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2008年6月10日

“福田ビジョン”は遅れている (2)

 5月21日の本欄でこれと同じ題で書いたが、その時には“福田ビジョン”なるものが正式発表されていなかった。一部報道されていた情報をもとに論評したので、正確さを欠いた点は否めない。が、今日の新聞各紙は、この“福田ビジョン”を大きく、詳しく報道してくれた。9日、福田首相は日本記者クラブで「“低炭素社会・日本”をめざして」という題の講演を行い、それが首相の地球温暖化対策のための包括提案だというのである。『朝日新聞』は、その骨子を次の6項目にまとめている--
 
①温室効果ガス削減の長期目標は、2050年までに現状から60~80%減。
②2020年までに2005年比で14%の削減が可能。来年、日本の国別総量目標を発表。
③途上国支援の日米英基金に12億ドルを拠出。
④太陽光発電を2020年までに現状の10倍、30年には40倍に拡大。
⑤今秋、排出量取引の国内市場を試行。
⑥今秋、環境税を含め、税制全般を横断的に見直す。

 ①の長期目標は、すでに安倍前首相が発表した「クール・アース構想」にもとづき、温暖化に責任のある先進国の負担分を上乗せした数字だ。ただ、長期目標というのは現在の政権運営との関係が薄く、責任問題が生じないから“アドバルーン”としての意味しかない。重要なのは「中期目標」だが、それは②にあるように、発表できなかった。「2005年比で14%減」という数値は、経産省がはじいた楽観的な試算値であり、すでに発表ずみのものだ。③は、温暖化による被害救済のための基金のことだから、温暖化対策それ自体ではない。④は、今回新たに出てきた数値で歓迎できる。(後述)⑤も、新政策として歓迎しよう。しかし⑥は、「実施」ではなく「見直し」だから、やるのかやらないのか分からない。ということで、私としては「もっと言ってほしかった」と不満が残る。

 10日付の『日本経済新聞』には、やや詳しく“福田ビジョン”の要旨が載っている。それを読むと、首相の温暖化対策の重点手法が分かる。それは、「技術力」によって温室効果ガスの排出を極力抑えることを第1に考えている。2番目は、制度改革で排出権取引と環境税の実施だが、これには何か“様子見”のニュアンスが残っている。前者については「効果的なルールを提案するくらいの積極姿勢に転じるべきだ」と書いてあり、一体誰に向かって言っているのかと考えさせられる。一国の首相が本当にやる気ならば、「効果的なルールを提案する」だけでいいはずだ。業界の意向が気になるということか。後者については、上に書いたように、「見直し」にとどまっている。首相の重点手法の3番目と4番目は、全国から10程度の環境モデル都市を選び、支援することと、国民運動による意識改革だが、これらの効果は限定される。
 
 さて、問題は「技術力」の内容だが、これには新技術と従来技術が言及されていて、前者は「まだこの世に存在していない、温暖化ガスを生み出さない革新技術の開発」とあるから、何となく“夢物語”だ。そこで後者が重要になるのだが、ここには「太陽電池」「CO2の地下貯留」「原子力」「風力」「水力」「バイオマス」など、見なれた言葉が並んでいる。そして、これらをカバーする概念として「ゼロ・エミッション電源」という言葉を使い、これの国内での使用比率を50%以上に引き上げる、としている。何を「ゼロ・エミッション」と称するかは必ずしも明らかでないが、原発の増設も考えているようだから、にわかには賛成できない。
 
 実は、10日付の『産経』には、青森市で行われていたG8に中国、インド、韓国を加えたエネルギー相の会合で「青森宣言」なるものが採択され、そこには原発について「多くの国が気候変動緩和とエネルギー安全保障の達成手段として、関心を表明している」と明記され、集まった11カ国が「場合によっては国別推進目標や行動計画を策定することで合意した」と報じられている。何のことはない。原発の増設目標を各国で設定して推進することに、日本が音頭を取った形になっているのだ。また、CO2の地下貯留については、「G8が2010年までに20件の大規模案件に着手することでも合意した」のだそうだ。CO2の地下貯留とは、化石燃料(石炭や天然ガスが考えられている)を使って発電した後に、排出されたCO2を地下深くに埋め込む技術だ。原発が、放射性廃棄物を地下深くに埋め込むことで“クリーン・エネルギー”と称しているのと同じ発想だ。ここのところが、どうしても自民党の限界だと感じる。
 
 ただ、「太陽光発電世界一」の地位を奪還するとの表現には、大いに勇気づけられる。上記した「2020年までに現状の10倍、30年には40倍に拡大」するという目標は歓迎するが、首相の支持基盤の1つである電力会社との調整をどうやっていくのかが、気になるところだ。ドイツでは「1家庭あたり毎月500円のコストを負担している」ことをわざわざ書いているところを見ると、電力料金の一律値上げということなのだろうか。私は、それでもいいと思う。

 谷口 雅宣

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コメント

副総裁先生

ありがとうございます。
先生の仰られるように福田ビジョンでは遅れすぎて全く期待できません。

≪ドイツでは「1家庭あたり毎月500円のコストを負担している」ことをわざわざ書いているところを見ると、電力料金の一律値上げということなのだろうか。私は、それでもいいと思う。≫

ドイツもスペインも韓国もフィードインタリフを導入して太陽光発電、風力発電が日本では信じられないほど熱気を浴びております。

私はCO2削減は勿論ですが、排出したCO2の処理に全く言及していないことに腹立たしく思っております。

私の仕事は太陽光発電の仕事ですが、地球の温暖化防止をするには限界を感じております。例え、一軒の家で3kWの太陽光発電をつけると1500坪の森林に相当すると言われておりますが、実際に1500坪の森林を作らなければCO2を吸って酸素を創りだすことはできません。

生長の家も排出権の購入を推進しているようですが、その排出権は生長の家が購入しなくてもどこかで購入されるものです。それよりは植林をして実際のCO2を削減して、酸素を供給することに力を入れるべきだと思います。

我々一人一人の些少の献資がそのような本当に意味あるところに生かされることを期待して止みません。

投稿: 佐藤克男 | 2008年6月10日 22:11

谷口雅宣先生
 6月は環境月間ということだけではなく、いよいよ地球温暖化が深刻になったのか、NHK総合テレビでは、6月6日から8日までの3日間、地球環境を考える様々な番組を放送しました。また、日本テレビでも8日に朝から晩まで、地球環境を考える番組を放送しました。身近にお茶の間で見ているタレントがマイ箸を当たり前のように使ったり、普段見られない環境を考える真剣な眼差しに、多くの国民は共感したと思います。政治家も、もっと真剣に考えなくてはならないと思いました。
 雅宣先生のご指摘を、政治家は真摯に受け止めねばならないと思います。
 ところで、最近「100万人のキャンドルナイト」という言葉を耳にしました。これは、夏至(6月21日)から七夕(7月7日)までの間、夜間の一定の時間に電気を消して、キャンドルで過ごそうという呼びかけで、ちょっとオシャレな環境への取り組みかと思います。
ホームページは、以下の通りです。
http://www.candle-night.org/jp/


投稿: 久保田裕己 | 2008年6月11日 00:52

佐藤さん、

>先生の仰られるように福田ビジョンでは遅れすぎて全く期待できません。<

 でも、太陽光発電を2020年までに10倍に、ということは期待してもいいのではありませんか?

 それから、生長の家は植林も検討中です。地方では、実際にやっている信徒さんもいます。念のために……。

投稿: 谷口 | 2008年6月11日 12:39

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