“欲望の街”と“霊的緑地”
15日の本欄で、赤坂の末一稲荷神社境内の様子を書いた際、「都会の中に“本来の自然”の活動を盛り上げる空間を拡げていくこと」の意味について触れた。それを端的に言えば、わが郷土、わが街を“欲望の街”に変えていこうとする圧倒的な流れに対して「No」と言うことだと思う。あの赤坂の地には昨年、東京ミッドタウンが出現して地価がグンと上がった。集客力の大きい施設が近くにできれば当然、駐車場の需要も増加する。だから少しでも空いた土地があれば、時間貸し駐車場を設置して利益の増大を図ろうとする動きもある。
しかし、長い目で見た場合、それにどれだけの価値があるだろうか。これによって駐車場を経営する会社の利益は上がり、役員や社員の可処分所得が増える。そうすれば、彼らは街に繰り出すから、周辺の商店の利益も増えるかもしれない。また、それらの商店は改装や改築をしてさらに客を増やそうとする。こうして、六本木・赤坂の古い建物はまた取り壊され、街並みは変わり、さらに客数が増す。これが“経済発展”の黄金律だ。今、中国大陸で起こっていることと、このこととの本質的違いはない。人々の欲望を引き出し、満足させることで、自然も歴史も破壊されていく。
そんな中に、早春にフキノトウが顔を出し、春にはタケノコが伸び、菜の花が咲き乱れ、夏にはスモモやブルーベリー、秋にはクリが実る土地があったとする。欲望に奉仕するのではなく、自然の力の展開に奉仕する土地である。人々に宗教的なメッセージを伝えるのは、どちらの土地の使い方だろうか。温暖化の方向へ突き進む地球社会に対して「再考」を促す説得力をもつのは、どちらの土地の使い方だろうか。それとも、都会の中にあって、こんな考えをもつ人は“絶滅危惧種”に過ぎないのか。
大都市圏にある「生産緑地」が減り続けていることを、18日の『朝日新聞』夕刊が伝えている。生産緑地とは、都市部の緑地を守るために、一定の広さ以上の土地を一定の条件で農産物生産に使う代わりに、固定資産税を軽減してもらえるものだ。この生産緑地が最も広かったのは1995年度で、3大都市圏で1万5576haだった。それが、2000年度には1万5316haになり、2005年度には1万4652haへと減った。10年間で6%の減少であり、面積にすると東京ドーム198個分狭くなったことになる。主な理由は、相続人が相続税支払いの必要に迫られ、生産緑地の指定を解除して業者に売却したからという。この制度の原則としては、自治体が買い取ることになっているらしいが、面積が狭く公共目的に不適ということで、ほとんど買い取られていないという。
宗教は公益法人なのだから、緑地保全の面で公益に資することができるならば、そうすべきではないだろうか。都市部の神社や仏閣では、境内に駐車場やマンションを建設して、本業の収入減を補おうとする動きがあるようだが、何か本末転倒な気がするのである。大都市がたとい“欲望の街”であっても、その中にありながら人々の神性・仏性を目覚めさせるような、自然豊かな“霊的緑地”を蘇らせる方策はないものだろうか。それが古来からの宗教施設の役割だったと思うのだが……。
谷口 雅宣
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コメント
谷口雅宣先生
昨年12月に開かれた生長の家栄える会の「繁栄特別ゼミナール」で、宮脇昭横浜国立大学名誉教授の講演を聴きました。植栽に関しては、その土地に合った樹木が良いと仰っていました。その講演で宮脇名誉教授は、鎮守の森の素晴らしさを取り上げ、阪神淡路大震災の時や酒田の大火を、鎮守の森や屋敷森が守った例を上げていました。その土地に合った樹木の森を育てるような運動や呼びかけをされるのも良いと思います。
ちなみに、我が家では昨年の台風で塀が倒れ、その工事の際に、せっかく実るように柿の木が切られてしまいました。その代わりに、この土地に合った樹木を宮脇先生の本を参考に春になったら植えたいと思います。
投稿: 久保田裕己 | 2008年2月21日 02:06
我が郷土、我が街が欲望の街へと移り変わる事、温暖化の方向へ突き進む地球社会、都会の中に本来の自然の活動を盛り上げる空間を拡げていこうと言う考えの人は絶滅危惧種に過ぎないのか?と嘆かれておられる様ですが私はそんな事は無い!と思います、その様な考えの人が多いからこそ地球温暖化防止に世界中で各界の人々が日々真剣に討論、模索、実践している状況が大きな世論、うねりとなって地球規模で広がっているのですから、、人類はきっとこの問題を解決すると思います、只、部分的な一面を見れば資本主義社会(社会主義社会も)に於いては経済発展と言う事を無視出来ませんから赤坂の様なケースが出て来るのではないでしょうか?ここでこのバランスを考えると釈尊の言葉「汝ら(人類)この道(貪、ジン、痴)を行かば苦しみ(温暖化に依る災害のみならず様々な障害)の果てに至らん、我すでに苦しみの矢(貪、ジン、痴)を抜きたれば、今こそ汝等に道(貪、ジン、痴を離れる)を説くなり」に耳を傾けるならば政治がその道理を踏まえて経済活動の舵取りをしなくてはならないのではないか?都会の中の祇園精舎はバランスとして必要だと思います、独裁政治なら即断、即決、即効だから早いのですがそうなると人間はどうしても自分勝手になり暗黒の道を進みます、ですから民主主義は良いのですがなかなか前に進みません(泣)、神仏の声ははっきりしているのですから宗教界は率先して頑固に有言実行に徹して一致して貰いたいものだと切に要望致します。
投稿: 尾窪勝磨 | 2008年2月22日 00:33
尾窪さん、
慰めのお言葉、誠にありがとうございます。
ところで、貴方はどちらにお住まいですか? 都会の現状にあまり詳しくないようにも思われますが……。
投稿: 谷口 | 2008年2月22日 14:15
谷口雅宣副総裁様
慰めだなんてとんでも御座いません(泣)私は只思いの儘をコメントさせていただいただけです。確かに私は都会の現状を実感として分かってはいません、私は田舎育ちですから、、、現在は東広島市の"酒都西条(賀茂鶴、白牡丹、福美人、亀齢、賀茂泉等々日本酒の造り酒屋が駅周辺にあり、東に広島空港、車で約15、南に広島大学車で約10分位)の西条駅から歩いて12-13分の所に縁あって住んでいます、現役時代には仕事柄都会に行った事はありますが日本のみならず大都会は映像で見る位で行って見たいと思わないのです、都会は好きではないが住まざるを得ないと言う人達がきっと多いものと推測(不確かですが)しています、その点西条は山は勿論、瀬戸内海までも車で40分あれば行けますので、現状の生活を本当に感謝し、謳歌しています、私は大都会にあって人々はきっと安らぎの場、憩いの場、充電の場としての霊的緑地を求めているものと確信しているのです、今後とも焦らず、無理せず、背伸びせずに率先邁進して頂きたいと切に思っております。
投稿: 尾窪勝磨 | 2008年2月22日 16:48
谷口雅宣副総裁先生
合掌 ありがとうございます。
都市部の「霊的緑地」に関連するかと思いますが、ネット検索をしていましたら、立川に本部を置く宗教法人「真如苑」さんが、興味深い環境プロジェクトを実施されているのを見つけました。
「プロジェクト MURAYAMA」
日産自動車村山工場の跡地140万m2を、明治神宮の森のような人口の森に回復させ、宗教施設だけでなく、市民にも開放された憩いの場所にしようという100年がかりの計画だそうです。
http://project-murayama.jp/index.html
投稿: 加藤嘉寛 | 2008年2月24日 11:46
加藤さん、
興味ある情報、ありがとうございました。
投稿: 谷口 | 2008年2月25日 15:25