なぜ今「地球環境工学」か? (2)
地球の平均気温に「4℃の上昇」が起こった場合の科学者のシミュレーションを、3月21日の本欄で紹介した『New Scientist』の記事から拾って紹介しよう。
同誌は、それが起こった時の地球環境を「人類がかつて経験したことのない変わり果てた地球」だと表現する。が、人類が登場する前の地球には、そういう“温暖時代”があったらしい。それは今から5500万年前で、海底深くに凍結し化学的に封印されていたメタンが、地上に噴き出したことで始まったと言われる。これによって5ギガトンの炭素が大気中に放出され、地球の平均気温は5~6℃も上昇し、極地に熱帯林が出現したという。また、海には二酸化炭素が融け出して酸化したため、海洋生物の大量死が起こった。加えて、氷の融解によって、海面は現在より100メートルも高い位置まで上昇し、南アフリカからヨーロッパあたりまで砂漠になった。「4℃の上昇」が起こると、これと似た現象が起こると予測されている。
これは理論上の想定で、実際に何がどう起こるかは、気温上昇のスピードと、極地の氷がどれだけ融けるかによって変わってくるらしい。が、この“温暖時代”の大きな特徴の1つは、現在の地球で人間の居住と食糧生産に適した場所の多くが、居住にも農業にも適さなくなることだ。また、水温の上昇による海水の膨張や、氷河の融解、高波などで、当初は海面が2メートル上昇し、さらにグリーンランドや南極の氷が融け出せば、さらなる海面上昇が起こるという。NASAのゴッダード宇宙科学研究所のジェームズ・ハンセン所長(James Hansen)によると、大気中のCO2の濃度が現在の「385ppm」から「550ppm」になれば、地球上から氷は完全に消え、海面上昇は80mに達するという。
人類が居住地と農地を失う理由は、熱帯地域の砂漠化によるらしい。現在、地球上の土地の半分は北緯30度から南緯30度の熱帯に位置していて、この地域が特に気候変動に対して脆弱であるという。平均気温が4℃も上がると、例えば、インド、バングラデッシュ、パキスタンなどでは、短期間に激しい熱帯モンスーンが訪れる。これが、現在より洪水の被害を拡大する一方で、地表の熱は上がっているから、蒸発も速く起こる。そこで、アジア地域では旱魃が悪化するという。これらの影響で、バングラデッシュでは土地の3分の1が失われると予測されている。
アフリカのモンスーンも激化するという。モンスーンが運ぶ雨により、サハラ砂漠から南方の地域は恐らく一度は緑化すると予測する人がいる。その一方で、アフリカ大陸全土を、深刻な旱魃が襲うとする予想もある。また、地表の温度が上がることで水分が減少するから、中国大陸、アメリカ合衆国南西部、中米地域、南米のほとんどと、オーストラリアで得られる淡水の量は減少する。サハラ砂漠は北上しながら拡大して、中央ヨーロッパに達する。さらに、温暖時代には氷河は消えてしまうから、ヨーロッパ・アルプス、ヒマラヤ、南米のアンデスなどからの水量は激減し、その結果、アフガニスタン、パキスタン、中国、ブータン、インド、ベトナムなどで水不足が深刻化するという。
このように見てくると、地球上で人類が生活できる地域は、北極と南極に近いごく限られた土地ということになる。ガイア理論の提唱者であるジェームズ・ラブロック博士(James Lovelock)によると、極地付近の地域以外には人が住めなくなるため、「人類は極めて困難な状況に置かれるし、私は、こういう困難を切り抜けられるほど人類が利口とは思わない。人類は生物種としては生き残るだろう。しかし、今世紀中に出る犠牲者の数はとてつもなく大きくなる」という。
地球環境の将来について、このように深刻な予測が、名の通った科学者や一流の研究機関の間にあることを知ってみると、そんな事態を防ぐためには「あらゆる手段を使うべし」という意見が出ることも頷ける。「今、地球環境工学の実地研究に乗り出すべきだ」という考えは、こういう文脈で表明されているのである。
谷口 雅宣
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コメント
この度は、地球環境問題を放置した結果を力説して下さってありがとうございます。
一人の信徒として最近は環境問題解決の取り組みに積極的ではありませんでした。
ですが、今回の記事に深く惹かれてしまい私たちが生長の家の信徒としてやるべき事を再確認出来ました。
ありがとうございます。
明日からの幹部研修会をどのような精神で受けるか…それを発見する良ききっかけになった事に感謝いたします。
投稿: 橋本知幸 | 2009年3月27日 19:58