« 南カリフォルニアが燃えている | トップページ | 日本の温暖化対策は間に合うか? (2) »

2008年11月19日

右脳と左脳

 今年5月に出させていただいた拙著『太陽はいつも輝いている--私の日時計主義実験録』(生長の家刊)の中で、私は“右脳”と“左脳”の働きについて専門家の研究などに触れながら、少し詳しく書いている。研究の内容は難解なので読者には不評を買っているかもしれない。が、簡単に言えば、案外単純なことでもある。それは、我々の脳は解剖学的に右と左に大きく分離されていて、それぞれが異なった役割を担っているが、普通の場合、右側の脳は感覚の受容に優れていて、左側の脳は言語の働きで優れている--そういうことだ。この左右の脳の役割分担については、「左脳は論理的思考」「右脳は直感的思考」などという表現が使われることもあるが、だいたい同じ意味だろう。
 
 このような分析と発見を前提にして、次の段階へ進めば--左脳が得意とする論理的思考はコンピューターによってある程度肩代わりできるから、人間は右脳の働きを磨くことでもっと向上する、と考えることもできる。2005年に『A Whole New Mind』(新しい全体脳)という本を出したダニエル・ピンク氏(Daniel Pink)は、そう考えた。彼によると、コンピューターを使った情報時代を何世代か経験した我々は、論理的思考にばかり慣れ親しんできたおかげで、高度な直感を得るような右脳の能力が委縮してしまっているから、再び鍛え直す必要があるというのである。なぜなら、プログラミングや経理処理などの左脳的な仕事は、欧米で始まり、欧米で発達してきたものの、今やそれらの多くはインドや中国などの人件費の安い国々に移転してしまっているし、移転しないものはコンピューターで代用できるからだという。

 これもまた『太陽はいつも輝いている』の中で触れているが、右脳で絵を描くための具体的方法を開発した人に、ベティー・エドワーズ氏(Betty Edwards)がいる。この人はカリフォルニア州立大学の美術教師だったが、1998年に退職して息子のブライアン・ボマイスラー氏(Brian Bomeisler)に後を譲っている。このボマイスラー氏のところには毎年、フォーチュン誌のトップ500社に入る企業の研修やワークショップの申し込みがあるという。今年4月7日付の『ヘラルド・トリビューン』紙によると、ボマイスラー氏が教えるのは「箱の外で考える」ことだという。「絵を描くことを通して、私はまったく新しいものの見方を教えます」と彼は言う。「彼ら(教わる人々)は自分の箱から抜け出して、そこに本当にあるもの--その複雑さと美しさのまるごと--を吸収するのです。研修後に彼らが決まって言うことの1つは、“世界がすごく豊かに見える”ということです」。

 こんな脳の話と宗教と、いったい何の関係があるか--と読者は考えるだろうか? サイエンスライターの竹内薫氏は、10月11日の『産経新聞』で興味ある話を書いている。竹内氏は今、脳卒中で倒れた脳科学者の体験記を翻訳しているそうだが、その脳科学者は、左脳の言語野が出血で侵され、言葉がしゃべれなくなり、他人の言葉も「犬の鳴き声みたいに聞こえた」という。このように左脳の機能が低下し、右脳の機能が目立つようになった時に感じる世界について、竹内氏は次のように描いている--
 
「物事を論理的に筋道だって考えることができなくなる。他人の言っていることが理解できない。身体の境界がわからなくなり、周囲と渾然一体となり、まるで“流れる”ような感覚に陥る。つまり、空間の感覚が消えてしまう。また、過去・現在・未来という直線的な時間もなくなり、あるのは“今”だけ。……(中略)……また、宇宙と一体化し、とてつもない幸福感に浸れるそうだ」。

 宗教的な体験の中には、上に描かれたようなものが確かにある。が、これだけでは、日常生活に支障が出る場合があるだろう。だから、左脳が得意とする言語による表現や論理的思考も、我々はおろそかにしてはいけないのである。

 谷口 雅宣

【参考文献】
○B.エドワーズ著/北村孝一訳『改訂新版 脳の右側で描け』(1994年、エルテ出版)

|

« 南カリフォルニアが燃えている | トップページ | 日本の温暖化対策は間に合うか? (2) »

コメント

合掌ありがとうございます。
ある日携帯が突然壊れ、新しい物に換える事を余儀無くされてから、先生のブログを拝見させて頂ける幸運の毎日です。
清超先生ご逝去の報、このブログにて受け取らせて頂き、原宿本部へご焼香させて頂きました。
心より感謝申し上げます。
つい先日誌友会出講の折、先生の11月3日配信の右脳と左脳について書かれた箇所をご紹介させて頂きました。
すると、参加された皆様に分かり易く伝わった様で、様々な質問が飛び交いました。
皆さん大変興味があるご様子でしたので、携帯で先生のブログ配信を受け取る方法も紹介する運びとなりました。
文字サイズが小さいと言う声も挙がりましたが、今回配信より文字サイズが大きくなって届き驚きました。
更にまた、今回の右脳と左脳についての内容は、先日の誌友会に参加された方々に大変喜ばれている事と思いますし、人生初めての携帯ブログ配信でご覧になっている事と思われます…(*^^*)v

投稿: Y.S | 2008年11月20日 04:32

脳卒中で倒れられた脳科学者は左脳を使い過ぎたのでしょうか?奇しくも左脳が出血し、今まで想像だにしなかった瞑想の極致の様な宗教体験をされたと言う事ですが元の現実世界に帰れないのは何とも可哀想な話ではあります、逆に右脳が出血した場合は逆体験をする事になるのでしょうか?明日は我が身、南無神仏!です、しかしこの脳科学者は体験記を書かれる位ですから左脳の働きも回復して来ているのでしょう、いずれに致しましても何事も左右バランス良く両極端を避けよ!と言う教訓の様に感じさせてくれます。

投稿: 尾窪勝磨 | 2008年11月20日 11:45

雅宣先生

今回のご文章で思い出したのが、有名なジャーナリストのトーマス・フリードマン氏も、最近の話題作で、右脳の資質の重要性を力説していたことでした。

その話題作は、『フラット化する世界』(伏見威蕃訳、日本経済新聞社、全2巻)ですが、その下巻・第7章で(左脳だけではなく)右脳の重要性が力説されていたのです。

その要旨は、左脳の仕事は外国人にアウトソーシングされたり、コンピュータによって行なわれる時代だから、そういう時代に必要なのは、芸術的手腕、感情移入、大局的なものの見方、学識を超えたものの追求といった、右脳の資質を磨くことだ--ということでした。

ですので私も、もちろん左脳の論理的思考も大切にしつつ、これまでおろそかになっていたかもしれない右脳的資質の開発にも、勤しんでいきたいと思ったことでありました。

投稿: 山中優 | 2008年11月20日 14:47

うっかり書き忘れておりましたが、フリードマン氏が右脳の資質の重要性を説いていた際に引き合いに出していたのが、雅宣先生が言及されていたダニエル・ピンク氏の議論でした。書き忘れていましたので、補足させていただきます。失礼いたしました。

投稿: 山中優 | 2008年11月20日 14:54

山中さん、

 貴重な情報、ありがとうございます。フリードマン氏の本は原書で1巻をもっていますが、2巻があるのを知りませんでした。機会をみて読んでみます。

投稿: 谷口 | 2008年11月20日 23:22

雅宣先生、

フリードマン氏の原書 "The World Is Flat" は1巻だけだったと思います。私が持っているのは邦訳版なのですが、その邦訳版が上下2巻で出されています。

山中 拝

投稿: 山中 | 2008年11月21日 15:29

山中さん、

 原書の該当箇所、発見しました。どうもありがとう。
 フリードマン氏は、自分の内的動機から来る本当にしたいことをするのが、右脳を活性化させるのに必須である……というような意味のことを言っていますね。

 参考になります。

投稿: 谷口 | 2008年11月23日 16:48

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 南カリフォルニアが燃えている | トップページ | 日本の温暖化対策は間に合うか? (2) »