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2008年12月13日

変化への対応

 今年を象徴する漢字1文字は「変」--と決まったそうだ。これを「変化」という意味にとれば、まさにその通りだと思う。日本の首相がコロコロ変わるのは常としても、この年のうちに石油の値段、穀物の値段、株価が乱高下した。また、13年4カ月ぶりの1ドル=88円台の円高であり、オバマ米大統領の登場だ。そして今、世界が固唾を呑んで見守っているのが、アメリカ経済の“屋台骨”・ビッグ3の行く末……この大きな変化に対応できるかできないかで、人や企業や団体の“命運”が決せられる。私たちは、そんな環境にあることを感じるのである。

 アメリカ上院は、GMとクライスラーに最大で140億ドル(約1兆3千億円)をつなぎ融資する救済法案(下院で合意済み)を事実上否決し、危機感を覚えたホワイトハウスは「金融安定化法を含め、他の選択肢を検討する」と発表して、経済不安の沈静化に躍起となっている。この金融安定化法では、最大で7千億ドル(約63兆円)の公的資金を金融安定化に投入することができるが、原則は金融機関の救済である。それを今後の成長が不透明な自動車産業に投入できるかどうかは、難しい判断だろう。

 13~14日付の『ヘラルド・トリビューン』紙によると、今回の救済法案の挫折は、全米自動車労働組合(UAW)との賃金引き下げ交渉が決裂したことが主な原因だ。上院共和党は、下院民主党とホワイトハウスが合意した救済法案では不十分だと考えた。なぜなら、140億ドルもの税金を2社につぎ込んでも、従業員の賃金体系に手を加えなければ本当の改革にはならず、結果的に税金のムダ遣いになると考えたからだ。そこで、賃金体系にまで手をつけなければ守れない条件を、2社側に逆提案した。それは、来年の3月末までに2社の抱える負債を3分の1に減らすという条件だった。GM1社だけでも、現在の負債額は600億ドルあるという。これに対して、そんな急な変化はできないとする労働側に、上院共和党は「2009年中の一定の日」までに減らすところまで譲ったが、民主党とUAWは、現在の労働契約が終了する「2011年中」まで期限を延ばすように主張したため、交渉は決裂したという。

 つまり、この問題の背後には、トヨタやホンダなど在米日本メーカーの労働者よりも賃金や福利厚生面で従業員を優遇しているビッグ3が、思い切った賃金カット等をしないでいて今後の開発・販売競争に勝ち残れるかどうかという、米自動車産業の“将来の展望”が深く関わっている。どうせ勝ち残れないのならば、多額の国民の税金をつぎ込む必要はないというのが上院共和党の考え方であり、それなりの合理性をもっていると思う。結局、アメリカの自動車産業は、地球温暖化時代を前にして、自動車という道具が今後どう使われるべきかという明確なヴィジョンを打ち出せないでいたのである。

 これには、ブッシュ政権下で京都議定書が否定され、「温暖化問題は存在しない」という説がもてはやされ、ビッグ3が燃費の悪い大型車やSUV(スポーツ多目的車)を重視して製作していたことにも責任がある。また、UAWという巨大な労働組合にも“先見の明”がなかったと言わねばならない。しかし、“勝ち組”であるはずの日本メーカーもライバルの崩壊を望んではいない。なぜなら、ビッグ3が倒産すれば、そこに納品していた全米の部品業者も連鎖的に倒産し、米国内で部品を調達することができなくなるからだ。

 地球温暖化時代には、ガソリンがぶ呑みの大型車は不要であるだけでなく、有害である。また、(私を含めた)一部で“石油ピーク”が来ていると言われる時代には、化石燃料を自動車の動力に使おうとする試みは、破綻するほかはない。この変化を的確に読んで先行投資を行い、新しい技術や制度を開発してきた人や会社が、今後の世界の乗り物を製造していくことが許されるだろう。私は、8日の本欄に書いた電気自動車(EV)と自然エネルギーによる発電・蓄電システムの組み合わせが、少なくとも中期的には、最も現実的で、有望な選択肢だと思うのである。
 
 谷口 雅宣

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