宗教運動と環境保全
地球環境保全を目指した取り組みについては、生長の家が日本で初めて国際評価基準であるISO14001の認証を取得したことは、本欄の読者なら旧聞に属することと思う。このことはまた、スイスのジュネーブに本部を置く国際標準化機構(International Management Systems)が発行する機関誌『ISO Management Systems』の2002年1~2月号にも大きく取り上げられた。あれから6年たって、世界の主要な企業や団体がこの“環境ISO”を取得するのは当り前になってきたが、宗教団体の意識としてはまだそこまで達しない場合が多いようだ。ところが、このたび発行された同誌の今年7~8月号(=写真)によると、世界の宗教団体の中にも、環境意識を自分たちの“本業”に生かすために、ISO14001やISO9001(品質管理の基準)の認証を取得する動きが広がりつつあるという。
同誌は、ドイツのミュンヘンにあるメディアデザイン応用科学大学のアレクサンダー・ムーチニク氏(Alexander Moutchnik)による国際記事として、8ページを割いて宗教団体のISO認定取得の動きを取り上げている。それによると、これらの認証取得は「教会や宗教団体にとって、信徒への説明責任を改善し、寄付を増やし、環境破壊を減らし、社会的責任を果たしていることを示す強力な道具」となりつつあるという。ムーチニク博士は、この動きには、①主な宗教のすべてが含まれ、②宗教団体のタイプは多種多様であり、③世界的な現象である、と3つの特徴を挙げている。
具体例的には、ドイツでは2010年までに千以上の宗教団体に環境基準を導入させようとしていること、フィンランドでは2001年2月以来、100カ所以上のルター派教会が環境証書を得ていること、スコットランドでは2001年以来、130の教会のうち40の教会が「エコ教会賞」(Eco-Congregation Award)を獲得したこと、オーストリアでは農業森林保水省が設けた2007年の環境マネージメント賞を、宗教団体として初めてセントバージル成人教育センターが受賞したことなどだ。この中に日本の例として、生長の家が2007年までに全国の66の事業所でISO14001を取得し、さらに世界の主要3国(ブラジル、アメリカ、台湾)での認証取得に向けて運動を進めていることが書かれているのである。また、これ以外では、ブラジルのユダヤ教系病院、ブルネイのイスラミック・センター、マレーシアのヒンズー教寺院、フィリピンのカトリック系大学、アメリカのカトリック系病院が紹介されている。
「宗教運動がなぜ環境重視なのか?」--最近は、日本の宗教団体も環境保全に取り組む動きがあるものの、この疑問は生長の家が環境保全への取り組みを始めた当初は内外にあった。この記事でもそれを短く取り上げているが、説明の仕方は、いかにも国際機関らしい。それによると、宗教団体は、経済活動の参加者として相当大きいからだという。世界の11の主な宗教が抱える信者数は、世界人口の85%にもなり、機関投資家としては3番目に大きいという。だから、これだけの人々と資金とが、環境保全や効率的運営を目的として動けば、地球環境や世界経済に大きな影響が及ぶというわけだ。
また、上にも触れたが、信者に対する「説明責任(accountability)」や教団運営の「透明性」が記事では重視されている。これはつまり、生長の家を含めた多くの宗教団体は信徒からの献金や寄付によって成り立っているからで、信徒の立場からすれば、自分の献金や寄付が何のために、どのように使われるかがよく分かる場合と、分からない場合とでは、信頼度、帰属意識、信徒としての動機づけなどの面で、大きな違いが出てくるからだ。簡単に言えば、自分の献金する団体が、ムダなく効率よく運営されており、その活動が環境に害を与えていないと分かっている場合とそうでない場合では、団体の魅力が違ってくるのである。だから、環境保全への取り組みを真面目に進めていると認められることは、宗教団体にとっても大いに意味がある。時代の流れは、そのように変わりつつあるのである。
谷口 雅宣
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