小国での電気自動車
前回の本欄でポルトガルのことに触れたが、この国の面積は9万2082平方キロで、北海道(8万3516平方キロ)より少し大きいくらいだ。そんな国がかつての大航海時代の先鞭をつけ、日本に西洋文化を届け、ブラジルのような大国を形成した。だから、国土の大きさは世界における影響力の大きさを必ずしも意味しない。そんなポルトガルで、日本の技術による野心的なグリーンカー戦略が練られているらしい。8日付の『ヘラルド・トリビューン』紙が伝えている。
それによると、ニッサンとルノーは、ポルトガルを1つの拠点として、2010年から電気自動車(EV)を全世界へ普及させるための市場実験を進めている。ポルトガルが選ばれた理由は、比較的コンパクトな国だからで、同国のほかに、デンマークやイスラエルでの実験も検討されているという。EVの普及のためには充電施設の整備が不可欠だが、これはポルトガル政府の監督により来年から始まるという。当初は、20分でフル充電可能の高速充電施設網を首都・リスボンとポルト、それに周辺道路に設置し、家庭では普通の電源を使った充電(6時間)で対応する考えだ。問題は、2011年の本格販売までに、これらのインフラ整備が間に合うかどうかだが、同国政府は、主要な電力会社や小売業者の連合を組織して、同国がこれによって“近代的で環境に配慮した国”と認められることをねらっているという。
EVの普及に必要な条件は、このインフラ整備(①)に加えて、②電池性能の向上、と③価格の低下だという。インフラの問題では、電力会社が積極的な姿勢で取り組んでいる。というのは、どの電力会社も昼間と夜間との電力需要の差が大きな課題だが、EVが普及すれば、夜間には各家庭でのEVへの充電需要が生まれることで、効率的な電力供給が可能となるからだ。また、ガソリンの値上がりで客足が減った小売業界や、駐車場経営会社も、駐車中の充電によってEVの利便性が向上する点に注目している。というのも、現在のEVでは、連続走行距離がフル充電時で「160キロ」のレベルにあるからだ。これが伸びない限り、現在のガソリン車やハイブリッド車との差は歴然としている。が、ガソリン代よりも電気代の方が安いため、小まめに充電できる環境が整えば、EVの価格競争力は向上することになる。
EVのもう1つの魅力は、自然エネルギーとの組み合わせによって“炭素ゼロ”のドライブが可能になることだ。例えば、工場や大規模小売店などに設置された太陽光発電装置からEVに充電すれば、それは簡単にできる。実際、今年10月に埼玉県越谷市にオープンした「イオンレイクタウン」には、この充電装置がある。また、日照時間が長いイスラエルでは太陽光発電とEVとの組み合わせで、石油から解放された交通システムの構築をねらっているし、風の多いデンマークでは風力発電との連携を目指しているという。
このイスラエルやデンマークの構想に一役買っているのが、米カリフォルニアのベンチャー企業「ベタープレイス」(Better Place)である。もともとソフトウェアー会社をやっていたシャイ・アガッシ氏(Shai Agassi)が創立した企業で、イスラエルやデンマークのような大きさの国であれば、どこでもEVに充電できる環境(ubiquity of charge)を提供すれば、現在の電池の性能のままでも交通需要の95%は満たされると考えて、充電設備等の普及を進めている。彼らの考えでは、残りの5%の需要も、EVから電池を切り離せば十分満たされるという。つまり、EVで使う電池を「車の一部」として考えずに、「インフラの一部」と考えるのである。そして、各所に充電と電池交換ができる“給電所”を整備すれば、EVの連続走行距離は実質的に無限大に延長できるというわけだ。
世界は、あと数年でEVの普及時代に入る。日本政府はそういう潮流を見定めて、しっかりとした環境政策と技術革新を全力で推進すべきである。あるべき方向を見れば、日本経済は停滞している暇はない、と私は思うのである。
谷口 雅宣
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
私は電気自動車の時代が50-100年の間に来るだろう、そして我々「古代人はこんなに汚い排ガスを放出して地球環境を破壊していたんだ、、、」と未来人に言われるのだろう、、と感覚的に予想しましたが、携帯電話同様に大外れの展開になって来ました、三菱自動車は来年発売しますし、早々に技術は飛躍的に進歩するでしょう、生きている時代にそうなる事が可能になるかも知れません、期待しています(笑顔)、今は二年前に購入したパジェロ・イオに乗っていますが次は生きていたら電気自動車を狙っています、しかし、まだまだ全ての電気を自然エネルギーから確保すると言う課題が残っていますがとりあえず、段階としてこれが実現するだけでも素晴らしい!の一語iに尽きます、人間の能力は本当に無限で凄い!驚嘆しています、同じ人間である自分自身は何も創造せず、単に利用、享受、堪能させて貰っているだけで申し訳ない様な気が致します。
投稿: 尾窪勝磨 | 2008年12月 9日 16:52
谷口雅宣先生の情報源、トリビューン社が破綻したと、12月10日付けの産経新聞が報じていました。ところで、東京ビッグサイトでは、11日から「エコプロダクツ展」が、開催されます。機会があれば、電気自動車の現状について、調べてみようかと思います。
投稿: 久保田裕己 | 2008年12月11日 01:02
尾窪さん、
>>人間の能力は本当に無限で凄い!驚嘆しています、同じ人間である自分自身は何も創造せず、単に利用、享受、堪能させて貰っているだけで申し訳ない様な気が致します。<<
でも、CO2削減のために、何かなさっているのでしょう?
久保田さん、
>>谷口雅宣先生の情報源、トリビューン社が破綻したと、12月10日付けの産経新聞が報じていました<<
破綻したトリビューン社は、『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』とは関係ありません。トリビューン社と関係しているのは、『ロサンゼルス・タイムズ』と『シカゴ・トリビューン』です。
投稿: 谷口 | 2008年12月11日 10:45
谷口雅宣副総裁様
CO2削減の為に何かやっているか?と聞かれれば残念ですが「何もやっていません!」と言うしかありません、只、地球温暖化と言う危機に人類は直面していて、これを是正出来るのは原因を作った人類でしかありえない!幸い、現在人類の最先端の人々がこれに気が付き、訴え、すでに様々な場面で実施され、その方向に全体として動いている様に感じていますので、日々の生活の中でこの意識を持ってクーラーや暖房の温度に目を向けたり、テレビやその他の不必要な電源のスイッチを切ったり、近距離の場合は運動を兼ねて自動車を使わずに歩いたり、自動車も排ガス規制車でハイオク燃料にしたり等々、様々な状況の中で考え、実行する様にはしています、もし個人としての私の様に何の影響力の無い人類一人一人が僅かな事にも注意を払い、心掛けて行けば大きな力になる!と信じて生有る限り、忘れないで行こう!と思っています。
投稿: 尾窪勝磨 | 2008年12月11日 22:00
エコプロダクツ2008へ行ってまいりました。数年ぶりに行きましたが、幼稚園児、小学生から高校生まで団体で来ていました。また、高校や大学単位で出展していました。幼児を含め、青少年がエコについて学ぶ姿は感動的でした。
電気自動車は日産が展示していたようですが、気がつきませんでした。私が見たのは、流通のイオングループのブースで三菱自動車工業の「MiEV」でした。実用化に向けて、電力会社と共同研究を重ね、大型リチウムイオン電池のを生産するため、GSユアサ、三菱商事、三菱自動車で新会社を設立、来年から滋賀県草津市で生産開始の予定で、来年以降、実用化をめざしているとの事でした。最高速度は140km、価格は未定とのこと。
環境への取り組みでは、イトーヨーカドーグループが、売れ残りの食品を堆肥にして、千葉県で農業生産法人を作り、野菜を作り、千葉県内で格安で新鮮な野菜を供給しているという企業の姿勢に感銘しました。セブンアイホールディングでは、コンビニや様々な店舗で環境への配慮を行なっていることが、クイズ形式の展示でよく分かりました。
生長の家のこれまでの様々な環境への取り組みも、こういう場でアピールできるのではないかと思いました。
投稿: 久保田裕己 | 2008年12月14日 06:18