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2008年10月 7日

上を向いて歩こう

 アメリカの金融危機に端を発した世界的な同時株安が進行中で、自分の資産の数字を見るのが恐ろしい人もいるだろう。こういう時期に居合わせると、“ものの価値”というものが、いかに人々の心しだいで変化するかが痛いほど分かる。昨日のニューヨーク株式市場ではダウ平均が約4年ぶりに1万ドルを割り込み、今日の東京市場では日経平均株価も一時、4年10カ月ぶりに1万円を割った。外国為替市場も円が独歩高で、輸出企業や海外に拠点が多い企業は青ざめているに違いない。実体経済は何も変わっていないのに、人々の心理が変わるだけで“莫大な価値”が世界から消え、あるいは世界に付け加わる。まさに“心でつくる世界”のただ中に私たちはいるのである。

 今、世界中の国の指導者が最も恐れているのは、一般の国民が経済の動向に不安を感じて、自分の預金を銀行から引き出したり、金融資産を現金に換えようとすることである。だから、本欄の読者は心に不安を起こさないことで、世界経済の安定に貢献してほしい--ということで、“落ちていくもの”を見るのではなく、“上がっていくもの”に目を向けようと思う。

  まず、自然エネルギーの利用が増えるだろう。経済産業省が、石油以外のエネルギーの開発と利用を促進する石油代替エネルギー法(代エネ法)の抜本的改正を決めたからだ。今日(7日)の『日本経済新聞』が伝えている。まず、同法の基本にある「脱石油」という考え方を改めて「脱化石燃料」にするといい、2030年度の目標として、国内の使用エネルギー全体に対して、非化石燃料の割合を現状の2割弱から3割程度に増やすそうだ。  これは、2005年に閣議決定された2010年度までの「石油代替エネルギー」の使用目標が、原子力が27.6%、石炭が32%、天然ガス25.7%、水力6.7%、地熱0.3%、その他7.6%だったため、石炭や天然ガスという化石燃料の使用を促進する形になっていたのを改めたもの。ただし、自民党と経済界は現在、原子力の使用割合を増やす方向でも動いているから、今後、自然エネルギーの開発が急速に進むかどうかは定かでない。大体、非化石燃料の使用割合を「2割から3割に増やす」という考え方自体が、かなり消極的な計画のような気がする。

  日本はこのように、何ごとも現状からの「漸次増加主義」に終始しているが、欧州では抜本的な制度改革をともなったエネルギー政策が進行中だ。6日の『朝日新聞』には、スペインのセビリア郊外で昨年稼働した「タワー式太陽熱発電所」が紹介されている。これは「太陽光」ではなく「太陽熱」を1点に集中して水を沸騰させ、発電する装置だ。地上に置いた太陽追尾式の反射鏡624枚からの光を、高さ115メートルの塔の1点に集中させて発電する。1基が1万kWhの容量という。また、通常の太陽光発電においても、スペインは近年急伸している。累積導入量は、2005年に6万kWhだったのが、2007年には一気に68万kWHに増え、今年の末には180万kWhにまで伸びるらしい。日本の今年の増加量が20万kWhに留まるのと比べると5倍のペースで進んでいる。

  「抜本的な制度改革」の一例として有名なのは、電力会社に太陽光発電による電気を高く買い取らせるもので、ドイツやスペインなどで実施されている。日本では、売電と買電の価格は同一だから、導入費用を回収するのに15~20年かかってしまうが、欧州の制度では比較的短期で費用が回収でき、あとは利益を生むことになる。経済団体のトップが電力会社の社長であるような日本では、こういう制度は不可能なのだろう。おかげで、2004年から2006年に市場が急拡大し、欧州での発電需要のために中国、台湾、韓国、インドなどのアジア各国で、太陽電池の増産ラッシュが続いている、と『日経』の今日の夕刊が伝えている。

  短期的には、今回の金融危機とその後に訪れる実体経済の縮小で、多くの企業が廃業に追い込まれるかもしれない。しかし、世界の人口は増え続けており、世界全体のエネルギー使用量が減ることは考えられない。ということは、自然エネルギーの開発を急げば、低炭素社会への切り換え--つまり、産業の新旧交替がこれによって加速化し、長期的には、社会の需要に正しく応えられる企業や産業が栄え、経済はやがて上昇していくに違いない。少しつらい時期があっても結局、上を向いて歩き続きける者が勝利するのである。

  谷口 雅宣

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コメント

人々の心理が変わるだけで"莫大な価値"が世界から消え、あるいは世界に付け加わる…なんて素敵な言葉の響きでしょうか。鉛筆の花束を贈りたいです。心に不安を持たない事で、世界経済の安定に貢献する… 私も21年間小さな会社を経営して来られたのは、まさにこの言葉の実践でした。雅宣先生のご著書『心でつくる世界』も大好きです。北海道釧路市に太平洋炭坑という会社があります。世界でも珍しく事故の無い炭坑として、名を馳せました。しかし時代の波には勝てず石炭の需要が減り倒産。しかし現在、石炭というエネルギーが見直されて来た事と、炭坑としては珍しく無事故であったという実績が評価されて、アジア諸国等から炭坑の鉱山技師を育成するための施設として再開しています。見上げると満天の夜の星が見えます♪

投稿: Y.S | 2008年10月 8日 04:14

産業の新旧交代!まさに生みの苦しみの過渡期なのでしょうか?金融界の膨大、複雑、不透明な泡、が現在の状況を現して来ているのでしょう!赤塚さんの「これで良いのだ!」は名言です(笑)バーチャルな世界を離れて生産、販売、消費の単純な原点に帰り、焦らず、無理せず、背伸びせず生産、販売、消費の単純な原点に帰れば急激な進歩発展は少なくなるかも知れませんが永続的、持続的な発展が可能なのではないか?と単純に考えます。

投稿: 尾窪勝磨 | 2008年10月 8日 13:04

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