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2008年12月15日

靴のサイズは10

 今朝のニュースで一斉に報道されたのが、記者会見の席上、靴を投げつけられた米ブッシュ大統領の映像だった。大統領としては最後となるイラク訪問で、マリキ首相とともに報道陣の前に立って話し始めたところで、イラク人記者がやにわに立ち上がり、大統領めがけて自分の靴を1足、また1足と、何か叫びながら投げつけた様子が、克明な映像で世界中に伝わった。この行為は、こういう状況下では、そういう結果になるということを十分計算して行われたに違いない。
 
 私はこれを見ていて、さすがにブッシュ氏だと感心したことが2つある。1つは、常にフィットネスに心がけているというだけあって、至近距離から力いっぱい投げつけられた靴を、2回とも見事にかわした点だ。特に最初の1投は、まったく予測不可能な状況下で胸のあたりに飛んできたものを、全身を使ったダッキングによってよけた。これは、ブッシュ氏の運動神経のよさを示している。私だったら、恐らくよけきれなかっただろう。感心したことの2つめは、そういう深刻な状況下(投げられたものがナイフだったらと考えれば)でも、事後にマイクの場所から逃げ出さずに、記者団に向かって「靴のサイズは10(約28センチ)だった」とジョークを飛ばしたことだ。これもよほど度胸がすわり、かつユーモア精神がなければできないことだ。

 今日の『日本経済新聞』夕刊の記事によると、このイラク人記者はイラク資本の放送局のカイロ駐在員で、靴を投げるときに「これは別れのキスだ。おまえは犬だ」と叫んだという。また今朝、NHKの衛星放送経由で流れた英BBCニュースによると、この記者は一度イラク国内で拉致されて拷問を受けた経験があるという。また、『朝日新聞』の夕刊によると、この記者が叫んでいたアラビア語は「別れのキスだ。犬め」「夫を失った女性、親を失った子どもたちからの贈り物だ」という意味だったらしい。とにかく、イラク戦争を端緒とした永年のアメリカ軍支配に対する人々の不満を、象徴的に表した出来事だったといえる。
 
 ジャーナリストは第一に、“客観的映像”や“客観的記述”で物事の真相を人々に伝える義務がある。また、それを基礎として、自分の考えや意見を述べることも許される。しかし、ジャーナリスト本人が“報道される対象”になることで自分の意見を表明するという方法は、あまり見聞したことがない。これは「グリーンピース」のような環境運動の“過激派”がよく使う方法だ。しかし、一つ間違えば、客観性を無視して事件を捏造することにつながるから、ジャーナリストとしては“禁じ手”である。恐らくこのイラク人記者は、それを承知でこの行為に及んだのだ。我々はそこから、今のイラク人の心境を推し量ることができるだろう。
 
 谷口 雅宣

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コメント

谷口雅宣先生

 私もこの映像を観て、驚きました。金融危機を招いた要因みたいに言われているブッシュ大統領にまたもや晩節を汚す事件が加わったなと最初思いましたが、先生の仰る様にあの至近距離から靴をよけるあの運動神経の良さに驚きました。何でも同大統領は学生時代、大学野球をやっていたそうでポジションはキャッチャーだったらしいです。それで、ちょっと見直し(?)ました。野球をやっていたならデッドボールをよける技術もある訳で、だからよけられたんだと思います。

 そして、先生も仰る様に事件をジョークでかわすなんてのも中々、粋ですね。でも、割合、アメリカ人って如何なる時もユーモアを忘れないって聞いた事があります。映画なんかでも絶体絶命の場面で登場人物がジョークを飛ばしたりしていますし、カリフォルニア知事のシュワルツネッガー知事も選挙中に卵を投げつけられた時、ジョークで返してました。

投稿: 堀 浩二 | 2008年12月16日 15:26

私もテレビで見ましたが、どうでしょう?彼を英雄視したり、ブッシュ見たか!の如くの報道ばかりでどうもしっくり致しません、自爆テロや射殺やナイフに比べれば罪は軽いのかも知れませんが彼の行為(言葉も行為)はあまり変わらない野蛮なもので正当化出来ない報道もあって良い様な気がします、「粗なる言葉をなす勿れ!言われたる者、また汝に返さん!怒りに出ずる言葉はげに苦しみなり、仕返し必ず汝の身にいたらん!」と言う戒めの通じない特殊な人間だと見たいのですが甘い考えでしょうか?

投稿: 尾窪勝磨 | 2008年12月16日 19:09

 ブッシュ氏たど感心したこと2点のところで、思わず笑ってしまいました。今のイラク人の心境・・・のところでは、私もニュースを見ながら少しそう感じていたので、考えさせられました。
 毎日のリアルタイムのニュースをどう読み解けばよいのか・・と思っていたので、読み応えがあります。ありがとうございます。

投稿: 高橋 久代 | 2008年12月16日 23:53

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