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2009年1月 8日

「テロとの戦争」をやめよう (2)

 まもなく始動するオバマ新政権下の駐日大使に、ハーバード大学教授、ジョセフ・S・ナイ氏(Joseph S. Nye, Jr.)が起用されるらしい。今日の『朝日新聞』夕刊が1面トップで伝えている。政権発足前に駐日大使が決まるのはきわめて異例であるだけでなく、すでに名前が上がっている国家安全保障会議(NSC)のアジア上級部長、国務省の東アジア・太平洋担当次官補、ペンタゴン(国防総省)のアジア・太平洋担当次官補などの顔ぶれと合せて見ると、「日本に厚い配慮をした布陣」であり、オバマ政権の東アジアにおける“日本重視”の姿勢が明らかになったというのが『朝日』の分析である。これまで『産経新聞』などは、オバマ政権は日本よりも“中国重視”だとの予測をしていたようだが、そういうわけでもなさそうである。
 
 日米は長い同盟関係にある一方、米中の間に同盟関係はないから、アメリカの“日本重視”は当り前といえば当り前である。しかし、一国の影響力という点では、人口や経済力、軍事力の面で中国が日本に勝ることも自明だから、アメリカが“中国軽視”をすることもないだろう。中国は核兵器をもち、アメリカの国債を大量に保有しているから、軽視などできるはずがない。外交や国際関係は、“重視”とか“軽視”などという単純な言葉で表すことはできないものである。
 
 そんなことよりも、ナイ氏の起用によって、アメリカが唱導してきた“テロとの戦争”が終わるのではないか、と私は期待している。というのは、『朝日』も指摘しているが、同氏は外交に軍事力などの“ハードパワー”を多用するよりも、価値観や文化などの“ソフトパワー”を活用することを唱えてきた人だからだ。ブッシュ氏は、ご存じのように、国際関係の中に“善”と“悪”の二項対立の考え方を持ち込み、かつてはイラク、イラン、北朝鮮などを“悪の枢軸”と決めつけて、それらとは交渉も拒否し、軍事力をもって対峙する外交政策を展開した。理由は、それらの国が「テロを支援している」というのである。そして、9・11以降は、それら“支援国家”を含めた“テロとの戦争”を唱導して、圧倒的な軍事力によってアフガニスタンのタリバン政権を倒し、イラクのフセイン政権を転覆した。が、この“ハードパワー”優先の政策が何をもたらしたかは、今の我々はよく知っている。“悪”を認めて、それに大量のミサイルを撃ち込んでも、“悪”は破壊されなかったのである。
 
 これに対して、ナイ氏は、文化の違いや考え方の差、心理的な行き違いなどからも紛争が生じることがあるから、そういう“ソフトパワー”の活用によっても紛争の処理や仲裁は可能だとするのである。私は、同氏の論文を数多く調べたわけではないが、2007年2月10日の本欄で紹介した論文には、そういう考え方がよく表れている。この論文でナイ氏は、2005年7月のロンドンでのテロ事件に関連して、“テロとの戦争”という言葉の使い方に大きな問題があることを指摘している。当時の本欄の文章から引用すると--
 
「ナイ教授によると、イギリスの情報機関であるMI5がテロリストを取り調べたところ、彼らの心の軌跡には共通したパターンがあることに気がついたという。それぞれのテロリストは、過激思想や、様々な社会的・政治的不満をもっていることは確かだが、そういう若者に宗教的使命感にも似た精神の高揚や、より大きな目的意識をもたせて行動に至らせるものは、“戦争”という言葉や、“戦い”をめぐる物語なのだという。アルカイーダは、そういう単純だが強力なメッセージをメディアやインターネットを通じて伝達する能力に優れているらしい。テロ行動に出た人々の間には、<イスラーム社会は今、西側諸国から一斉攻撃を受けている。だから、イスラーム信者は世界中で、イスラーム共同体を敵の攻撃から護るのが信仰者個人としての義務だ>という考え方が浸透しているというのだ。そんな中で、西側諸国が“戦争”や“”戦い”という言葉を使えば、彼らの信念をより強固にし、テロ活動への参加者を増やすことになる」。

 もう2年も前の分析だが、このようなイスラーム社会内部の「心の問題」に注意を払いながら外交を展開していくことが重要だと考える人は、きっと日本社会内部の「心の問題」にも留意して日米関係を考えてくれるものと私は期待する。とにかく、「テロとの戦争」という“悪”の存在を前提とした看板は、早急に下してもらえるとありがたい。
 
 谷口 雅宣

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コメント

最近、毎日どきどきして先生のブログを読ませていただいています。
先生のお言葉にすごい決意がにじまれているからであります。
また、先生が真理に随順した生活を全世界に広げていこうとする
厳しい姿勢が先生のお話から伺えるからです。
今日は
 私は2005年6月1日の本欄で、「“テロに対する戦争”という言葉は、問題の立て方が間違っている」と書いた。なぜなら、「テロ(terror)」とは「恐怖」という意味であり、恐怖は、第一に恐怖する人の心の中にあるのだから、それと戦うのに実際の兵器はさほど役に立たないからだ。その時に書いた文章から引用する:
 
「恐怖は“外”にあるのではなく“内”にある。“外”をいくら叩いても“内”にあるものは壊れない。或る“敵”を外に見出しそれを倒しても、次なる“敵”が内部の(恐怖の)投影としてまた外に現れる。否、“テロとの戦争”という言葉を使う限り、自ら“敵”を外側に作り出さざるを得ないのだ。戦争には、具体的な“敵”が必要だからだ」
 実際には自分を傷つけようと意図している“敵”が存在しなくても、本人が恐怖心をもって周囲を見ていれば、あらゆる人々の視線や行動が自分への“敵意”を表しているように見える。この心理状態が昂じると、「被害妄想」という病名がつく。また、この妄想にもとづいて周囲に敵意を撒き散らせば、周囲の人々がそれに応じて敵意を示すことにもなる。こうして“妄想上の敵”は“本物の敵”になるのである。

 私はまだものの見方が甘かった。鋭い視線で世界を見ておられる先生の姿勢に本当に教えを頂くものとして感謝申し上げます。先生の夢が神様の夢が実現できるよう私たち信徒一生懸命三正行に牛歩千里で邁進したいと思っています。
 先生は真理の生活を本当に実践しようと私たちに働きかかけてくださっていることを身にしみて感じました。ありがとうございます。
河内 千明

投稿: 河内 千明 | 2009年1月10日 10:00

谷口雅宣先生 

 今回の御文章でとても勇気が湧き、安心もしました。オバマ次期大統領は日本重視でやってくれるとの事、民主党は日本より中国重視という話は一般的に言われている事なのでとても安心しました。

 ところで駐日大使がこのような立派な考えを持っている事、そして、テロとの戦争などと言う悪を想定しての被害妄想的考えからアメリカが脱する期待がある事、本当に嬉しい限りです。

投稿: 堀 浩二 | 2009年1月10日 11:09

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