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2008年8月26日

南オセチア紛争が拡大 (4)

 南オセチア紛争の拡大によるロシアとグルジアの軍事対立が、欧米とロシアの対立に発展する様相を見せている。これは、今後の世界情勢全体を考えるうえで大変憂慮すべきことだ。私は16日の本欄で、オリンピックの「メダルの数や靖国に参拝した政治家の数などとは比較にならないほど重大な変化が、世界で起こりつつあるのでは」と書いたが、この“悪い予感”が当たりつつあるのは残念なことだ。
 
 すでに報道されているように、ロシアはグルジアの各地に軍を展開した後、「撤退した」とGeorgiamap 言いながら、一部の要所からの撤退を拒否している。特に重要なのは、黒海に面する港湾都市・ポチと、分離独立運動が盛んな南オセチアの州都・ツヒンバリに近いゴリ北方の地域だ。また、グルジア西部の自治共和国アブハジアとの境界地帯からも、ロシア軍は撤退していない。それでもロシアが「撤退した」と言う理由は、それらの部隊はロシア軍ではなく“平和維持部隊”だから--というのである。24日付の『朝日新聞』の載った地図(=図を参照)を見れば明確だが、ロシアは、自己の勢力圏であったグルジア領内の南オセチアとアブハジアを、グルジアの他の地域から切り取る形で軍を展開しているのである。

 港湾都市・ポチが重要な理由は、そこが黒海側からのグルジアの入口だからだ。石油の積み出しにも使われるだけでなく、人員や物資流入の基地であり、軍事衝突の際は海からの派兵はここからとなるだろう。逆に言えば、この港を押さえておけば、欧米の軍隊は海から上陸できない。さらに重要な点を言えば、ゴリ北方に軍を展開させることは、10日の本欄に書いたように、BTC(石油)パイプラインとそれに沿う天然ガス・パイプラインの使用に影響を与えることができる。このパイプラインは、カスピ海のバクー沖から産出される原油を、アゼルバイジャン国内とグルジアのトビリシ経由でトルコの港・ジェイハンまで運ぶルートだ。これを主導しているのが英米の石油メジャーだが、26日の『産経新聞』によると、今回の武力衝突でロシア軍はパイプラインも空爆の対象としたため、石油メジャーの1つであるBP社は、BTEパイプラインの運用停止に追い込まれたという。
 
 このようなロシアの動きに対して、欧米諸国は「グルジアから撤退しろ」と声を上げているのだが、声は大きくとも具体的な行動はあまり進んでいない。アメリカは22日、“人道支援”の名目で地中海から黒海へイージス駆逐艦「マクフォール」を送り込んだ。25日の『朝日』によると、この艦船は同日にポチ港ではなく、バトゥーミに到着したという。また、24日の『産経』によると、ポーランド、スペイン、ドイツのフリゲート艦なども黒海に入り、米艦艇と共に軍事演習をする予定という。この黒海北方のウクライナの港・セバストポリは、ロシアの黒海艦隊の基地である。ウクライナは、グルジアと同様に西側への傾斜を強め、NATOへの加盟を目指している国だから、ロシアの動きに神経を尖らせている。アメリカの艦艇としては、第6艦隊の旗艦で、揚陸指揮艦の「マウント・ホイットニー」と巡視船「ダラス」が黒海に向かっているという。
 
 軍事でなく政治の動きを見ると、サルコジ仏大統領が仲介して成立した「6項目の和平原則」について、米仏の大統領が「ロシアは従っていない」との立場を確認しのたが22日。サルコジ氏が、ロシアのメドベージェフ大統領と電話会談し、ロシア主体の“平和維持部隊”に代わる国際的組織を早急にグルジアに派遣することで合意したのが23日である。サルコジ大統領は24日、グルジア問題に関するEUの首脳会議を開くことを表明したが、その開催は9月1日だという。(25日『朝日』)
 
 ロシアは、これらの欧米からの圧力に対して25日、政治的に大きな動きに出た。それは、南オセチア自治州とアブハジア自治共和国の独立を大統領が承認するよう、上下院がそろって声明を採択したことだ。加えてプーチン首相は、WTO加盟交渉を凍結する方針を表明、メドベージェフ大統領もNATOとの関係断絶を辞さない姿勢を示した。(26日『日経』)

 欧米諸国は今回の紛争激化以後、グルジアの領土の一体性の維持を主張してきたから、ロシアのこの動きは、それと真っ向から対立するものだ。また、この2つの地域がグルジアから“独立”してロシアの勢力圏に完全に編入されれば、グルジアは両地域を諦めてNATOへ加盟する選択をする可能性がある。また、グルジアと同様の民族問題を抱えている隣国・ウクライナも、グルジアの“二の舞”となることを避けるために、西側への編入を決意する可能性は大きく、欧米もそれを認めざるを得ないだろう。こうして、民族問題(ナショナリズム)の対立を契機として、黒海沿岸の国々は“ロシア側”と“欧米側”に鮮明に色分けされることになれば、“東西冷戦の再現”に近づいていくのである。
 
 谷口 雅宣

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コメント

副総裁先生

ありがとうございます。

やはり、ロシアは既得権創りでグルジアの要衝に「平和維持軍」としてロシア軍を駐屯させると思います。
ロシアにすればこの形を作るために、グルジアが南オセアチアに侵攻するのを待っていたはずです。

アメリカはグルジアを守るとは言っていても、既成事実化したロシア軍の撤退まで、グルジアを守ってくれません。

もし、我が国の尖閣諸島を中国が占拠したとしても、アメリカは日本を護ってくれるとは思いません。

このグルジアがいい証拠です。
中国はこれから内政が混乱してきますが、それを鎮めるために尖閣諸島の占拠で国民の目を眩ますぐらいは平気でやる国です。

戸締りをしっかりしなければ国民の安全、平和は維持されあいような気がしますが、先生はいかが思われますでしょうか?

このような事態になってきた時、明治の元勲たちならどうしたろうか、と考えた時、ロシアの行動を承認するだろうと思いました。

国益を考えた時、アメリカ一辺倒ではなく、ロシアにもさざなみを送るくらいの戦略は必要だと思いました。

グルジア紛争はどちらも国益のために、揉めているだけのことです。もし、日本がロシアを支持すると声明を発表したらロシアは歓喜で日本に擦り寄ってくれでしょうし、アメリカも日本への対応を変えてくると思います。

アメリカのイラク侵攻に対してフランスとドイツが協力しなかったことと同じです。

あの時は、ロシアとドイツ、フランスは蜜月を送ったのです。

ここまできたら、ロシアは撤退しないと思います。
サルコジとの約束なんてロシアからすれば最初から時間稼ぎにしか考えていないはずです。

アングロサクソン系は、個人は信頼できますが、組織や国はその団体の利益のために嘘は平気な民族です。

これからが、見ものです。
ロシアの大統領は「新冷戦は恐れない」(8月27日日経)と宣言しているようです。

日本は100%ロシアを支持することはないと思いますが、また、日本独自の外交のチャンスを失うと思います。

投稿: 佐藤克男 | 2008年8月27日 10:34

佐藤さん、

>>もし、我が国の尖閣諸島を中国が占拠したとしても、アメリカは日本を護ってくれるとは思いません。<<
あなたのアメリカ不信は、相当なものですね。日米は軍事同盟を結んでいます。アメリカが日本を支援しない場合、アメリカが他国と結んでいる軍事同盟の信頼性も大きく損なわれます。そんな愚を今、アメリカがするとは思えません。(台湾海峡にさえ、軍艦を送りましたよ)

>>グルジア紛争はどちらも国益のために、揉めているだけのことです。もし、日本がロシアを支持すると声明を発表したらロシアは歓喜で日本に擦り寄ってくれでしょうし、アメリカも日本への対応を変えてくると思います。<<

 これも、大変オカシナ考え方と思います。国と国との関係を、そんなに軽く扱ってはいけません。大体、ロシアが「歓喜」するなんてことはありません。日本という国家が世界的に信頼を失うだけです。まあ、孤軍奮闘して核武装へ進み、自滅するのがオチですね。


投稿: 谷口 | 2008年8月27日 13:37

本当に情けない話しです(泣)
国家と言う名の元の迷(我=我利我利妄執)いによって罪無き人々の流血と破壊が繰返される現状、人類は本当の意味で賢くなっていないんですねえ、、、人類の歴史の中で数々の賢人、偉人の教え、為政者の失敗に耳や目が無いと言いいますか教訓が生かされていない!本来自分の物、国家の物は何にも無いのに、、、本当の宗教心のない為政者に国家を任せてはいけないのではないか?日本に戦争責任の賠償金を求めなかったスリランカの指導者は「すでに戦争は終わったのだ!もはや恨みに報いるに恨みをもってせず、お互い交流して仲良くしましょう」と言ったと言う話を聞きましたがトップに立つ各国の指導者は本当に自分の使命を真摯に把握し人類の平和を実現(平和を実現する人は幸いである、その人達は神の子と呼ばれるであろうーイエス)して頂きたいと思います。

投稿: 尾窪勝磨 | 2008年8月27日 14:27

私は複雑な政治的判断は分かりませんがロシアは何故グルジの首都近くの要所を攻撃などしないでオセアチア住民の生命と財産を守ると言うのであればオセアチア自治州内でのオセアチアからの要請防衛のみにあたらなかったのでしょう?それならば大義名分が立つのではないか?と思うのですが、、、、。

投稿: 尾窪勝磨 | 2008年8月27日 22:38

副総裁先生

ありがとうございます。

≪あなたのアメリカ不信は、相当なものですね≫
先生、私はアメリカ不信ではなく、日本政府が自国を守るためのメッセージをはっきりと発信しなければ、アメリカは日本の領土も守ってくれなくなると思うのです。
現に竹島のアメリカの見解は変わりました。以前は日本の領土としていたのが、玉虫色に変わりました。
北朝鮮拉致問題でも、アメリカは後退しました。
中国は南シナ海で、領海ギリギリのところに海上油田を作ってストローで日本の?油を吸っております。

これらはアメリカや中国が悪いのではなく、日本の態度があいまいだからです。
日本も国益を守るという明確な姿勢が大切だと思うのです。

今や、アメリカは自国を守るという観点からいったら、日本より中国の方が大事になってきたのではないでしょうか。

アメリカの国債も中国は日本より持っておりますし、アメリカ人が投資している投資金額や企業数は、中国は日本をはるかに凌駕しております。

尖閣諸島を中国が侵略した時、アメリカは日本と中国どちらを取るでしょうか?

実利主義のアメリカは、アメリカの若人の血を流してまで中国と一戦を交えるとは思いません。

いずれにしても、日本は国益を守る意味での明確な発信をしてもらいたいと思います。

投稿: 佐藤克男 | 2008年8月28日 06:22

佐藤さん、

 「国益」とおっしゃいますが、何が国益であるかはそう簡単に分かるものではありません。また、「国益を守る」という意識が昂じることがナショナリズムの問題で、これによって今回の戦争も起こっています。

>>尖閣諸島を中国が侵略した時、アメリカは日本と中国どちらを取るでしょうか? <<

 こういう過程は単純過ぎて、実際の国際関係を反映するとは思いませんが、それでも敢えて私が予測をすると、アメリカは同盟国である日本を守ると思います。これができなければ、NATOも崩壊し、米豪の同盟も崩壊するでしょう。貴方はやっぱりアメリカ不信ですね。

投稿: 谷口 | 2008年8月28日 10:43

尖閣諸島を中国が侵略した時、と言う仮定ですが私はまず有り得ない!いくら中国でもそんな馬鹿な事はやらない!と思います、アメリカの核の傘の下にあり、軍事基地を沖縄等々に持っている日本に対して現状に於ける尖閣諸島をわが国の領土だから、、、と攻撃はして来ない!来れない!私は唯物主義的中国の只の外交上の揺さぶりを掛けているだけの事だと変に確信しているのです、もし有り得ない事が起こったとしても只全力で防衛に徹すれば良いだけの事、アメリカを始め西側諸国は黙っていないでしょうし、共産圏の国々も北朝鮮を除いて賛成、擁護出来ないでしょう、国連にしましても中国を援護するとはとても考えられませんし中国は孤立化し、世界を敵に回す事になるでしょうから、、、。

投稿: 尾窪勝磨 | 2008年8月29日 14:05

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