« 偽りの古紙配合率 (3) | トップページ | ギョーザ被害はノーシーボ? (2) »

2008年2月 4日

ギョーザ被害はノーシーボ?

 中国で作られたギョーザをめぐる中毒事件が複雑な展開を見せているが、4日付の『産経新聞』に興味ある表が載った。3日午後3時までに厚労省がまとめた「健康被害の発生報告数」という都道府県別の数表である。この表は、厚生労働省のウェブサイトにも掲載されている。それを解説した『産経』記事には、「集計した健康被害の相談件数は46都道府県2117人(被害が確定した10人を含む)に上った」が、この10人以外には問題の殺虫剤「メタミドホス」の中毒が疑われるケースは出ていない、とある。これを読むと、実際の中毒は10人でも、「自分も中毒ではないか」と心配して保健所などに相談した人は、その「200倍」以上の数に及んだ、と解釈できる。多くの日本人がこの件で神経質になっていることがうかがえ、記事も「食べ物による体調不良について、多くの人が敏感になっているようだ」との厚労省の見方を紹介している。
 
 この「200倍」の反応をした人の中には、実際に医療機関を訪れ、医師の診断を受けて入院した人が9人、入院しなかった人が379人いたほか、保健所に相談したが医療機関で受診しなかった人が844人、そして、「その他」の分類の中に875人が含まれる。この「その他」の欄は、厚労省の数表では「当該製品等による健康被害が明らかでない事例」という項目になっている。新聞記事では、そこには「日本産ギョーザを食べて体調を崩した」とか「何を食べたか分からないが、1カ月ほど前に体調不良になった」などという、今回の事件とは「関連性がないと判断された事例」もあるという。これは一種の“パニック反応”のようにも思えるし、また、この期間にギョーザを食べた人が、殺虫剤の成分が含まれていなかったにもかかわらず、実際に病気になったケースがある可能性も否定できない。つまり、一部には「ノーシーボ効果」(nocebo effect)と呼ばれるものに該当する反応が起こったのではないか、と私は推測する。
 
 「ノーシーボ効果」については拙著『心でつくる世界』(1997年)にも書いたが、「医学的な要因によらず、信念や恐怖などの心理的原因で病人の症状が悪化したり、時には死に至るような現象」(p.250)のことである。この逆の反応である「プラシーボ効果(placebo effect)」--医学的要因によらず、信念などで病気が快方に向かったり、治ってしまうこと--は有名だから、多くの読者はご存じだろう。では、実際にどれだけの人がノーシーボ効果で病気になったのだろうか? これを推定することは難しいし多分、正確な推定は不可能だ。しかし、あえて推定してみることはできないか?
 
 そこで私が思いついたのは、各都道府県の人口と、今回の“健康被害”の報告数との関係である。上述の数表を見ると、健康被害は福井県を除くほぼすべての都道府県で報告されている。また、今回の事件はマスメディアが集中的に報道しているから、ほぼすべての日本人が知り、関心をもっていると考えられる。このような状況下でノーシーボ効果が起こる場合、それは人口の多いところは多く、少ないところは少ないと考えていいだろう。もちろん、この関係が成立するためには、「ギョーザを食べる」人が日本全国に平均して散らばっていることと、問題があるとされる銘柄のギョーザが、日本全国に平均して売られていたという前提が必要だ。が、これを調べることは今できない。そこで、これらの前提条件が満たされていると仮定したうえで、健康被害の報告数を人口の多寡との関係で眺めてみた。すると、「人口が少ないのに報告数が多い」ところや「人口が多いのに報告数が少ない」ところなどが分かった。一例を示してみると……

[人口に比べて被害が多い県]
 青森県3.68%(1.14)、群馬県3.02%(1.59)、千葉県6.19%(4.77)、静岡県7.89%(2.97)、滋賀県2.93%(1.1)、奈良県4.11%(1.12)、大分県3.12%(0.96)、沖縄県4.06%(1.09)
 
[人口に比べて被害が少ない県]
 埼玉県0.90%(5.54)、東京都5.34%(9.73)、神奈川県4.30%(6.88)、長野県0.52%(1.72)、長崎県0.28%(1.17)、
 
 上の数字の説明をすると、例えば、青森県には日本の人口の「1.14%」が居住しているが、今回の被害の報告は、全体の報告数の「3.68%」と比較的多く報告されている、ということだ。また、埼玉県には日本全体の5.54%の人が住んでいるが、今回の被害報告のうち同県からの報告は、全体のわずか0.90%だった、ということである。今回の事件で、殺虫剤「メタミドホス」が原因だと確定されたのは、千葉市稲毛区の家族2人、千葉県市川市の家族5人、兵庫県高砂市の家族3人だ。だから、千葉県が「人口に比べて被害が多い県」の中に入っているのは不思議でない。しかし、被害の割合(6.19%)と人口の割合(4.77%)のズレは、青森その他の7県よりも「少ない」ことに気がついてほしい。ということは、今回の健康被害の報告数を「ノーシーボ効果」だけで説明することはできないことになる。
 
 では、ほかにどんな要素が加わってこのようなバラツキが生まれたのだろうか? まず思いつくことは、ギョーザの消費量に地域的な偏りがある可能性だ。これは、ある程度統計的に分かっている。総務省統計局の「家計調査から見た品目別支出金額及び購入数量の県別ランキング」を見ると、ギョーザについて、一世帯当たりの年間の支出金額(平成16~18年平均)が主な県庁所在地別に載っている。これによると、ベスト10は、①宇都宮市(4886円)、②京都市(2855円)、③宮崎市(2737円)、④静岡市(2693円)、⑤さいたま市(2557円)、⑥東京区部(2544円)、⑦新潟市(2520円)、⑧大津市(2503円)、⑨金沢市(2471円)、⑨大阪市(2471円)である。宇都宮市がダントツだが、全国平均は2295円だから、それ以下はドングリの背比べだ。上掲の[人口に比べて被害が多い県]の中には、④と⑧を含む県があるものの、[被害が少ない県]の中にも、⑤⑥を含む県がある。また、栃木県が[多い県]の中に含まれず、青森県や沖縄県で被害が比較的多く出ていることの説明が、これではできない。
 
 ということで結局、今回の中国製ギョーザの日本における被害報告件数のバラツキの原因は、よく分からない。歯切れの悪い報告になってしまったが、賢明な読者の頭に何かヒラメキがあれば、ぜひご教示願いたい。
 
 谷口 雅宣

|

« 偽りの古紙配合率 (3) | トップページ | ギョーザ被害はノーシーボ? (2) »

コメント

賢明ではありませんが、現在感じています事は同じ物を食べても個人差がありますので何とも言えないと思います、勿論ノーシーボ効果も一部には有るとは考えられます、問題は殺虫剤「メタスドホス」が幾ら入っていたかどうか!と言う事実です、報道によりますと生産過程では考えられない数値(数百倍)のものもあり、袋に穴が開いている物も報告されています、生産から消費の間の何処でどの様に混入されたものか?がはっきりしない内にあれこれと滅多な事は言えないと思います、メーカーは原因が分からない内に再起不能になりかねない状況ですがマスコミに潰されたと言う事にならなければ良いのですが、そう言う意味で現時点ではメーカー、消費者に対し共に危惧しています。

投稿: 尾窪勝磨 | 2008年2月 5日 00:47

よくわかりませんが、例えば宇都宮には餃子屋さんが多くあるので冷凍餃子は食べないのでは・・。
 餃子を食べる家庭の割合より冷凍食品をたべる人の割合が重要なのでは・・。
 家事が億劫になる高齢者が多く、外食をする所が少ない所かなぁ・・・。
 よくわかりませんね。
 

投稿: POP | 2008年2月 5日 12:20

単なる思いつきです。(つっこまないでください)
C●●Pの店舗の数の違いだったりして。。


ネットで見ると店舗数は、

群馬7、千葉13に対し、
茨城4、埼玉10。

静岡27に対し、
愛知15、三重3、岐阜5。


…C●●P関係の方、ご愛好の方、ごめんなさい。。。
単なる思いつきです。。。


(不適切でしたら削除お願いいたします)

投稿: はぴ☆まり | 2008年2月 5日 14:02

産経新聞にも少し触れられていましたが、医師の診断を受けて、中国製餃子による健康被害ではないと診断された人の中には、ノロウイルスやおなかの風邪の人が相当数いるのではないかと思いました。年末に私自身が罹った時、自分では、食中毒かおなかの風邪かわかりませんでした。それほど突然に吐き気が襲ってきたからです。翌朝、年内最後の診察をしている病院に行き、「今流行のおなかの風邪ですよ。」と診断されて家に帰りました。私だけかと思ったら、離れて住んでいる兄の会社でも「若い人が次々、今流行のおなかの風邪で倒れて、仕事する人がいないから、今、中国にいる。」と云う電話がお正月に掛かってきました。後日会った都内の友人もこの風邪にやられていました。
ところで昨年の夏、私はガン保険の資料を詳しくみているうちに気づいたら、おなかにしこりができて痛むのです。高校の修学旅行の前にもこのような事があったので、「気のせい、気のせい」と思いましたが、10日も痛みが続くので、とうとうお医者さんのところに行きました。まず、定期的に通っている整形の先生に「こういう時って、外科と内科のどっちに行くんでしょうか。」と相談したら、「そこが痛いのなら大したことないと思うよ。内科でもいいんじゃない。」と言われて、かかりつけのお医者さんのところに行きました。そこで丁寧に診察してもらいましたが、原因がわかりません。詳しい検査を受けるかどうか、とにかく深刻な病気には見えないと、お医者さんも言って考え込んでしまいました。あとの患者さんを待たせて悪いと思ったので、私は、「では、しばらく様子を見ます。」と言って帰ってきてしまいました。家に帰ると、もう、二人ものお医者さんが大したことなさそうと言ったので、自分の恐怖心で作った病気とわかり、とにかく明るく感謝し笑って生長の家の本を読み神想観をして、病気の気を追い払う事にしました。すると、数日後、そのしこりと痛みは消えてしまいました。かかりつけの先生は親切にも、その後2回も様子を尋ねて下さいましたが、至って健康に過ごしています。これが、私のノーシーボ効果及び、その後の体験です。振り返ってみると全くの笑い話ですが、自分で体験してみて、一層心の働きがよくわかりました。

投稿: 前谷雅子 | 2008年2月 5日 17:44

この記事へのコメントは終了しました。

« 偽りの古紙配合率 (3) | トップページ | ギョーザ被害はノーシーボ? (2) »