装置を調整すること」と表現し、具体的手法として、太陽光を拡散させて弱めるために「大気中に微細な塵をばらまく」ことや、「宇宙空間に鏡を大量に打ち上げる」ことなどを挙げている。しかし、その一方で「植林」も地球環境工学の“原始的方法”だとしているところを見ると、若干、概念の混乱があるのかもしれない。が、読者にこの概念のイメージを理解してもらうために、同誌の挙げている例をすべて列挙してみる:

(1) 宇宙鏡の設置(space mirrors)--上述の通り。

(2) 植 林(foresting)--省略。

(3) エーロゾル散布(aerosols)--成層圏に煙霧質の粒子を散布する。

(4) 人工雲の作製(cloud seeding)--海水を粒子にして大気中に散布する。

(5) 人工木の埋設(artificial trees)--炭素を固定した人工木を地中に埋める。

(6) 反射性作物の栽培(reflective crops)--太陽光の反射効率が高い作物を植える。

(7) 生物炭化法(biochar)--農業廃棄物を炭化させて土中に埋める。(2月9日の本欄参照)

(8) 海洋肥沃化(ocean fertilization)--海中への鉄分付加でプランクトンを活性化。

(9) 海洋への炭酸注入(carbonate addition)--粉末の石灰岩を海中に投入する。

 これらの具体策を見て気がつくことは、ほとんどのものが比較的安価に実行できることだ。「安価」という意味は、現在考えられている温暖化抑制のための諸方策--省エネ、省資源、リサイクル、炭素税、排出権取引、自然エネルギー開発など--に比べて、コストが安く見えるということだ。また、一国の決断で実行できるという点も見逃すことができない。この2つの要素は、しかし地球環境工学の長所であると同時に問題点でもある。なぜなら、安価で実行しやすい方策は、国際的な取り決めなしに、また環境への影響評価を軽視して実行されやすいからである。
 
 『NewScientist』誌によると、この危険性は実際、2005年11月にあったという。当時、国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の副議長で、ロシアの地球気象環境研究所の所長であったユーリ・イズラエル氏(Yuri Izrael)は、プーチン大統領に対して、ロシアは今すぐ大気圏に60万トンの硫酸塩エーロゾルを散布すべきだと提言したのだ。この方法は、上記のリストの3番目にあるものだが、2007年に行った実験によって、硫酸塩による太陽光の遮蔽は、地球のある箇所に深刻な旱魃をもたらす危険があることが分かったのだ。

 だから、このような危険性を無視して地球環境工学を実施することは、国際紛争の原因になるのである。事実、アメリカはベトナム戦争時代、敵のホーチミン・ルートの補給路を断つ目的で人工雨を降らせる実験をしたことがある。つまり、この技術は戦争目的に使用できるし、実際にそうされたことがあるのだ。これによって「国連環境変容技術の敵対使用禁止協定」(UN Convention on the Prohibition of Military or Any Other Hostile Use of Environmental Modification Techniques, ENMOD)が作られ、今日までにアメリカを含む70カ国が批准していることは重要である。この技術の“悪用”が、人類全体にとって、さらには地球全体の生態系にとって深刻な問題を投げかける可能性を忘れてはならないだろう。
 
 谷口 雅宣
 

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