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2008年5月14日

“放置国家”から脱却しよう

 最近の日本の政治はきわめて分かりにくいので、ホトホト困ってしまう。「道路特定財源の制度を延長する」ための法律を作っておいて、閣議では「道路特定財源は廃止する」と決める。これは大いなる矛盾だから、どちらかがウソではないかと思う。そこで、普通はこう考える--日本は議会制民主主義の国で、世界に冠たる“法治国家”だから、国権の最高機関である国会で決まった法律が政治の本筋を決定する。ところが、福田首相は「閣議で決まったことが本当だ」と言う。これでは、内閣総理大臣が「法律は無視していい」と言っているように聞こえる。こんなにいいかげんで、分かりにくい政治を野党も許しているところが、また分からない。結局、日本という国は“法治国家”というよりは、ギョーカイが望むものはすべて温存しようとする既得権益の“放置国家”ではないか--と思いたくなる。

 しかし、私が今回言いたいことは「道路問題」ではなく「環境対策」である。この2つは、もちろん関係がある。道路をつくり続ければ当然、自然環境の悪化が進行する。それは、山を切り拓き、大量の構造物とセメントとを自然界に投入することだから、当然、二酸化炭素が出る。それだけでなく、山や原野に道路を通すことは、生物の生息域を分断することになり、繁殖条件を悪化させる。だから、道路をつくり続けながら環境対策も行うというのは、大いなる矛盾であり、どちらかがウソである。どちらがウソであるかは、上記の例を考えれば何となく分かるだろう。
 
 5月12日の『日本経済新聞』の夕刊に、不思議な記事が載っていた。「不思議」というのは「内容が怪しい」という意味ではない。内容は「そうだろうな」と理解したうえで、「なぜそうなのか?」と不思議に思うのである。その記事によると、日本で太陽光発電と風力発電を事業化している企業は、事業の主軸を国内から海外へ移している、というのである。太陽光電池のメーカーは2007年に、輸出量が国内出荷の3倍に達した一方、風力発電の事業者は、国内よりも海外での発電所立地を進めているというのだ。その理由は「欧米は新エネルギー導入の優遇策を強化しており、市場の伸びは国内を大きく上回る」からだという。
 
 ここでいう事業者やメーカーは、中小企業ではない。日本を代表する大手メーカー--例えば、太陽電池ではシャープ、三菱電機、京セラ、風力発電では東京電力系のユーラスエナジーホールディングス、電源開発(Jパワー)などだ。そういう日本の大企業が、国内よりも海外へ事業を展開しようとしているのは、日本が自然エネルギー導入に消極的だからである。政治のかけ声だけは大きいが、制度的な変更がきわめて遅いか、あるいは変更の意欲がないように見える。この点は、道路特定財源の問題とよく似ている。つまり、既得権益をもった勢力が変更を拒んでいて、政治家はその意向に唯唯諾諾としている。

 このほど“福田ビジョン”と称する洞爺湖サミット向けの地球温暖化対策の目標が明らかになったが、そこでは日本は2050年までに、温室効果ガスを1990年比で60~80%削減するとしているようだ。これはかけ声としては相当“意欲的”に聞こえるが、すでにEUが掲げている目標と変わらない。では、EUが実施している温暖化対策に近いものを日本が今、行っているのだろうか? 答えは「ノー」である。環境税も排出権取引も、自然エネルギー支援のための優遇策も、ほとんど内容のあるものは実施されていない。だから、常日頃政府に同情的な『産経新聞』でさえ、「この数値目標の根拠は薄弱である」(5月13日付「主張」)と疑い、『日経』にいたっては、「産業の構造も企業の体質も現状維持を前提とした自主行動の積み上げなどでは、60%とか80%の削減などできるはずはない」(同日「社説」)と手厳しい。大企業が自然エネルギー関連事業を海外へ移しているのも、まさにこれと同じ理由だろう。

 本欄で繰り返し述べてきたように、21世紀は「低炭素社会」の実現に向かって世界全体が転換すべき時代である。道路特定財源の問題も処理できないような現状では、この大変化の潮流には乗れない。日本は早く“放置国家”から脱却しなければならないのである。

 谷口 雅宣

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コメント

谷口雅宣先生

 相愛会、栄える会合同全国大会の時は先生の前で発表させて頂きました。有り難うございました。実はあの日は朝から生きた心地がしませんでした。でも、登壇して先生と純子先生に合掌し、参加者に合掌したら、不思議とスッとプレッシャーが無くなりました。皆様がお力を下さったとしか思えません。

 ところでこの問題は本当に憂慮すべき事ですね。日本は経済一流、政治三流と言われて久しいですが、私の印象だと技術力は世界に冠たる部分がある様ですが、こと、政治となると腰が何時も引けている感じがあります。これは村社会という日本人独特の気質と関係しているのではないかと思います。出る釘は叩かれると言うか、本当に正しい事なら周りが何と言おうと断行するという人が少なく、何となく周りと合わせ、現状維持するという人が多いからではないかと思います。でも、それでは地球は救われませんね。

投稿: 堀 浩二 | 2008年5月15日 09:43

私は政治の世界で活動した事が全くありませんので複雑に絡み合った状況を正確に把握する事は出来ませんが外から見ていますと副総裁が言われる通りだと思います、国民が良くなるのも悪くなるのも国権の最高機関である国会の中で働く政治家一人一人の手腕に掛かっている事を考えれば一国の運命を担わされている重要な使命を真摯に考え私心を捨て取り組んで頂きたいと思いますが???です、"風呂屋の看板""うどん屋の釜"と言う言葉がありますがどうも美しい抽象的な言葉とは裏腹な状況になって来ていて政治家ではなく政治屋の様な感じを受けます、言う事と行う事が別々になっていて誠が不足しているのではないか?宗教心はあるのだろうか?知識だけではないのか?ならば香りの無い美しい造花の様ではないか?等々自分の事はさておいて、ついつい考えてしまいます、智慧と慈悲と勇気を持って既得権益、私心からの脱却を計り放置国家から実のある本物の法治国家が実現する事を期待していますがどうすれば、、、と言われれば空想的理想主義になってお手上げです(泣)。

投稿: 尾窪勝磨 | 2008年5月15日 18:05

副総裁先生

ありがとうございます。
日本の政治家は地球温暖化については全く興味がありません。国会議員も地方議員もです。

私の知っている限りでは議員総数の消費税分(5%)は勿論のこと1%も太陽電池を設置している家はないでしょう。

そのくせ、議員の家は大きな家でCO2は普通の家の2倍以上は垂れ流しです。

政治家が地球温暖化について真剣に考えれば、フィードインタリフが導入される声が聞こえてもいいはずですが、全く聞こえてきません。

ドイツでは電気代の5%を再生可能エネルギーのフィードインタリフの財源にしているそうです。

我が国のガソリン税は5兆円ありますが、その1兆円を道路を作るために使わずに再生可能エネルギーの活性化に使えば大きな効果があげられると思いますが、我が国の政治家もお役人さんもその気がありませんね。

しかし、我々はいつか判ってもらえる日を信じて活動を続けていきます。

投稿: 佐藤克男 | 2008年5月15日 22:04

谷口先生

 「放置国家」ってちょっと面白いと思いました。
ツバルが沈むと騒いでいるのに日本の対策は確かに遅れているのかな?とも考えます。ただ、世界での対策が協力的なのは感心だなと思いました。
 ちなみに、風力発電のプロペラの初号機はフランスからの輸入だった気がしました。3億円?だったでしょうか?
 移動するのにお金がかかるなと思いどれだけCO2が出ているのか気になりました。ただいまは、日本でも製造しているかもしれませんが・・。

多久 拝

投稿: 多久真里子 | 2008年5月16日 11:23

堀さん、

 全国大会、ご苦労さまでした。ブログでお顔は拝見していたのですが、立派な体格で驚きました。テニス・ボールは相当のスピードではないか、などと想像しました。(失礼!)

佐藤さん、

>日本の政治家は地球温暖化については全く興味がありません。国会議員も地方議員もです。<

 こんなふうに“総括”されると、本当に寂しいのですが……。1人や2人は、ちゃんとした人がいるのではないのでしょうか?


投稿: 谷口 | 2008年5月16日 12:07

谷口雅宣先生

 ちょっとこの頃、太り気味でお恥ずかしい限りです。又、私の趣味を覚えて下さっていて誠に有り難うございました。これからも頑張ります。

投稿: 堀 浩二 | 2008年5月16日 13:47

今年の米大統領選での有力候補者(共和党マケイン氏、民主党オバマ氏、クリントン氏)の誰が大統領になっても、現在のブッシュ政権とは一線を画した、より積極的な温暖化対策がとられることになるだろう、と聞きます。

現在の日本の温暖化対策が急速な進展を見せうるとしたら、(日米貿易交渉のときと同じく)、結局は、米国からの“外圧”によってなのかもしれませんね…。

投稿: 山中優 | 2008年5月17日 13:16

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