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2009年2月16日

バイテクで子供に投資する

 ニューヨーク在住の安藤比叡・本部講師が、最近の子供の遺伝子解析に関する興味あるニュース記事を送ってくださった。昨年11月30日付の『ニューヨークタイムズ』に載った記事で、昨今のアメリカの“教育ママ”の中には、子供が小さい頃に遺伝子解析をしてその子の運動能力についての“適性”を知り、適性があると思われるスポーツを習わせる人がいるらしいのである。その方が、早期から練習に取り組め、どのスポーツをすべきかと迷うロスを防げ、一点集中による効率化がはかれるというわけである。

 これは、コロラド州ボールドーからのレポートである。この町は特にスポーツ熱が盛んらしく、それに目をつけた企業が、遺伝子解析によるスポーツの適性診断サービスを始めたのだ。やり方は簡単で、8歳までの小さい子の口の裏側の粘膜からDNAを採取し、それをラボに送って「ACTN3」と呼ばれる遺伝子を解析するだけである。1回の診断が「149ドル」(約1万3千円)である。この遺伝子は、2003年に行われた1つの研究で、体の「瞬発力」と「持久力」に関係があるとされたそうだ。この企業は、「ACTN3」の解析によって、子供が陸上の短距離走やアメフットのような筋肉の瞬発力を必要とするものか、長距離走のような持久力を要するものか、あるいは双方を組み合わせた種目を顧客に“推薦”するらしい。
 
 しかし、専門家の中にはこの種の診断の確実性を疑問視する人もいる。例えば、カリフォルニア大学サンディエゴ校医療センターのセオドール・フリードマン博士(Theodore Friedmann)に言わせると、「ACTN3」の研究はまだ緒についたばかりだから、これを診断の材料にする商売は「いかがわしい薬を売る」ようなものだという。また、「ACTN3」を研究したメリーランド大学のスティーブン・ロス博士(Stephen M. Roth)は、「マイケル・フェルプスのような世界的選手の成功を生んだのが1つや2つの遺伝子だと考えるのは短見である」と言う。そして、人間の運動能力に影響を与えることが分かっている遺伝子は、少なくとも200はあるとしている。ロス博士によると、この遺伝子が意味をもつのは、一流のスポーツ選手が自分のトレーニングの方法を考えるなど、限られた特定の場合であり、普通の小学生が学校でするスポーツの成績にはほとんど影響がないという。
 
 同紙の記事によると、この遺伝子解析は、ジェネティック・テクノロジー社によって2004年からオーストラリアで始まり、その後、ヨーロッパや日本でも提供されているという。
 
 こういう話を聞くと、私は近未来を描いた短編小説集『神を演じる人々』(日本教文社、2003年刊)に出てくる「本川瑛美」の話を思い出す。この人物は「飛翔」という作品の主人公で、並はずれた跳躍力をもっているために一流のバレリーナとしての将来が約束されていた。だが、この跳躍力は遺伝子改変によって人為的にもたらされたものだったため、両親は娘が世間から差別を受けることを恐れ、秘密の練習に娘を通わせていたのである。そのことが一つの原因となり、主人公は練習中、取り返しのつかない事故に遭う--そういう筋書きである。今回の技術は遺伝子の「解析」だけであり、「改変」のレベルにはまだ達していないが、自分の子供をスポーツの分野で成功させるために、親がどれほどの“熱意”を示すかを、小説ではなく、実例によって示している。

 我々は今、1回の遺伝子解析が1万円ちょっとでできる時代にいるのだ。それに加えて遺伝子の「改変」もできることになれば、安全性の問題さえ解決すれば、出費を惜しまない親は案外多いのではないかと思う。が、その場合の親の気持は、本当の「親」というよりは「投資家」の気持に近いと思う。
 
 谷口 雅宣

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コメント

合掌、ありがとうございます。
改造人間 仮面ライダーを思い出してしまいました。( ̄○ ̄;)! オーバーでしょうか?
先生の御著書『神を演じる人々』の「本川瑛美」のように、才能があるから必ずしも大成するとは限らないと思います。
スポーツでもなんでもそうだと思います。
幼いとき、絵の才能があると言われ、全く興味のない絵画教室に通わされましたが、絵を描くことより、絵画教室(広いお寺)を走り回ることのほうが興味があって、親の期待を裏切り、教室に行っては、絵を書かないで、走り回っていました。
不思議なことに、宗教の話の時だけは、おとなしくしてました。
最初は、「上手ね・・・」と誉めてもらってましたが、興味なかったので、全くダメでした。
何に関しても、同じことが言えると思います。
お金をかけて美容整形にしても、美人に見えないこともあるし、それが、幸せになるとは限らないことですし。「美人薄命」と言われるくらいですから。
だから、教育ママの私ですが、子供にそんなことはしたくありません.
無駄なことだと思います。
”人間は、神の子、無限力”を信じていますから、才能を伸ばすには、”生命の教育”のほうが確かだと思います。
再拝

投稿: k.k | 2009年2月17日 17:08

 私も二児の父ですが、子供の遺伝子解析や改変ということに、あまり誘惑を感じません。理由は簡単で、努力することの価値や、迷い進歩向上することで得られる喜びと、遺伝情報による資質とは、あまり関係ないと考えるからです。人と比べて優れていることよりも、もっと価値のある意義が、スポーツや学問には、あって、イチローさんにはイチローさんの悩みがあるのではないかと・・。
 まして、人間の可能性は無限だと教わっているのに、子供を型にはめるみたいで、つまらないですよね。
 仮に遺伝子の改変が出来たとして、したい人はしてみても良いと思いますが、長い年月をかけて絶妙に調整されてきたものを、不用意に変えるのは怖いです。例えば火事場の馬鹿力なんて、普段出ると危険な筋力をわざわざセーブしているわけでしょうし。
 


 

投稿: 片山 一洋 | 2009年2月17日 22:31

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