コメの値段が上がっている
食糧の世界的値上がりが、日本人の“主食”であるコメにも波及してきた。とは言っても、国産米の価格にすぐに影響を与えるほどではない。しかし、コメはアジア・アフリカの多くの国々で主食となっているから、収入の少ない途上国の貧困層にとっては大きな影響を与える恐れがある。また、多くの国々で主食とされているということは、生産量が多くても国内での消費量も多いわけで、したがって国際取引の量は少なく、よって価格の変動幅も大きい。そうなると、主たるコメの生産/消費国は、国内のコメ価格防衛のためにも輸出を控えることとなり、このことがさらに国際価格の上昇につながる。そんなことが今、実際に起こっているようだ。
7月付の『日本経済新聞』によると、国際取引価格の参考指標となるタイ産のコメは、長粒種1級(100%精米)の平均輸出価格が2日、1トン当たり827ドル(約8万4千円)となり、1週間前の672ドルから一気に2割強値上がりした。今年初めの価格に比べて倍の値段だ。日本のコメ価格は、農水省の2月の調査で、ブレンド精米の卸売価格の平均が1トン当たり約30万円と、タイ米より4倍近くする。だから、国産米がすぐに価格競争力をもつわけではない。
同紙によると、コメの急騰の直接原因は、ベトナムやインドなどが自国内の流通を確保するために輸出規制をしたこと。ベトナムは3月25日、年間輸出量の上限を定め、インドは4月1日に、高級種を除くコメの輸出を全面的に禁止した。3月末にはエジプトも10月までの輸出停止を決めているから、タイ産米に買いが集中しているという。世界のコメの生産量は約4億2千万トンと多いが、各国内部での消費も多いため、国際取引の対象は約7%の3千万トンほどしかない。この中で、気象変動による長雨や洪水などがあると今年の収穫量の減少も予想される。このため、輸出業者の間では、コメ価格が年内に1500ドルを超える可能性もささやかれているという。
短期的な値上がり原因は上に書いたとおりだが、この背景には、原油高騰による肥料など生産コストの増大、ヤシ油などのバイオ燃料増産のためのコメの作付面積の減少などがある。2月の香港のコメ価格は、前年同月比で23.4%上昇したため、さらなる値上がりを心配した消費者が3月下旬、コメの買いだめに走る騒動も起こっている。中国の温家宝首相は31日、国民の不安沈静化のために、「香港へのコメの供給は保証する」と訪問先のラオスで声明を出すはめになったという。
コメの輸入量が多い国は、インドネシア、フィリピン、ナイジェリア、EU、イラクなどで、コメの国際価格の値上がりは、これらの国々でのインフレ要因になる。フィリピンは消費量の約15%に相当する180万トンを輸入するというが、3月下旬、ベトナムから年150万トンの供給を3年間受ける覚書を締結し、アロヨ大統領はコメ生産者への緊急支援(総額50億ドル)を命じたという。また、7日付の『ヘラルド・トリビューン』紙によると、同国政府は、コメの買いだめは“経済破壊行為”として取り締まるとの声明を出した。この罪での最大の罰は、終身刑という。
アメリカではバイオエタノール・ブームで農家が大いに儲かっているが、アジアの米作農家は、零細なものがほとんどで倉庫をもたないから、自家用以上に収穫があった場合は、収穫の時点(値段が最も安い時)にほとんどを売ってしまうという。国連の食糧農業機関(FAO)では、コメの値段は今後、ブラジル、ウルグワイ、バングラデッシュ、インド、インドネシア、ベトナムでの収穫が始まれば少し落ち着くと見ているが、その場合でも気候の良し悪しが重要な要素になるだろう。
谷口 雅宣
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コメント
谷口先生
小麦の次は米が来たのかぁ~。いよいよ食料危機到来を感じます。これから米の生産は日本の農家でも認められてくると思います。しかし、一時の減少や増加だけを見ているとそのものの本当のものは見えてこないんだな、と日々のご文章を読んで感じました。
私の実家は周りや親戚が農家をやっております。苺中心にやっている農家、メロン・すいかをやっている農家と様々です。ちなみにうちは専業農家ではないため趣味でほとんどの食べ物を作っています。しかし、自給自足ではありません。大量にできたものは母が配っています。父が作り、母が配るという循環?農家です。(笑)
投稿: 多久 真里子 | 2008年4月 9日 08:24
生きて行くと言う事は本当に大変ですねえ、、平和ボケしている日本は大丈夫でしょうか?ボケたまま生きて行ければ幸せ?、、(笑)、私は"日の光"と言う地元の農家から!毎月10キロ2500円で頂き自動精米機にかけて食べていますからブレンド精米卸価格の平均より安いですね!それに時季時季の野菜等々も度々下さるのです、ですから外食しても殆ど我が家の方が美味しいのです、私が手伝っていた時代は牛や馬で田んぼを耕し、種米から田植え、草取り、刈り取り、天日干し、脱穀等々全て手作業でしたからその苦労は体がしっかり覚えています、今は機械化が進み重労働から開放されていますがそれでも長い間丹精こめて育てて行きますから大変な作業には変わりありません、細部に問題点はあるにいたしましても現在の日本は未曾有の平和繁栄自由の只中にいて日々の生活を謳歌しているのではないか!と思いますが途上国や世界の状況変化に目を向けてしっかり対応して行かなくてはならないのだなあ!と言う事を副総裁の現状分析報告から感じさせられました。
投稿: 尾窪勝磨 | 2008年4月 9日 11:30
尾窪さん、
>細部に問題点はあるにいたしましても現在の日本は未曾有の平和繁栄自由の只中にいて日々の生活を謳歌しているのではないか!と思いますが<
戦後の一貫したコメ禁輸政策があるため、日本の農家はぬくぬくとして生きてきた……そういう側面があると思います。しかし、コメの国際価格が国産米の半分以上になってくると、どうなるのかと思います。現在の日本のコメの値段は、政府の買取りがあるから、この値段です。諸物価高騰によって政府の補助金の支出が増えると、コメの買い取り価格を下げることも考えられ、日本のコメが国際市場に出る可能性が増えるかもしれません。
投稿: 谷口 | 2008年4月 9日 15:20
御指摘有難う御座います、
確かに現在の状況が保障された訳ではありません、時局は自らの力を遥かに越えて、川の流れの如く刻々と変化、あるいは急変して行きます、如何なる事が起ころうとも、その日その時うろたえる事のない様に、常に変化に対応出来る心の柔軟性を堅持しながら、国に頼るのではなく、どんな状況になっても、生ある限り「飢え死にしなければ良いや、、」位の軽い気持ち、明るく前向きにありの儘の姿で生き抜く!と言う信念だけは失わない様に心を耕す修行、宗教心を心して忘れない様にしなければならない!と考えています。
投稿: 尾窪勝磨 | 2008年4月10日 01:42