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2008年2月 5日

ギョーザ被害はノーシーボ? (2)

 昨日の本欄では、厚生労働省が発表した「中国産冷凍ギョウザ等が原因と疑われる健康被害事例の発生報告数」(2月3日時点)という統計表の数字にもとづき、都道府県別の“健康被害”の数字のバラツキに、何か意味のあるパターンが潜んでいないかを考えた。結果は不成功だったが、その原因がわかった。この統計表の数値の採り方は、かなりいいかげんであることが判明したからだ。もとの数値が精確に把握できていなければ、その数値から統計的に意味のある結論を引き出すことはできない。読者には、私の“ひとり相撲”を観戦させることになり、誠に申し訳なく思う。
 
 わが国のお役所は、実に様々な統計を数多くとっていて、それが容易に入手できるという点では、世界でも珍しい方の部類に属する--という話を、私はアメリカに留学中に聞いていたので、役所の数字を過信していたきらいがある。今回の統計でマズイ部分は、厚労省の側がとても抽象的な表現のカテゴリーを作り、そのカテゴリーに当てはまる数値を、傘下にある全国の各保健所に報告させるという方式をとったことだ。もっと具体的に言うと、抽象的なカテゴリーとは、「当該製品等による健康被害が疑われる事例」と「当該製品等による健康被害が明らかでない事例」の2つである。この2つの言葉には、意味の違いはほとんどない。また、「当該製品等」という表現の解釈の幅は、とても広い。この中に、新聞に名前が出ている中国の会社の製品をすべて含むのか、それともギョーザだけを意味するのか、また「等」という言葉には、ロールキャベツは含むのか、あるいは日本製のギョーザも含むのか、含まないのか、……などの解釈は、もっぱら個々の保健所の判断に委ねた、というのが厚労省の担当者の答えだった。
 
 例えば、上述の表にある「当該製品等による健康被害が明らかでない事例」の中では、静岡県の事例が「132」と他より抜きん出て多い。その理由を同県厚生部食品衛生室に訊くと、この中には実際には健康被害がなくても、ギョーザを食べたので不安だという程度の「健康相談」も含めてしまったという。また、茨城県は同じカテゴリーの数字が「0」になっているが、これは兵庫県と千葉県で問題となった特定の製品だけを対象にして、健康被害が疑われる数字を集計した、というのが同県保健福祉部生活衛生課の答えだった。
 
 そんなこんなで、全国の自治体の保健担当部門はまだ混乱している。厚労省もそういう問題を自覚して、2月4日15時現在の集計では、同じ表の項目名をより厳密な表現に変更した。新しい集計では、上に書いた「当該製品等……」という表現は消え、代わりに「有機リン中毒が疑われ、現在調査を行っている事例数」と「有機リン中毒が否定された事例数」の2つになっている。そして、静岡県の欄では後者の事例数が「132」から「15」に減り、茨城県では「0」が「45」に増えている。また、ギョーザの消費量が多い栃木県は、「29」から「41」に増加している。
 
 私も、現時点での混乱した数字をもとに何か意味のあることを言おうとはしまい。
 
 谷口 雅宣

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コメント

厚労省当局が当初、曖昧性のある言葉(そのものズバリに言及していない言葉)を用いて、状況把握を行ったことが、ノーシーボ効果(?)と思われるような状況を全国に波及させ、状況が良く把握されていない一つの原因であると思います。
 曖昧性のある言葉(ピントのずれたピンボケ写真のような言葉)によって、不祥事が起きたり人々が余計な労力(エネルギー)を費やすことは、起こり得ると思います。
 状況分析(状況把握)を行おうとするときは、問題の核心は何か?ということを良く見極めて対処(行動)することと、アクシデントに対処する場合は、第一に行うべきことを第一に行わなければならないと思います。
 何を為すことが相応しいかは、人間智を超えた叡智の導き(判断)によることが必要で、それは、正しい信仰を持つことによってはじめて可能になると思います。
 

投稿: 志村 宗春 | 2008年2月 5日 20:00

私も突然増えた被害者数の報道を見て、「これはプラセボ効果じゃないか?」と思いました

その道の人間なので、プラセボ(プラシーボ)という言葉は昔から知っていましたが、ノーシーボという言葉は副総裁先生の言葉で初めて知りました

統計のことは、私も分かりません

まだまだ寒いですが、体に気を付けて下さいませ。合掌

投稿: hamadakeiji | 2008年2月 5日 22:01

副総裁先生

ありがとうございます
この度の「餃子事件」ですが、
雪印の時もそうでしたがこのような事件が起きると悪乗りして、
痛くも痒くもないのに届け出る不届き者も相当数いるのです。
何がしかの見舞金欲しさに悪乗りするのです。
私の直感では半分ぐらいは、その類いのような気がします。
「日時計主義」とは反してますでしょうか?

投稿: 佐藤克男 | 2008年2月 6日 04:38

確かにこの応用問題は試験官も分からない問題ですから推理は多種多様に及び難題です、現時点では神仏か、もし故意ならば仕掛け人しか分かりません、しかしノーシーボ効果1での分析には驚きました(凄い)、もとの数値(人間の作ったもの)が正確でないならばどうにもなりませんよね(泣)。

投稿: 尾窪勝磨 | 2008年2月 6日 11:41

統計数値より何より被害に遭われた方々の健康をお祈りいたします。
 被害者の事を思いますとノーシーボ云々もう少し時が経ってから論じた方がよろしいのではないかと思います。
 

投稿: POP | 2008年2月 6日 13:48

POPさん、

 ご忠告、ありがとうございました。

投稿: 谷口 | 2008年2月 6日 22:52

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