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2009年1月 5日

北海道“夢の国”計画 (2)

 私の“初夢”的構想から生まれた「自然資本産業省」(自産省)は、北海道にあって何をするのか? それを述べる前に、この機関の設立の前提となっている「自然資本」(natural capital)の考え方を簡単におさらいしておこう。

 自然との一体感を重んじる我々日本人にとっては、この概念はむしろ“当り前”であって不思議なところは何もない。ごくごく簡単に言えば、「手つかずの自然には価値がある」ということだ。しかし、今日の政治経済制度では、この当り前の考え方が「ものの値段」に反映されていない。最も分かりやすい例は、土地の値段である。賃貸アパートや戸建て住宅を探した経験のある人はよくご存じだが、土地の値段は「駅から○分」「バス停から○分」「○○空港から何分」というように、「人工物からの距離」で評価される。もちろん、距離が短い方に“価値がある”とされるのである。これに対して、手つかずの自然がある土地は“価値がない”とされているから、「大雪山頂から○分」「富士山頂から○分」「阿蘇内輪山から○分」などという不動産表示はない。誰もそんな土地をほしがらないと思われているのだろう。

 が、しかし、我々は「手つかずの自然には価値がある」ということを学んできた。神道や仏教、修験道が信仰の対象や施設をわざわざ山奥に設置してきたのはそういう理由だろうが、現代においてもエコロジー(生態学)を学んだ人間には、そのことは自明である。にもかかわらず、現在のほとんどの国の経済制度では、「手つかずの自然」の価値はものの値段に反映されていないか、反映されていても、その評価は最小限だ。これをきちんと貨幣価値に置き換えて評価しようというのが自然資本の考え方である。

 私は2002年8月の本欄で、地球全体での自然資本を貨幣価値で表した研究を紹介した。この研究者は手つかずの自然に、①気候調整、②土壌形成、③栄養素の循環、④野生種の動植物提供、⑤燃料・繊維類・薬草の供給、⑥自然美の提供などの価値を認めて、それを具体的な数値(ドル表記)で表したのである。それによると未開発の地球の自然の価値は「年間平均38兆ドル」という。これが、開発による環境破壊で「毎年2500億ドル」の損失を生んでいるというのだ。詳しくは、上記の本欄や拙著『足元から平和を』(2004年、生長の家刊)を参照してほしい。
 
 この考え方を経済に導入する1つの方法は、健全な生態系を維持している自然環境を管理している人には、その生態系サービスの価値に該当する対価を支払う、ということである。森林の間伐や下草刈り、養蜂、食害を防ぐための狩猟、田圃の維持などに「生態系サービス」補完の意味を認め、正当な対価を払うのが理にかなっている。これに対して、海外からの輸入品や地元産以外の物品に対しては「カーボンフットプリント」の概念を導入して、環境への負荷(生態系サービスに対するマイナスの価値)を値段に反映させるのがいい。同じことは、森林を伐採して農地や商業地に転換すること、道路を建設して森林を分断し、あるいは地下水脈に損害を与えること、工場や動力源から有毒物質や有毒ガス、温室効果ガスを排出することにもいえる。これらの行為は、生態系へのマイナスの価値としてきちんと円貨で評価して、製品やサービスの値段に反映させる。これをいきなり日本全国に導入するには、かなりハードルが高いだろうから、食糧の自給が可能である北海道にまず導入する。食費の変動を最小限に止めるためである。

 北海道でのもう1つの問題は、長い冬場のエネルギー消費と広大な土地を往き来するための燃料コストである。これは、自然エネルギーの全面的導入と、自動車の全面電化によって対応する。そのためには、「炭素税」の施行が必要だ。これは、CO2の排出量に応じた税金であるから、航空機やガソリン車、ディーゼル車による人と物の移動が、電気自動車より高くつくようになり、買い替えが進む。また、これによる税収は、各種の環境対策に使われる。具体的には、私はこれを、①自然エネルギーの振興と、②電気自動車のインフラ整備に使うのがいいと思う。自然エネルギーでは、道ではすでに風力、太陽光、バイオマスなどが利用されているが、これをもっと大々的に導入するための補助金とする。そして、作られた電力を配電網に供給して全道で共有する。ここで、「農業」と「産業」と「エネルギー」と「環境」という4つの政策の調和が必要になるが、そのすべてを管轄する自産省においては、問題は比較的少ないだろう。
 
 自動車の電化計画について、少し補足しよう。すでに昨年12月8日の本欄に書いたが、電気自動車(EV)の本格的導入は北海道のような広さの土地がやりやすいようだ。実際、これをポルトガルやイスラエル、デンマークなど北海道サイズの小国で積極的に展開しているベンチャー企業がある。日本のEVとそれに使うリチウムイオン電池の技術は、インフラさえ整備できれば、連続走行距離は実質的に無限大に延長できる段階まで来ている。このインフラとは、高速給電と電池交換ができる給電所網である。この給電所が提供する電気を風力や太陽光、バイオマス発電から得られれば、EVの利用は限りなく“炭素ゼロ”に近づいていく。そして幸いなことに、北海道では風は多く、日照時間は長く、バイオマスは豊かである。
 
 こうして“炭素ゼロ”と食糧自給、自然と産業との調和が実現する土地には、やる気のある起業家や若者が先を争って移住するに違いない。
 
 谷口 雅宣

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コメント

谷口雅宣先生
今年も宜しくお願いします。
 先生の文章を読んで、映画「モスラ」を思い出しました。『モスラ』(Mothra) は1996年12月14日に公開されました。
 以下はウィキペディアのストーリーの要約です。
<<北海道の紋別で豊国商事は森林の伐採をしていた。その現場監督の後藤裕一は古代遺跡を発見し、何も知らずに遺跡のメダルを外したのだ。だが、その遺跡は妖精のエリアス族の遺跡であり、そこには6千5百万年前に宇宙から来訪して植物を滅ぼし、恐竜絶滅の原因を作った宇宙怪獣デスギドラをそのメダル = 「エリアスの盾」で封印していたのだ。裕一はそれを都内の自宅に持ちかえり、娘のペンダントにして再び伐採現場へ行った。そこへ黒い妖精ベルベラがエリアスの盾を狙って飛来し、彼女と対立するエリアス姉妹と戦い盾を奪っていった。エリアス姉妹に「エリアスの盾と封印の意味」を知らされた後藤一家はエリアス姉妹を伴い、紋別へ行くが、紋別では巨大な岩隗が出現していた。後藤一家の協力でエリアスの盾を奪還したエリアス姉妹だが、ついに岩隗からデスギドラが復活してしまう、その姿は悪魔と言うに相応しいおぞましい姿をしていた。デスギドラを倒す為にエリアスはモスラを召喚したが、モスラは卵を産んだ後で、寿命も長くなかったため、デスギドラとの決戦はかなり苦戦を強いられた。親を助けようと予定より早く生まれた幼虫が糸、光線で親モスラを援護するが、2匹ともやられるだけであった。デスギドラを挑発し、ダムを破壊させて、向こう岸まで追い遣る事に成功するが、親モスラは遂に力尽き、海底に沈んだ。その後、幼虫は屋久島で森林のエネルギーを充分に吸った「新生モスラ」となり、かつて地球を滅ぼした時の形態の完全体となったデスギドラと再戦し、その圧倒的な力でデスギドラを再び地中に封印した。その後、モスラはデスギドラによって焼き払われ荒廃した北海道の大地に緑を瞬く間に甦らせて、エリアス姉妹と共にインファント島に帰って行ったのであった。>>
 当時、雑誌で映画紹介を担当していた私は、感動の涙を流しました。屋久島でのモスラの新生シーン、火砕流に埋もれた草原(雲仙を連想しました)が蘇ったモスラの麟粉で花の溢れる草原に生まれ変わるシーンが印象的でした。映画の終わった試写室では、涙を拭う若い記者の皆さんが多数いました。
 環境問題を指摘するさきがけの映画でした。
 先生の夢を小説や映画にされるとよいですね。

投稿: 久保田裕己 | 2009年1月 6日 02:54

武者小路実篤の「新しき村」の高度な現代版の様で夢物語とは言え面白い構想、為政者の参考になれば幸いですが、、、。

投稿: 尾窪勝磨 | 2009年1月 6日 11:43

≪“炭素ゼロ”と食糧自給、自然と産業との調和が実現する土地・「農業」と「産業」と「エネルギー」と「環境」という4つの政策の調和した土地≫
 に「森の中のオフィス」は築かれるのでは?という気
が致します。

投稿: 志村 宗春 | 2009年1月 6日 22:54

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