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2008年8月17日

生物多様性に注目

 今日は午後、東京に小雨が降った。最近、日本各地で頻繁に起こる“ゲリラ豪雨”ではなく、春雨を思わせる細かい霧雨である。気温も急に下がり、前日から10℃近く低い25℃の涼しさは、まるで高原に来たようである。夕方、傘をさして仕事場からもどると、門から玄関まで続く飛び石のあちこちに、あわてて私に道をあけるヒキガエルの姿が多いのに驚かされた。彼らは、小虫を食べて大きくなるのだろうから、庭にはそれだけ数多くの昆虫がいるのである。今、自宅のリビングルームでキーボードを叩いているが、部屋の隅に置いた透明プラスチックケースからは、50匹以上のスズムシが盛大に鈴の音を響かせている。

 このスズムシのことは8月2日の本欄に書いたが、隣家の母が昔から飼い続けているものだ。母はこれまで、何度も庭に放して、自然の環境でスズムシの音を聞きたいと思ったそうだ。しかし、放した後、数日はその音が聞けても、やがて聞こえなくなり、不思議に思って探してみると、放した場所には大きなヒキガエルがいる--そんな経験をしたので、やめてしまったという。だから、わが家のスズムシは“自然”から隔離されて生き延びているのである。
 
 そうはいうものの、ここには昆虫は結構多くいる。昨夜は、庭に近いサンルームで夕食をとっていた際、目の前の網戸をつたって体長10センチほどのヤモリがぬうーっと姿を現した。ヤモリは昆虫を捕食するために出てきたので、網戸の向こう側には緑色のコガネムシが何匹も貼りついていた。コガネムシは、我々人間が果物を食べていると、その香りに誘われて飛んでくるのである。彼らのことはかつて本欄にも書いたことがあるが、ここ数年の“猛暑”の影響かどうか知らないが、夏になると大発生して我々を困らせる。樹木の葉を食べつくしてしまうのだ。今年はまず、キーウィーの葉がやられ、次にブルーベリーの葉と実がやられた。彼らは今はそこからスモモの木へ移り、ゴーヤにまで取りついて葉を盛んに食べている。
 
 昆虫は、もちろん“困りもの”だけがいるのではない。今時々、庭先に飛んできて我々の目を楽しませてくれるのがアゲハチョウである。ここには普通の黄色主体のアゲハチョウだけでなく、クロアゲハも、アオスジアゲハも飛んでくる。ハチの種類では、ミツバチもアシナガバチもクマバチも来るし、この間は、妻が大きなスズメバチを見たと言った。これに加えて、今は毎日セミの大合唱が庭中に響いている。種類も豊富で、アブラゼミやミンミンゼミは言うに及ばず、ツクツクボウシもクマゼミもヒグラシも鳴く。このほか、庭に出て目につくのは、糸をかけて巣をつくるクモ、軒下の乾いた土に擂り鉢をつくるアリジゴクなどだ。私の目につかない所には、この数倍、いや数十倍の種類の昆虫がいるはずである。だから、鳥もよく飛んできて、木の枝を巡りながら何かをついばんでいる。

 東京のど真ん中にいながら、これだけの生物多様性がある環境で過ごせることは、実に幸運である。それもこれも、わが家では私の祖父の時代から樹木を大切にし、植物を育て、農薬などで昆虫をむやみに殺さなかったからだ、と私は考えている。こういう環境を守るための生物多様性基本法が、この6月から施行されたことで、最近は企業もこの点を意識した開発計画を策定するようになったらしい。今日(17日)付の『日本経済新聞』によると、森ビルや富士通、三井物産、リコーなどの大手企業は、生物多様性の保全を目指した開発や再開発を行うことを、温暖化ガス削減に次ぐ環境経営の柱として取り入れていくという。
 
 記事によると、森ビルは東京・虎ノ門地区の再開発事業で地上46階の複合ビルなどを建設するが、この際に動植物の種類の多さを考慮して緑化地域を設計するらしい。また、富士通は2020年までの中期環境計画の目標の一つに生物多様性の保全を盛り込み、三井物産は今年度中に、5カ所の社有林で生物多様性の調査を行って森林管理に役立てる計画という。
 
 私はこのような傾向を大いに歓迎するが、企業イメージ向上のための“装飾的”な活動に終らないよう希望する。生物多様性とは、少しぐらい木を植えれば実現するような簡単なものではない。また、生物多様性が豊かな環境とは、人間に便利で、住むのに快適な環境では必ずしもない。カやハチや毒虫に刺されるかもしれないし、セミの騒音が耳障りかもしれないし、落ち葉や鳥のフンの掃除でコストがかかるかもしれない。人間の都合を最優先する現代の企業経営の考え方で、解ける問題と解けない問題がある、と私は思う。
 
 谷口 雅宣

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コメント

谷口 雅宣 先生、

昨日、日本から帰国しました。帰りに本を9冊と『日々の祈り』のCDを買って帰りました。その本の中に『奇跡のリンゴ』(石川拓治著)というのがあり、木村秋則さんが9年かけてリンゴの無農薬栽培を成功させた話を読みました。木村さんはリンゴの木の葉を食べる虫を農家は害虫というけれども、手でこの虫を捕ってよく見るとかわいい顔をしているのだそうです。ところが、農家にとって益虫である害虫を食べてくれる虫について、例えば「クサカゲロウなんてさ、まるで映画に出てくる怪獣みたいな顔しているんだよ。人間は自分の都合で害虫だの益虫だのと言ってるけど、葉を食べる毛虫は草食動物だから平和な顔をしている。その虫を食べる益虫は肉食獣だものな、獰猛な顔しているのも当たり前だよ。」(同書153頁)と言っていました。さらに、リンゴはリンゴの木だけで生きているのではないということがわかり、雑草を生やすなどして、ついにリンゴの無農薬栽培に成功した話を読むと、先生が「生物多様性とは、少しぐらい木を植えれば実現するような簡単なものではない」と言われていることを傍証しているようで興味深く読みました。この本は、自然の中で他から持ってきて植えたリンゴの木を、どのように自然と折り合いながら無農薬で栽培しているのか、詳しく書いてあり、生物多様性とは私のような人間が考えているような生ぬるい心地よい自然とは少し違うことを文章上体験できて面白かったです。(長文にて失礼しました)

投稿: 川上 真理雄 | 2008年8月20日 03:27

Rev. Mario,

Very interesting observation! Thanks for the info.

投稿: 谷口 | 2008年8月20日 06:44

27年前この地に引っ越してきた時は、雉やコジュケイの声だけではなく、間近にその姿も見かけて、まるで別荘に来たみたいと喜んでいたのですが、そのうち家の中まで侵入してくるムカデに自然に恵まれた環境とはこういうことなんだと思い知らされました。
先日は、庭のドングリの木に出来たスズメバチの巣を業者に頼んで駆除してもらいましたが、スズメバチに関していえば、我が家はOKでも、知らずに通ったご近所さまや草取りの人たちに被害が及ぶので、駆除して未然に被害を防ぐより仕方がありません。
色々な種類の木を植えるところまでは出来ると思いますが、その先の生物の多様性まで考えると、この小さな庭でさえ、人間の都合と生物の凌ぎ合いでなかなか一筋縄では行きません。

投稿: 前谷雅子 | 2008年8月20日 16:49

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