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2008年9月 8日

脳波計は真実を語るか?

 脳波計による犯罪捜査が実際の裁判で初めて認められ、論争を呼んでいる。とはいっても、日本のことではなくインドでの出来事だ。8日の『ヘラルド・トリビューン』紙が伝えている。「機械が人間の心を読めるか」という論争は、ウソ発見器の登場以来つづいているが、今回の件は、ウソ発見器より精確で複雑な、脳波計とコンピューターを組み合わせた脳波検査が、殺人事件での証拠の1つとして採用されたということだ。今後の犯罪捜査などで世界的な影響が広がるかどうか、「心の問題」に関心のある私としては興味あるところだ。
 
 同紙の記事によると、今年6月、インドのマハラシトラ州での刑事事件で下された判決では、裁判官が脳波計の測定結果に明確に言及し、被疑者(女性)は犯罪について、犯人でなければもちえない“経験的知識”(experiential knowledge)をもっているとして、終身刑を言い渡したという。ところが、この分野で最先端をいっているアメリカの脳神経学者の間では、この技術が科学的に正式に検証されていないということで、「すごい」とか「ばかな」とか「恐ろしい」という、3種類の反応が出ているらしい。

 この事件では、24歳の女性が前の許婚を殺した容疑で捕えられた。2人は同州のピューンという場所でしばらく同棲生活をしていたが、女性の方が別の男と駆け落ちしてデリーへ行ってしまったという。数カ月後、女性はピューンにもどって来て、前の許婚にマクドナルドで会おうと誘った。そして、食べ物にヒ素を盛って毒殺した--というのが検察側の主張である。女性は殺人を否定している。

 これが真実であるかどうかを、脳波計によってどう検査するのか? 上記の記事には、こうある--被疑者の頭に32個の電極を付け、脳波計につなぐ。その状態のまま、捜査官は被疑者の前で、犯罪がどう行われたかを描いた文章を読み上げる。この文章には、「私はヒ素を買った」とか「私はマクドナルドで彼と会った」などと被疑者の行動が一人称で細かく表現してある。被疑者がもし犯人ならば、文章を聞いている間に過去の記憶がよみがえって来るだろう。すると、それに対応した脳の部分が反応して脳波計に信号を送るというのだ。脳波計はその信号をコンピューターに伝え、コンピューターはそれらを解析して、被疑者が犯罪行為の細部--臭いや音など--も思い出したかどうかを判断するという。この解析に使われるプログラムは、ある行動を被験者自身が実際に行ったのか、それとも単に目撃しただけかの違いも分かるとされている。
 
 この検査法は、脳内電位振動解析法(Brain Electrical Oscillations Signature, BEOS)と呼ばれ、インドの国立精神神経科学研究所の臨床心理学部門にいたインド人神経科学者、チャンパディ・ラーマン・ムクンダン博士(Champadi Raman Mukundan)によって開発されたもの。
 
 今回の事件では、従来の方法では厳しい取り調べが行われることを見越して、被疑者の女性はこの新しい検査法に同意したという。頭に電極を付けるだけで、肉体的にも精神的にも苦痛を伴わないからだ。この点に注目する人は、検査場でのテロリストの割り出しや、捕虜やスパイからの情報収集に有益だと期待しているらしい。拷問の必要性がなくなってしまうからだ。しかし、その反面、機械的誤診断から無実の罪が生まれたり、意図的にデータが捏造される可能性が心配される。私は、それに加えて、犯罪実行前の準備段階でも、「犯人でなければもちえない経験的知識」がある程度発生する可能性を考える。つまり、準備はしたけれども、最終段階で思い止まった人が犯行グループの中にいた場合、どうなるかという問題だ。また、この同じ技術が、犯罪ではない“経験的知識”の有無を調べるために使われれば、特定のグループに属する人間を選び出したり、個人の政治思想や宗教的信念を割り出す手段となる可能性を危惧する。
 
 とにかく、人の「心の中を覗く」ための技術は、好意的に見ても“諸刃の剣”であり、否定的に見れば、危険な誘惑に満ちているような気がするのである。
 
 谷口 雅宣

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