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2009年1月24日

オバマ政権と生命倫理

 「アメリカ初の黒人大統領」という鳴り物入りで発足したオバマ政権の動きに今、世界が注目している。アメリカにも責任がある現下の深刻な経済問題に、緊急に対処しはじめたことは当然ながら、それ以外にも矢継ぎ早に新しい政策を打ち出している。その中で、宗教とも関係が深い生命倫理に触れる重要な決定が早期になされたことを、私は驚いている。その決定とは、次の2つである--①人工妊娠中絶への制限措置の撤廃、②人のES細胞の利用規制の緩和。これらは、共和党のブッシュ政権下では“宗教的理由”による反対派の声を考慮して、抑制されてきたものだ。私は、ブッシュ氏の地球温暖化対策の軽視や“テロとの戦争”など多くの政策に反対してきたが、「中絶反対」と「ES細胞の利用規制」については大いに評価していただけに、オバマ氏の今回の決定は残念に思う。

 今日の新聞各紙によると、オバマ大統領は23日、人工妊娠中絶を支援する団体などへの資金援助の規制を撤回する大統領令に署名した。これによって、ブッシュ政権下で中止されていた国連人口基金への予算拠出も再開される見通しだ。これに先立ち、オバマ氏は「私は女性の選択する権利を擁護する」という声明を出す一方、「我々は立場は違っても、中絶の削減に向けて結束する」とも述べた。中絶を容認しつつ、避妊の拡大などで中絶数の削減を目指す考えらしい。また、オバマ氏は23日の声明では、アメリカの国論を二分しているこの問題について、「政治問題化に終始符を打つ時だ」とし、「家族計画に関する新鮮な議論をして、世界の女性のためになる一致点を見出す」考えを示したという。
 
 ES細胞の利用促進に関しては、オバマ氏の直接の声明の形ではなく、政府の食品医薬品局(FDA)の判断として政策が実行された。23日の『朝日新聞』夕刊によると、FDAは、カリフォルニア州のバイオベンチャー「ジェロン」が申請していた、ES細胞を使った臨床試験を認可した。この試験を受けるのは、脊髄損傷で歩けなくなった患者8~10人で、神経細胞を保護する機能をもつ細胞を人のES細胞から分化させて、損傷部分に注入する治療を行うという。同社は昨年、この試験実施の申請を出したが、FDAは実施の留保を指示していた。実施されれば、世界初のES細胞の人への医療応用になるらしい。
 
 今朝放映されたABCニュースによると、オバマ大統領は来週にもES細胞の研究を促進する意図を表明し、ブッシュ政権下で禁止されていたES細胞研究に対する連邦政府の資金援助を開始するという。このニュースの中でインタビューを受けていたハーバード大学の幹細胞研究所(Harvard Stem Cell Institute)のデビッド・スキャデン博士(David Scadden)は、「これによって、人々には将来の仕事の方向性が見えてくるので、大いなる変化が訪れるでしょう」と言っていた。
 
 これらの件についての私の考えは、本欄をはじめ『神を演じる前に』や『今こそ自然から学ぼう』などの著書で繰り返し表明してきたが、ブッシュ氏の考えに近い。その理由をここで詳しく述べないが、簡単に言うと、妊娠中絶への反対は、この世での人間生命の開始を受精後まもなくだと考えるからであり、ES細胞の利用に反対する理由は、まさにその「受精後まもなく」の時期に破壊された受精卵から、ES細胞は作られるからである。今の医学の主流では、人間が苦痛を感じるのは神経細胞によると考えるから、その神経細胞が未発達の段階である受精卵は、破壊しても苦痛はないという結論になる。しかし、そのようにして、未来世代の人間である受精卵や胎児を、現世代の人間の幸福増進の手段にしたり、また研究材料に使うこと自体が、世代間倫理の観点から間違っている、と私は思う。別の言葉を使えば、我々は、未来の人間になるはずの生命を自己目的に利用しようとしているのである。自己実現の障害になるとして幼い命を抹殺するのが人工妊娠中絶であり、自己実現や延命のためにそれを利用するのがES細胞の医療応用である。

 私は、オバマ氏の大統領就任演説を聞いて感動した一人だが、その演説の最後に、子孫の自由と幸福のために今の困難を耐え抜こうと呼びかける言葉があった。それは、次のようなくだりである--
 
「子々孫々が今を振り返った時に、我々が試練の時に旅を続ける意志を貫き、引き返すことも、たじろぐこともなかったということを語り継がせようではないか。地平線に視線を定め、神の慈悲を身に浴びて、我々は自由という偉大な贈り物を運び、将来の世代に安全に送り届けたということを」。

 成長過程にある幼い生命の発生過程を中断することは、その生命の「自由」を最も根源的に奪い去る。だから、彼の今回の決定は、就任演説の最後のこの決意に反する結果になることを、オバマ氏は気がついていない。
 
 谷口 雅宣

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コメント

とても、ショックです。

私もオバマ氏の演説に感動した一人でしたが、がっかりしました。

神に誓っていらっしゃいましたが。 残念です。

投稿: 酒井幸江 | 2009年1月25日 01:27

オバマ大統領は、クリスチャンでは?
何故?!と、信じられません。
悲しい結果にならないように
いち早く、間違いに気づいて欲しいです。

投稿: k.k | 2009年1月29日 22:33

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