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2008年3月29日

「農地から燃料」ではいけない

 22日の本欄で「食糧危機」の可能性について触れ、現在この可能性に向かって相互連動して動いている4つの要素を挙げた--①中進国の経済発展に伴う動物食の増加、②気候変動による農業生産の不安定化、③石油の高騰、④バイオエタノール・ブーム、がそれだ。この順番に私はこだわらない。が、④について、やや楽観していたところがあった。それは、自動車の燃料にバイオエタノールやバイオディーゼルを使うことは、ガソリンを使うよりも温暖化を推進しないと考えていたのである。しかし、4月7日号のアメリカの時事週刊誌『Time』の記事を読んで、その楽観論が揺らいできた。

 もっとも本欄では、バイオ燃料の環境への貢献度に疑義をはさむ記事を何回も書いてきた。それらの疑問点は、①同じ農地を自動車と人とが奪い合う関係におく、②森林破壊を促進する要素がある、③食糧の値上げを招く、④気候変動を招く、などだった。にもかかわらず、私が頭からこの技術を否定しなかったのは、「地上で育てた植物を燃料にすることは、植物の成長過程で吸収した炭素を放出するのだから、大気中にCO2を新たに排出することにはならない」という議論に納得していたからである。ところが、上記の記事は、その議論は部分的には正しくても「木を見て森を見ていない」とし、「燃料用に植物を育てることは、現状ではまだ非効率的な土地の使用法であり、奇妙に聞こえるかもしれないが、食料を地上で育て、石油は地下から掘る方が我々にとってよい結果が得られる」と書いている。そして、地球温暖化問題に関して、「現状では、バイオ燃料は解決策の1つなどでは全くなく、解決すべき問題の一部なのだ」と結論している。
 
 記事が問題にしているのは、ブラジルのアマゾンやセラードなど、大気中のCO2の吸収に絶大な役割を果たしてきた世界中の森林が、昨今のバイオ燃料ブームによって急速に減少しつつあることだ。それがどうやって起こるかを図式的に示そう--「アメリカのバイオエタノール・ブーム」→「原料であるトウモロコシの大増産」→「ダイズの作付面積の大幅な減少」→「ダイズの値段の高騰」→「ブラジルでのダイズ作付面積の拡大」→「ブラジルの土地の価格高騰」→「アマゾンやセラードの違法または合法の伐採」。これと似たパターンが、インドネシアなどの東南アジアにおけるヤシ油の増産と熱帯雨林の伐採の関係にあるという。そして--これが一番問題なのだが--アメリカでもブラジルでも東南アジアでも、森林伐採やバイオ燃料の栽培、精製、販売に関わっている人々は大抵、経済的繁栄を大いに享受しているのである。
 
 超大国の中心者である政治家の決定が、地球全体にどれほど重大な結果をもたらすか、と思い知らされる。アメリカでのバイオエタノールの大幅増産は、ブッシュ大統領が昨年の一般教書演説で打ち出した政策である。この政策にもとづいて今、大いなる資金が世界中に投入されている。上記の記事によると、バイオ燃料への投資額は、1995年に世界全体で50億ドルだったのが、2005年には380億ドルに達し、2010年には1千億ドルに上ると予測されている。これは、イギリスのバージン・グループのリチャード・ブランソン(Richard Branson)氏や投資家のジョージ・ソローズ氏(George Soros)のほか、GE、BP、フォード、シェルなどの世界的大企業が参加しているからだ。今行われているアメリカの大統領選挙でも、民主党の2人の候補者はバイオエタノールの利用をさらに促進すると公約している。だから、動き始めたこの大きな潮流の方向は、早期に変えなければならない。

「農地から燃料を採る」のではいけないのだ。バイオ燃料は、農地以外から、CO2を極力出さずに、しかも森林を破壊せずに得るのでなければならない。

 谷口 雅宣
 

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コメント

副総裁先生

ありがとうございます。
≪「農地から燃料を採る」のではいけないのだ≫

全くその通りだと納得しました。
バイオ燃料のために森林の崩壊が進んでいる現状は早期に対策を打たなければ取り返しのつかないような気がします。

ヨーロッパが進めているCO2の排出権の売買も環境という仮面をかぶった、ヨーロピアンスタンダードの経済政策のような気がします。

友人の植林事業の推進で、ある大手自動車メーカーの環境担当の所へ行ってPRしたのですが、植林はいいことは判っているがCDMに加算されないから難しいとのことです。

ヨーロッパの基準は、植林はCDMに加算されないのです。
植林によってCO2は吸収され、酸素が放出されるにも拘わらずです。

要するに植林が環境に良いことが判っていても、自社のCO2削減にカウントされなければ意味がないとのことです。

そして、そのCO2削減の排出権で一番儲かるのはヨーロッパなのだそうです。

この話しは本当なのでしょうか?

投稿: 佐藤克男 | 2008年3月30日 11:48

地球温暖化を防止する為
1、「農地から燃料を採る」のではいけない!
2、「バイオ燃料は農地以外からCo2を極力出さず、しかも森林を破壊せずに得る」のでなければならない!
3、熱帯雨林の伐採、森林の伐採が一番の問題だ!
4、アメリカ大統領の民主党2人の候補者は「バイオエタノール(農地から採る)の利用をさらに促進する」と公約している、動き始めたこの大きな流れの方向を早期に考えなければならない!
と問題点は御指摘により、はっきりしています、農業生産者にこれを求める事は出来ません、もちろん消費者の力も意識改革が進み努力はいたしましたとしても弱いものです、バイォ燃料を食料以外から得る技術の急速な進歩はありますし、自然エネルギー獲得の技術も同様に急進していますからますますこの部門に投資を急増させればそう遠くない将来に化石燃料に頼らなくても良い時代は来るものと思います、最大の問題で効果の有るのが世界の森林伐採禁止と植林ですからこれこそが各国首脳の早急に実践すべき最良最善の方法ではないでしょうか?これは地球が無政府状態では不可能です、世界の政治的トップ指導者の人類としての叡智の選択として是非早期に決定される事を期待致します。

投稿: 尾窪勝磨 | 2008年3月30日 22:25

佐藤さん、

>>そして、そのCO2削減の排出権で一番儲かるのはヨーロッパなのだそうです。この話しは本当なのでしょうか?<<

 本当かどうか、よく分りませんが、眉にツバをつけた方がいい話のような気がします。

 まず、EUが“儲かる”かどうかの話ですが、ヨーロッパはすでにアルプスの氷河の融解とそれに伴う春の洪水などで、相当な経済的損失をこうむっています。“儲かる”と言った場合、こういう温暖化に伴う被害金額を“儲け”に参入するかどうかで、ずいぶん結論が変わってきます。また、現在EUで行っている排出権取引ですが、これが国連のCDM事業とそこから生まれる排出権とどういう関係にあるのか、私は詳しいことを知りません。もし関係がないのであれば、“儲かる”と言っても、それはEUの域内のどの国からどの国へ金銭が移動するかという話でしょうから、域外の日本にとっては無関係なことであり、世界的にはあまり重要性はないのではないでしょうか?

投稿: 谷口 | 2008年3月30日 22:45

植林は排出枠として獲得出来ないのですか、、?理由はあるのでしょうがそれでは投資資金の目に見える事業が推進されませんねえ、、あくまで技術のみに依って削減して行くとなりますと既に限界近くまでの技術を駆使している先進国はさらなる技術研究を継続しながら、たちまち途上国への資金と技術支援しかありません、それはそれとして止むを得ないといたしましても植林の推進は温暖化防止の車の両輪として欠かす事が出来ない重要なポイント、日本の資金、技術で北朝鮮の禿山や中国の砂漠が緑化されると言うのも悪くないですね!排出枠として何とか獲得出来ないものなのでしょうか?

投稿: 尾窪勝磨 | 2008年3月31日 12:03

副総裁先生

ありがとうございます

《本当かどうか、よく分りませんが、眉にツバをつけた方がいい話のような気がします》

これから、環境については眉唾な尤もらしい理論が百出する可能性がありますね。
気をつけます。
ありがとうございます。

投稿: 佐藤克男 | 2008年3月31日 14:19

以前にもコメントさせて戴きましたが「排出権」で儲かる者、企業、国があってはならない!と思います、つまりサブプライムローンの様な訳の分からないマネーゲームにしてはならないと言う事です、国連は早急に対策と規制を実施して貰いたいと思います(状況が掴めませんが、、)、問題はただ一つ地球全体のCO2を計算通り減らす事だけですから、、。

投稿: 尾窪勝磨 | 2008年4月 4日 11:42

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