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2008年8月 1日

古い記録 (2)

 前回見たように、昭和42(1967)年当時、私が入学した青山学院高等部ではいわゆる“左翼的”言論が普通に行われていたが、その出版部に私が何月に入部したかは、はっきり覚えていない。しかし、新学年は4月始まりで、5月までを“クラブ探し”の期間と考えれば、入部は5月中か6月からと推測していいだろう。その年の『高等部新聞』の7月20日号(第96号)には、文化祭に向けて、クラブ活動の紹介記事が掲載されているが、出版部については、「現在の出版部は1年生男子1名、2年生男子3名女子2名、3年生1名の計7名からなっていて」と書いてある。この「1年生男子」というのが、どうも私らしい。
 
 そう言える理由は、その号の新聞の第4面の編集スタッフとして「谷口(雅)」という文字が見えるだけでなく、その面の下2段通しで書籍広告が掲載されていて、スポンサーは日本教文社だからだ。書籍だけでなく『理想世界』と『理想世界ジュニア版』の月刊2誌の広告も載っている。入部後すぐにこんなことができたのは、恐らく部員が少なかったことと、部長が寛容だったか、もしくはいい加減だったのかもしれない。高校生だから、思想性などより紙面のバラエティや広告が採れることを優先したのかもしれない。

 その次に発行される9月23日号(第97号)では、もっと驚くべきことが起こる。第1面に7段組みで「日本国憲法をさぐる」という論説が掲載されるのだ。これが“左翼的”論説でないことは、書き出しの数行を読めばすぐ分かる--
 
「現行の日本国憲法は正しい憲法ではない。と言ったら、多くの人達は驚くことだろう。それは本当にそうなのである。その理由の一つは、現行憲法の制定の方法に非常な不正と矛盾があるからである。(後略)」

 論説はこれ以降、現憲法が大日本帝国憲法の「改正」という形で制定されたものの、外国軍の占領下であり、かつ改正範囲を逸脱した改正であったから正しくない……などという点を掲げて論陣を張るのである。入部したての一年生部員にすぐに「論説」を書かせるというのも驚きだが、その内容が従来とまったく正反対だというのには、もっと驚かされる。こんなところは、高校生の出す新聞ならではの“自由さ”(あるいはいい加減さ)が表れているのだろう。この号の第一面下には、日本教文社の3段半分の書籍広告が再び掲載されているが、本の題名には我々にとって馴染み深いものがある--
 
 谷口雅春著『青年の書』、同『第二 青年の書』、同『能力と健康の開発』、同『若人のための78章』、谷口清超著『生きる』、林房雄著『日本への直言』
 
 こうは書いたが、私が入部して以来、『高等部新聞』の論調が全く“逆立ち”してしまったわけではない。12月12日号(第99号)では「君のベトナム戦争に対する沈黙は人間的罪悪ではないか?」という大見出しの特集記事が載った。その次に出た2月22日号(第100号)では「70年闘争への展望」という“新左翼”まがいの論説が第2面に掲載されたかと思うと、第4面ではソ連の不正を糾弾する北方領土問題の記事や、国旗掲揚の意義を訴える記事が載っている。
 
 私は、この第100号に「建国記念日について」という論説を書いている。そのサワリの部分を再掲すれば--
 
「米国にしても1776年7月4日の独立宣言の日を“建国の日”としているが、これも単に時間的起源を意味するものではなく、国家誕生の精神、意義、内容を重視しているからである。日本の場合も同じで、たまたま日本の建国が太古の昔であるから何年何月何日と断言できないだけで、日本建国の精神という史実より重要なものは、古事記、日本書紀等の古典によって、厳然として今日に伝えられているのである。」
 
 こうして『青山学院高等部新聞』は記念すべき第100号に近づくにつれて、内容の分裂が際立っていく。それは同時に、私の母校の外で起こっている日本社会全体の国論の分裂と呼応していたことは、言うまでもない。
 
 谷口 雅宣

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コメント

合掌 ありがとうございます。
 先生の昔の“古い記録”を全部拝見しまして大変、懐かしく思いました。私も現在、59歳で当時、法政大学に通っておりました。大学紛争の真っ只中で日本国がどうなってしまうのかを憂えていた一人でした。その頃に生長の家に触れまして谷口雅春先生の“明窓浄机”を毎月拝読させて頂きましてどの様にしたら良いのか悩んでいた時を思い出しました。これから、さらに生長の家の御教えを強力に弘める事が大切であると思った次第です。     
                       再拝

投稿: 深尾 勝久 | 2008年12月28日 22:24

深尾さん、

 初めてのコメント、ありがとうございます。
 59歳と言えば、私より2歳上ですね。大学時代はまさに混乱の“渦中”にあったと思います。私の場合、70年入学組ですから、“一瞬遅れた”という感じです。

投稿: 谷口 | 2008年12月29日 15:40

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