« 食糧危機が近づいている? | トップページ | 地上資源文明への転換 »

2008年3月23日

素鳳館の人形

 生長の家の講習会で鳥取県米子市に来ているが、前日の夕方、2年半ぶりに市内を歩いてみた。宿舎のホテルの近くに米子市役所があるが、その敷地に隣接して建っていた「素鳳館」という木造の建物の跡地がどうなっているのか、気になっていた。この建物は、かつて講習会で来たときにスケッチをし、その絵が絵葉書にもなったのだが、前回ここを訪れた際、ブルドーザーによって取り壊されているのを目撃して驚いた。歴史的建造物はできるだけ残しておいてほしいのだが、この木造の館は、米子市にとってはそれほど重要な建物ではなかったのかと、寂しく思ったものだ。で、今回、その場へ行った私を迎えてくれたものは、駐車場を完備した吉野家の牛丼店だった。

 これと類似した現象は、米子市の各所で見られた。東京や大阪でもよく見かけるブランド店や大企業の看板が増え、特徴的な町並みが消えていく。旧く個性あるものが廃れ、新しい没個性的なものが栄える。これを文明の進歩と考えるわけにはいかない。そんな中で、前回ここを訪れた際に立ち寄ったコーヒー専門店があるのを見つけ、妻と私は喜んでそこでひと時を過ごしたのである。
 
 講習会終了後、市内の皆生(かいけ)温泉にある「素鳳ふるさと館」という所へ立ち寄った。「素鳳」の名に惹かれたからである。そこで知ったのは、「素鳳」とは、ある個人の雅号であるということだ。この個人とは、書道家の坂口真佐子氏(1908年~1997年)で、この人が長年にわたって収集してきた雛人形、御所人形、衣装人形などのコレクションを展示するために昭和43年に造ったのが「素鳳館」だった。「素鳳ふるさと館」には、素鳳館に収められていた伝統的人形コレクションが展示されていた。それと同時に、今はなき素鳳館のちょうど向い側に位置する米子市立山陰歴史館でも「素鳳展--春をつげるお人形たち」と題して、雛祭りの季節にちなんだ人形展が行われていた。素鳳館のコレクションは、日本人形のほか西洋人形、江戸時代からの絣・更紗、装身具、調度品など約2000点にも上るという。
 
 私は、雛人形にはあまり興味をもっていなかったが、今回、江戸時代からの雛人形の変遷を眺めてみて、近代以降の日本人の、女の子に対する思い入れの深さをしみじみと感じた。日本の文化は“男尊女卑”などという単純な言葉では表現できないと思った。雛人形の表情は多様で生き生きとしており、着衣は贅を極めているだけでなく、女子が他家へ嫁いでいく時に持参する家具や調度品を模した、精巧なミニチュアが数多く、展示品には添えられていた。それは、現代の人形に添えられるプラスチック製のミニチュア家具などとは違い、本物と同じ工程を経て作られるミニチュアの陶器や漆塗りの調度品なのである。それらはもちろん、一般の市民が持てるものではないが、女子に対する心遣いが上流階級と一般市民とでそれほど違うとも思えない。そういう文化が、現代の雛人形にも継承されているのだと知った。
 
 ところで、我が家にも娘のために買った雛人形がある。何段にもなる大袈裟なものではなく、男女の内裏雛だけのものだ。娘はすでに家を出て自活しているが、妻は今年も3月3日を前にしてそれを部屋に飾り、子供たちを呼んで食事会を催した。江戸時代と比べ生活習慣も住宅事情も相当変わり、他家へ嫁ぐ娘に持たせるという昔の習慣はなくなったが、心遣いは共通していると思う。人形の文化は女性が継承するものなのだ、と感じた。
 
 谷口 雅宣
 

|

« 食糧危機が近づいている? | トップページ | 地上資源文明への転換 »

コメント

雅宣先生

嬉しいメッセージありがとうございます。

愛知にきて数年の月日が流れました。 三河で育ち 三河で結婚され 今も三河で 生活をされているかたとお友達になりました。

この3月のはじめに 「おこしもんつくるから家にこない?」というので 彼女の 自宅にいってきました。

私は おこしもんときいたとき 徳川家のおこしいれからくるのかと思いましたら 友人が 「これは お菓子の型を おこしてつくるから おこしもんというのよ!」と 教えてくれました。なにをおこすかというと 日光東照宮の彫刻のようにみごとにほられた 木でできた型に 練った米粉を つめてそれを おこし〈持ち上げて〉台の上でたたくのです。型はたくさんの種類があり、 お内裏様とお雛様 富士山 鯛 桃 おしどり 竹の子etc..そしてなぜか ドラえもんも。できたところを 八町味噌でたれを作ってぬって食べるのです。 来年は 型をみつけて自宅でしたいと 思いました。

雅宣先生 いつも建築のお話を嬉しく思います。もちろんご存知と思いますが 愛知の生長の家の教化部の 建築は とても ユニークです。 きたころ いつも 静かに 眺めさせていただきました。 建築の表面の色もおしゃれに思います。 玄関をはいって左には 京都の絡西の竜安寺の石庭を表現された スペースがあり ラセン階段は未来都市ブラジリアの教会建築にそっくりな 太陽光線をめいっぱい使ったひろがりがあります。大広間は まるで船の中にいるような天井つくりで ノアの箱舟のようにも想像できます。 食堂には 禅のことばのきざまれた 龍安寺の 吾唯足知の石とそっくりな石があります。いつも どんな建築家がどんなおもいでつくってくださったのかなあと 楽しくなります。 今 愛知にいさせていただくことに 感謝でいっぱいです。本当にありがとうございます。

愛知県 有松在住 亀田 文   

投稿: 亀田 文 | 2008年3月24日 12:39

亀田さん、

 興味ある話、ありがとうございます。

 おこしもん…ですか。お内裏様とお姫様に味噌をつけて食べてしまうっていうのは、何かスゴイ習慣ですね!(笑)

投稿: 谷口 | 2008年3月24日 13:34

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 食糧危機が近づいている? | トップページ | 地上資源文明への転換 »