集中豪雨は何を語るか?
昨夜から今日にかけて、日本列島の各地で記録的な大雨が降り、河川の氾濫、土砂崩れが起こり、家屋や商店の損壊や人的被害も起こった。気象庁によると、24時間の最大雨量は愛知県岡崎市で302.5ミリ、埼玉県久喜市で227.0ミリ、東京都八王子市で218.0ミリ、同青梅市で148ミリを観測した。
1時間当たりの雨量では、東京都八王子市とあきる野市で昨日午後11時が110ミリ、日の出市で100ミリを観測。愛知県岡崎市では29日零時までの1時間に146ミリの雨量があったため、同市は今日未明、市内の約14万世帯(約37万6千人)に対して一時、避難勧告を出し、県を通じて自衛隊に災害派遣を要請した。また、神奈川県相模原市は952世帯に、東京都八王子市は150世帯に一時、避難勧告を出した。
今日の『日本経済新聞』が夕刊でまとめている被害状況(総務省消防庁発表)によると、愛知県や関東地方など10都県で床上浸水が519棟、床下浸水は390棟。JR中央線は八王子-大月間の上下線で始発から運転を見合わせ、京王線は土砂崩れの影響で普通電車の一部が脱線し、29日の始発から一部で運行ができなかった。また、自動車専用道路では、圏央道のあきるのIC-八王子ジャンクションの間と、中央道の上野原-八王子間が一時通行止めとなった。
今年の夏は東海や関東だけでなく、金沢や神戸などでも集中豪雨による浸水被害が出ている。問題はその原因だが、専門家は地球温暖化との直接的関係には否定的だ。上記の『日経』では、東京大学気候システム研究センターの木本昌秀教授の談話として、「例年、亜熱帯性の高気圧がある日本列島の南海上に、冷たい低気圧が居座った状態が続いている。南からの湿った風が入りやすく、各地で集中豪雨を招いた」という分析を載せている。つまり、「例年通りの出来事」というわけだ。ところが同教授は、「温暖化が進むと今回のような集中豪雨型の雨の降り方が増える」とも語っている。私は、この点が重要だと思う。気候変化のパターンは変わらなくとも、それぞれの変化が“激化する”ということだ。
私は、昨年の生長の家講習会で集中豪雨の増加に関する気象庁の統計を紹介したことがあるが、それは地球温暖化と関係していると思っている。この研究は、2006年8月27 日の『北海道新聞』にも報道されたが、1日の雨量が400ミリを超える降雨の発生回数をまとめた統計だ(=グラフ参照)。それを見ると、そういう豪雨の発生回数は1年ごとではかなりバラツキがあるものの、10年単位で見ると、近年目立って増加していることが分かるのである。気象庁がアメダス(地域気象観測システム)を開始した1976年から85年までの10年間の平均では、この回数は「6.4回」で、次の10年間は「5.1回」といったん減るが、96年から2005年までの10年間の平均は「15回」と、一気に3倍の数になる。
なぜ集中豪雨が増えるかも、温暖化の影響で説明できる。私は昨年10月5日の本欄で、「北極の海氷が最小になった」ことを書き、この年の氷の減少率がここ数十年間の平均値を大幅に超えていることに触れた。専門家の中には、今年の9月には北極海から氷が消えると予測している人もいる。このことが地球上の水の循環システムに何をもたらすかは、明らかである。地球上には、極地や高地に年間を通して融けずにいる「氷」が大量にある。それは「万年雪」とか「永久凍土」「氷河」「氷床」などと呼ばれているもので、この大量の氷が「氷」として地上や海上に固定されている限り、地球上の水の循環システムに乗ることはない。南極やグリーンランドの氷床などは、何千年もの間、そこに固定されてきたのだ。ところが、今やこれらの氷が融け出して海に流れ込んでいる。それが蒸発して水蒸気となって雲をつくる。これらの水が再び地上に降りてくれば、それは以前より多くの水量となることに何の不思議もない。
私がこのブログを書いている間も、背後の窓からは、間断のない激しい雨音と頻繁に轟く雷鳴が聞こえる。今後、我々が体験するであろう水害や土砂崩れは、“天災”という分類から“人災”の分類へ移行すべき性質を色濃く帯びてくる。世界の人々が早くそのことに気づき、“国益”とか“ナショナリズム”に熱中するエネルギーを、地球温暖化の抑制と低炭素社会への移行に振り向けてくれることを、私は心から念願している。
谷口 雅宣
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コメント
昨日、出稽古に行って、集中豪雨の話になりました。その方の家では、水洗トイレや台所の水がゴボゴボいって下水道の能力の限界まで来た感じで、これ以上降って床上浸水になったらどうしようと、とてもこわかったそうです。そんな話の中、地球温暖化と集中豪雨の関係について、この欄で教わったことをお話ししたら、ああそういうことだったのとすごく納得されました。その方は自然の感覚を大事にされている方なので、昨日のカンカン照りでも冷房なしでした。
北極海や南極の氷、ヒマラヤの氷河が溶けても、まだ切羽詰まった危機感には乏しいように思いますが、今回の集中豪雨は、遠くで起こっていることは他人事ではないんだよと目の前に突きつけられた感じです。
投稿: 前谷雅子 | 2008年9月 3日 08:49