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2009年1月16日

上を向いて歩こう (3)

 これまで本題でこのブログを書くとき、私は“大不況”とか“経済危機”などと呼ばれる今日の困難な経済状況にも「良い面」があるから、それを認めて明るく前進することを訴えてきた。例えば、昨年10月11日の本欄にはこう書いた--
 
「株価の下落は消費マインドを減退させるというが、それはそのままCO2の排出削減になるし、自然破壊の速度が鈍ることを意味する。人間の諸活動の“過剰”な部分が削り取られて、もっと自然と共存できる技術や生き方、諸制度が新たに工夫できる素地が整えられるかもしれないのである。いや、まさに今、そちらの方向に人類は大きく舵を切るべきだ。枯渇する資源を争奪して富を増やすことから、枯渇しない自然エネルギーの利用と、他国や自然との共存に向かって産業構造を切り替える時期に来ているのだ」

 また、私の生活と仕事の場である東京・原宿のきらびやかな“繁栄”については、「ヴァニティー・ストリート」(虚栄通り)と呼んで批判したり、作家の工藤美代子さんが命名した「欲望の街」という表現に賛同したりした。私がブログでいくら批判しても、世界の高級ブランド・ショップにとっては痛くもかゆくもない。が、世界的経済不況がやってくると、さすがにダメージが大きい。贅沢品や装飾品は、消費者の購入リストから真っ先に削られるからだ。その証拠に、ルイ・ヴィトンは最近、豪華な大型店の東京への出店を取りやめた。シャネルも、200人の臨時雇用者の自宅待機を決定した。が、仕事が減るだけでは必ずしも“良い面”とは言えない。仕事の内容そのものが“自然共存型”や人間の“精神向上型”に変化していくべきである。

 ところが、そうした贅沢品や装飾品の“発祥地”のように言われるフランスで、「これから精神性の向上を重視した生き方が始まる」として不況を歓迎する声が上がっているという。16日の『ヘラルド・トリビューン』紙が伝えている。それによると、『ル・フィガロ』誌は最近号の12ページを割いて、慎ましい生活のための手引を特集し、人々は今年、仕事を減らして家族との時間を大切にするだろうと予測している。専門家に言わせると、これはフランスでの“価値観の革命”だという。また、世界5大宝飾店に挙げられるモーブッサン(Mauboussin)の会長は、今回の不況からフランスの贅沢品産業を救うためには、価格の大幅引き下げをしなければならないと主張し、自ら「愛の機会」(Chance of Live)という名の1カラットのダイヤの指輪の値段を、通常より3分の1安くしたという。
 
 フランス言論界ではもっと厳しい反省が行われ、贅沢品産業が死滅することが国家の浄化に必要だという意見さえ出ているらしい。また、アメリカ式資本主義の信奉者で、就任時には、より多く稼ぐためにより多く働こうと訴えたサルコジ大統領も、考え方を変えたようだ。同大統領は先週、世界経済に道徳的価値を導入することをねらった政治家・経済人の会合で演説し、古い金融秩序は「非道徳的で制約のない資本主義によって悪用された」ため、「富の象徴が富自体より尊重されることになった」と現状を批判した。そして、国家には資本主義の過剰を規制する役割があると述べたという。

 あるインタビューの中で、シャネルのデザイナーであるカール・ラゲルフェルド氏(Karl Lagerfeld)などは、「今のような劇的な変化がなければ、創造的な進化というものは起こらない。華美や虚飾の時代は終わった。人造ダイヤを散りばめた赤い絨毯は、もういらない。私はこれを“新しい節度”と呼びたい」と言う。が、シャネルの人員整理は騒がれ過ぎた、と同氏は言い、先週同社がパリとモスクワで行ったオートクチュールのショーでは、2007年のパリとロンドンのショーより17%も売り上げが伸びたことを強調したそうだ。
 
 原宿の表参道に象徴される世界の贅沢品業界が今後、どうなるか私には分からない。しかし、虚飾や過剰な消費を反省する動きは現に世界中で起こっているのだから、この流れを生かした“自然共存”“精神向上”の産業が育っていくことを、私は心から願っている。
 
 谷口 雅宣

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コメント

日本教文社創立50周年記念出版で刊行された谷口雅春著作集第1巻『光明法語‹道の巻›』のはしがき(「谷口雅春著作集」刊行に懐う)を読みました。昭和59年8月1日の御文です。
今年で『光明法語』初版発行(昭和24年)から60周年で、“お山”に移転(昭和9年)されてから75周年です。
1月16、17日の法語など60年前の御文章とは思えず、まさに“今”此の時、“此処”此の場に相応しい警醒のお言葉です。

投稿: 黒木 康之 | 2009年1月17日 16:36

黒木さん、

 ご指摘、ありがとうございます。
 雅春先生は、1月16日、17日の法語で、「新しいものを拒絶するな」「固定概念に支配されるな」とおっしゃっています。まさに、今日の人類全体への力強いメッセージだと思います。

投稿: 谷口 | 2009年1月17日 16:51

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