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2008年4月 4日

“エコタウン”構想

 イギリスのブラウン首相が打ち出した“エコタウン”の構想が今、彼の地で論争を呼んでいる。イギリスは、環境意識の高いヨーロッパの中でも、ひときわ意識が高い国と言われているから、こんな構想が現実化するのだろう。この構想は、都会に住む人々に対して温暖化ガスの排出削減を求めるのではなく、都市化の進んでいない地域に低炭素の技術や制度を駆使した町を新たにつくり、そこへ都会からの移住を進めることで、国全体の排出削減を行おうとするもののようだ。4月2日付の『ヘラルド・トリビューン』紙でジェームズ・カンター氏(James Kanter)が伝えている。

 それによると、エコタウンに指定される予定の地域はイギリス全体で約60カ所で、そのうち最初の15カ所がまもなく発表される。ところが、多くのイギリス人はその指定を待ち望んでいると思いきや、事実は逆で、どうしたら指定から逃れられるか頭を悩ませているという。カンター氏は、それらの候補地の1つである中部イングランドの村、ストートン(Stoughton)を取材して報告している。この村がエコタウンの指定に反対している理由は、ここが静かな農村であり、住民はそのことに満足しているからだ。この田舎の村に、政府の構想で謳われているような最大で2万軒の家屋を新たに建設すれば、環境保全どころか環境破壊になる、と住民たちは心配している。また、この種の開発は、“エコ”の名がついていても結局、開発業者に好きなように利用されてしまう、と恐れている人も多いという。

 イギリスでは、住宅から排出される温暖化ガスは国全体の約4分の1というから、この分野での排出削減は欠かせない。政府は、現存の住居の改善や改良を進めて排出削減をするよりも、全く新しくインフラを整備した上で低炭素の住宅を建設する方がコストがかからないと考えている。しかし、候補地の住民に言わせると、このような“エコタウン”構想は、これまで通りの田舎の風光や自然環境を損なう恐れがあり、“自然を守る”という目的で進められる開発が、本当に目的通りに進むかが疑問視されているのだ。
 
 キャロライン・フリント(Caroline Flint)住宅相は、エコタウンは、上下水道の敷設、地域社会の重視、歩行者や自転車、公共交通機関の優先などの面で、従来のものとはまったく異なる新しい集落になるという。住民は、徒歩10分以内で学校や病院、健康施設を利用することができ、自動車を使うのは半数以下の世帯に限られる。また、それぞれの町には、一定割合以上の緑地を設置する義務がある。そして、“低炭素住宅”の購入者には様々な形で税制の優遇措置が講じられるという。しかし、近隣住民の心配は、そういう特別な場所をつくればつくるほど、流入する自動車の数が増える可能性である。彼らの予測では、新しいエコタウンができれば、今より3万台も多くの車が周囲を走るようになるとしている。
 
 さて、生長の家が考えている“森の中のオフィス”構想だが、これは今のところ政府や行政から特別な支援を受ける予定はまったくない。その中で、候補地周辺の住民に我々の目的を理解してもらうためには、イギリス政府が打ち出している以上の明確なビジョンが必要だろう。我々の仕事がどのようなものとなり、周辺の経済や住民の環境にどう貢献するかなど、具体的な“青写真”をしっかりと描く段階に来ていると思う。

 谷口 雅宣

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コメント

谷口雅宣先生
本日のブログを拝見して、昨年9月に公開された、映画「ミス・ポター」を思い出しました。「ミス・ポター」は、あの『ピーターラビッド』の作者の生涯を描いたもので、晩年は、イギリスの湖水地方の自然保護に印税で尽力尽力されました。このシーンが最も印象に残っていました。現在は、角川エンタティメントからDVDが発売されているようです。
以下に、HPの言葉とHPを掲げます。

<1年に1、2冊のペースで新作を発表し続けていたビアトリクスは、1913年、カンブリア州の弁護士、ウィリアム・ヒーリスと出会い、生涯2度目の恋に落ちる。ヒーリスと結婚した後のビアトリクスは、湖水地方に永住し、作家や画家としての活動を止め、牧羊と自然保護活動に専念、消滅しつつある地方の自然保護のために、ナショナル・トラストの設立に尽力した。夫の助けを得て、さらに農地や土地を買い続け、1943年、77歳でこの世を去るまでには、湖水地方の4千エーカーもの土地の所有者となっていた。
ビアトリクスの素晴らしい遺産は、ナショナル・トラストに贈与され永遠に保護される土地と、全世界の子供たちに遺した、「The Original Peter Rabbit Books」に収められている23の小さな物語である。>
ナショナルトラストとは
<19世紀末、産業革命の影響で自然破壊が急速に進んでいたイギリスで、美しい自然や歴史的建造物を守ろうと立ち上がった3人の市民によって始められた。その後、市民からの寄付金や寄贈、遺贈などによって土地や建造物を取得し、保存、管理をしながら、一般に公開していく組織をつくろうと、1895年に非営利法人「ザ・ナショナル・トラスト」が設立された。1905年には、「ピーターラビット」の生みの親ビアトリクス・ポターが、湖水地方の美しい風景を守るために土地を買い取り、ザ・ナショナル・トラストにその維持管理を委ねた。現在は世界中に広まったナショナル・トラスト活動の先駆的役割を果たした協会なのだ。>
http://www.excite.co.jp/cinema/misspotter/intro.dcg


投稿: 久保田裕己 | 2008年4月 5日 20:30

私は住民の考えの方が正論でエコタウン建設移転移住に掛かる膨大な時間と費用を多くの人々が望んでいる都市化して大自然を破壊するよりも守った上で全て温暖化ガス排出削減に使った方が得策の様に思います、単独の"森の中のオフィス構想"とは全てにおいて規模が違いますが地区周辺の住民の一員にならせて頂く、、と言う謙虚な姿勢と環境保護に対するオフィスの姿勢を充分説明納得して頂いた上で(全員一致は勿論ないでしょうが)後々必ず喜ばれると言う確信の元に移転されれば問題は出て来ないと考えます。

投稿: 尾窪勝磨 | 2008年4月 6日 00:36

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