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2009年2月15日

信仰は健康によい

Time090223  アメリカの時事週刊誌『TIME』が、2月23日号で「信仰はどう癒すか」(How Faith Can Heal)と題し、健康をめぐる心と体の相互関係について特集記事を載せている。簡単に言ってしまえば「信仰をもつことは健康にいい」というのが、その記事の結論だ。この種の“心身相関”の話を、私はここ数年、本欄に書く機会がなかった。目立った発表に遭遇しなかったからだ。しかし、この特集記事は最近の医学的知見をまとめているので、大いに参考になる。

 私が前回この問題に触れたのは2006年4月3日の本欄で、その時は「祈りには治病効果がない」という研究結果を紹介した。この研究は、プラシーボ効果について詳しい心臓外科医、ハーバート・ベンソン博士(Herbert Benson)が主任となって行われた信頼性のあるものだったので、その結論に私は少なからずショックを受けた。が、今回の記事で紹介されているコロンビア大学のリチャード・スローン博士(Rchard Sloan)の見解では、祈りの効果を科学的に立証することは“愚者の夢”(fool's errand)だといい、ベンソン氏の研究方法そのものに疑問を呈している。その理由は、祈りの受け手がどれだけ祈られたかは知ることができないし、それが分からなければ祈りの効果は測定できないからだという。
 
 ベンソン氏の研究の詳しい内容は上記の本欄を参照してほしいが、スローン博士のポイントは、患者にとって重要なのは、その人が実際に祈りの対象になったかならなかったではなく、患者本人が、自分が祈りの対象にされたと「思う」か「思わない」かだというのである。もし自分が祈られていると思うならば、そこからプラシーボ効果を起こすメカニズムが患者の心身で働き出し、ある時には“奇蹟的”と思われる効果も発揮するというのである。
 
 プラシーボ効果とは「偽薬効果」とも訳されるが、医学的には1780年代から知られている現象で、砂糖の丸薬など、医学的には全く治療効果のないものでも、それを服用する人が「効果がある」と信じて飲めば、実際に効果が生じることをいう。このことは拙著『心でつくる世界』(1997年)にもやや詳しく書いたが、「信仰によって病気が治る」という場合でも、相当数はこのプラシーボ効果によると思われるのである。が、このことからは、「だから宗教はインチキだ」という結論へ向かうべきではなく、「だから、人間の自然治癒力は驚嘆に値する」とか「人間の心の力は偉大だ」という方向に進むべきだろう。

 この特集記事も、その方向に論を進めている。もし、“砂糖の丸薬”によっても奇蹟的治癒が起こるならば、神への信仰や宗教の教義のように、人々の心を深く動かすものに治病効果がないと考える方が不自然なのだ。こうなると、定期的に教会へ通う人々とそうでない人々との健康状態を統計的に比較する研究が意味をもってくる。テキサス大学の社会人口統計学者、ロバート・ハマー氏(Robert Hummer)が1992年から続けているこの分野の研究成果には、動かし難いものがある。それをまとめると、次の2つに集約される--
 
 ①教会など宗教行事にまったく行かない人は、毎週教会へ行く人に比べて、8年後までに死ぬ確率は2倍である。
 ②まったく教会へ行かない人と毎週行く人との中間段階にある人々の寿命は、両者の中間的位置にある。
 
 このような統計結果が出る理由には、様々なものが考えられる。例えば、教会は一種の社交場であり、コミュニティーを形成するから、そこに集まる人々の間には親しく近い関係が生じるだろう。すると、普段の互いのコミュニケーションも密接になるだろうから、心臓発作や脳梗塞で倒れたときも、教会メンバーの方がそうでない人よりも速く病院に連れて行ってもらえるかもしれない。そうなれば、医学的理由ではなく、社会的理由でも平均寿命は長くなる--という具合にだ。しかし、その一方で、宗教が肉体の一部である脳に影響を与えることで、ストレスに対する心身の反応自体が、宗教を信じる人とそうでない人との間で違ってくることも考えられるのである。
 
 神経科学の発達により、宗教的体験や感性が脳の頭頂葉や前頭葉でのニューロンの活動に関係していることが明らかになってきた。これに、脳の可塑性(変形する性質)を加味して考えると、祈りや瞑想を定期的に行う人と、そうでない人との間には、長い間のうちに脳に構造的な差異が生れるとしても、不思議でない。そして、この記事によると、実際にその通りになるらしいのだ。
 
 ペンシルバニア大学のアンドリュー・ニューバーグ博士(Andrew Newberg)の研究では、100人以上の人が様々な方法の瞑想や祈りを行う中で脳をスキャンして調べたところ、前頭葉が主体となって活動していることが分かったという。そして、祈りや瞑想が深まってくると、頭頂葉がしだいに静かになる--この状態のときに、人は地上的なことから解放された気分になるという。また、称名を唱え続けたり、誦行をしていると前頭葉の活動が静まり、自分が唱えている言葉が、自分とは別の力によって発せられているような気持になるという。そして、このような瞑想を15年以上続けている人の前頭葉は、そうでない人よりも分厚くなっていることが分かったそうだ。また、自分は宗教性が高いと考える人の脳の視床は、非対称的である傾向があるが、対称的な視床をもつ普通の人も、瞑想を8週間実修すると、視床に非対称性が現れることがあるという。
 
 このような研究と、ここには書かなかった様々な研究や発見により、「信仰は健康によい」というのが、今や医学者と宗教者の1つの合意点であるらしい。
 
 谷口 雅宣

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コメント

谷口雅宣先生

 昨日、夕方のNHKラジオに筑波大名誉教授の村上和雄氏が出て、心の力が如何に健康に作用するかという事の話をしていました。
 その中で氏が吉本興業と協同実験をして、笑いというものが如何に糖尿病患者の血糖値を下げる事に効果があるかとか、また、笑いが長寿遺伝子を活性化させるとか、アメリカでも50%以上の人が西洋医学の万能性を信じておらず、瞑想とかの宗教的行為で心を平安にする事で治病をしようとしているとかという話を披露して、科学と宗教の目的が一致する時代の到来を説いていました。

 NHKのアナウンサーはそうした話は初めて聞くかの様な態度で受け答えをしてましたが、一般の公共放送ことにNHKなどの国営放送では今までそうした超科学的な話はタブーみたいな所があったと思いますが、同教授が遺伝子研究の権威であるという事も手伝ってかそうした話がこうした場でも放送される様になって来たのは私は大変嬉しい事だと思いました。

投稿: 堀 浩二 | 2009年2月17日 09:42

堀さん、

>>一般の公共放送ことにNHKなどの国営放送では今までそうした超科学的な話はタブーみたいな所があったと思いますが<<

 一時期は本当に“タブー”のように扱われていましたが、最近は随分NHKでもこのテーマは扱われていると思います。日本教文社からも本を出している高田明和さんなんかは、結構、NHKに出ていますよ。また、笑いと健康の関係の本は、書店に多く並んでいるし、学会まであるようです。この件は、それほど“超科学的”と言えないと思います。脳のスキャンは、病院で普通にやってくれますから……。

投稿: 谷口 | 2009年2月17日 14:23

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